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コロナ禍で、カンボジアに拠点を置くNPO代表は何を考えたか 青木健太・SALASUSU代表に聞く

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昨年以降、コロナ禍における経済および社会活動の停滞が、全世界の人々の暮らしに大きな影響を及ぼしてきた。そんな中、海外に拠点を置くNPOは何を考え、どのような活動をしてきたのだろうか。カンボジアで10年以上NPO活動を続け、「ものづくりを通したひとづくり」に取り組んできたSALASUSU代表の青木健太氏に、カンボジア全土に広がりつつある独自の「ライフスキル教育」や、コロナ禍での取り組み、そして、これから持続可能な社会を再構築していく上で鍵となる「企業とNPO・NGOの連携」について話を聞いた。(笠井美春)

2008年からカンボジアで取り組んだ「子どもが売られない社会」づくり

SALASUSUというブランドを知っているだろうか。以前もSB-Jに登場した、ハンディクラフト製品を扱うカンボジア発のエシカルブランドだ。バッグや小物などの商品は、カンボジア郊外の農村にある小さな工房で、近隣の女性たちが丁寧に仕立てている。

団体の代表である青木氏は、大学在学中に2人の仲間とともに「かものはしプロジェクト」(認定NPO法人)を立ち上げた人物。2009年から「子どもが売られない世界をつくる」という理念のもとカンボジアに渡り、現地で雇用を生み出すなど、さまざまな社会活動を続けてきた。

その中で誕生したプロジェクトが、カンボジア・シェムリアップ近郊の農村に工房を建て、社会的・経済的に困難な背景を持つ女性たちを雇用し、「ものづくりをする」というものだった。

青木氏は、この活動を原点として独立。子どもの人身売買問題の沈静化に伴い、カンボジアからの撤退を決定した「かものはしプロジェクト」から工房を譲り受けて、2018年4月から新たにNPO法人SALASUSUの共同代表となり、工房で培った「ものづくり」と「ライフスキル」の教育を軸に、「ものづくりを通したひとづくり」を掲げた。そして、女性たちの生きる力を養う独自の人材教育プログラムを開発し、その浸透にも力を注ぐようになった。

なぜ、ものづくりだけではなく「ライフスキル教育」が必要なのか

SALASUSUの人材教育は、工房でのものづくりがスタートしてすぐに始まったのだというが、そこにはどのような理由があったのだろうか。

「ここで働いている女性たちの多くは、小、中学校を中退していたり、不安定な家庭事情を抱えていたりします。そのような環境下では、毎日工房に出勤ということすらも大変なんです。だからこそ、まずは安心して働くことができ、毎月給料が支払われる環境をつくりました。安定した生活ができるようになれば、彼女たちは生きていくためにどうすればいいのかを考えられるようになります。自分の力でどう生きていくかをSALASUSUで考え、学び、生きるために必要な力をここで身につけてほしい。そのための教育もすぐに作り始めました。工房の中で成長し、ここを去ったあとも自分らしく生き抜いてほしい。それが私たちの願いです」(青木)

工房に通う多くの女性は、縫製などの分かりやすいスキルを学びたがると言う。しかし、青木氏から見れば、彼女たちの将来を照らすために必要なのは、縫製の技術以上に、読み書きや計算、自己管理、問題解決、対人関係能力などだ。そこでスタートしたのが、SALASUSUのひとづくり、ライフスキル教育だった。

卒業しても、自らの力で生きていくことのできる人に

SALASUSUで働く多くの女性たちは約2年で卒業をしていく。中にはそのままスタッフとして働く者もいるが、多くは工房の外に出て、新たな人生を歩み始めるのだという。

例えば工房から35キロほど離れたシェムリアップの街は、アンコールワットにほど近く、観光産業が盛んだ。SALASUSUもショップを構えるこの街で、レストランやホテルに勤務する卒業生もいる。また、村で養鶏をしたり、サロンや雑貨屋、朝ごはん屋などのスモールビジネスをスタートする人も多い。

「彼女たちが自信をつけて、自らの進む道を見つけてくれることが大きな喜びです。ここで一緒にワクワクしたり、一生懸命になったりした経験が、彼女たちのこれからの人生を照らし、生き抜く力になってくれたらと思います」(青木)

青木氏は、工房を後にした卒業生ともできるだけ連絡をとり、カウンセリングをしたり、相談にのったりしているという。さらに今後も、卒業生の集まりや、工房イベントに招くなどの取り組みは積極的に続けていきたいと語った。

「卒業生の存在はとても大切です。彼女たちは、私たちがやってきたことに意味があったのかを象徴する存在であり、今工房にいるメンバーの目標でもある。これまでも私たちは、彼女たちの話や指摘から課題や改善点を見つけ、努力を重ねて成長してきました。これからも彼女たちの声に耳を傾けながら、よりよい場所を作っていきたいですね」(青木)

企業とともに、当事者意識をもって社会的課題に向き合うリーダーの育成を

SALASUSUでは、従業員へのライフスキル教育とともに、さまざまな人材教育の仕組みづくりに力を注いできた。

2018年以降は、独自の「トレーナー養成コース」を、他のNGOやカンボジア政府に提供するなど、その仕組みはカンボジア全土へ広がっている。そして今年2021年には、カンボジア政府およびJICAとの協働により、全国の職業訓練所の講師育成プロジェクトを展開する。

「カンボジア全土に講師養成コースを展開することで、さまざまな境遇の人がよりよい仕事につき、安心安全の生活を手に入れられる社会をつくっていけたらと考えています。そして、ゆくゆくはこの活動を世界に輸出できるようにしたい。そのための第一歩です」(青木)

また、SALASUSUがカンボジアでの活動経験を経て開発した「リーダーシップ研修」は、現在、積極的に日本企業へも提供されている。なぜ今、企業はSALASUSUの研修を必要としているのか。それは、企業が社会的課題の解決に本気で取り組もうとし始めているからだ。

「社会的課題の解決において、当事者意識を持ったリーダーシップは必要不可欠です。例えば、資源、環境、不当労働問題において、リーダーが、『自らも無意識のうちにこの問題をつくり出した張本人である』という意識を持っているかどうかで、その推進力は大きく変わるはず。こういったリーダーの育成において、長年、社会課題解決に取り組んできた私たちのスキルを提供するという形で、コラボレーションしています」(青木)

本来は、現地カンボジアのSALASUSU工房を見学したり、スタッフ宅へのホームステイを実施したりしている育成プログラムも、コロナ禍においてはオンライン研修が主流になっている。しかし状況が許すようになれば、またぜひ現地に来て研修を受けてほしいと青木氏は言う。使命感と実行力を持つためには、現地の様子を見て、そこに住む人々が直面している課題に共感したり、自らの中の加害者性を見つけたりすることがとても大切なのだ。

「社会的課題の解決において企業の力は大きいものです。収益性を見い出すことが難しい課題をどう解決していくべきか。企業も私たちも、互いに知恵を出し合い、協力しながら解決をしていかなくてはなりません。社会課題解決のためのノウハウを導きだすことを得意とするのがNGOやNPO。必要な力を持つ者同士が連携し、一緒にやり遂げることができたらと考えています」(青木)

コロナ禍でも、ひとづくりを貫く

新型コロナウイルス感染症の流行下において、政府に職業訓練校として登録しているSALASUSUは、政府からの要請を受け、最小規模の稼働を続けている。しかし、その間でも多くのスタッフが歩みを止めることなく、地元でのスモールビジネスや家畜によるビジネスなどに挑戦をしているという。

「新型コロナウイルスの流行によって、これまで猛スピードで成長してきたカンボジア経済に急ブレーキがかかり、社会不安は高まっています。その中で私たちが行っているのは、休業期間の彼女たちの挑戦をワークショップで共有し、励まし合い、卒業後に歩む道を考えること。この期間を、彼女たちにとって未来を考えるいいチャンスにしていきたいと考えています」(青木)

スタッフ全員がこの危機を乗り越え、よりよい未来を手に入れてほしい、と語る青木氏。その言葉に大きく頷いていたのは、今回、取材に同席していたブランドディレクターの菅原裕恵氏だ。聞くと彼女は、SALASUSUのブランド立ち上げ期に、デザイナーとして3カ月間の予定で参画。活動中に、ここで自らのやりたいことを発見し、そのまま活動を継続することにしたのだという。

「SALASUSUでは自分の仕事フィールドを制限されません。常に、あなたはどうしたいのかを問われ、自然と自分と向き合う機会が多くなりました。その結果、心からやりたいと思える仕事を見つけ、そこに力を注ぐことができています」(菅原)

SALASUSUのHPで展開している「SALASUSU Paper」では、そんな菅原氏がやりたかったこと、「作り手の成長と幸せが育まれる、ものづくり」に出会うまでのストーリーと、そこに込めた思いが描かれている。また一方ではコロナ禍において、「工房で働く前は今と同じくらい辛かった。(中略)お金がない苦しさはその時と似ているけれど、気持ちは少し違う。自分に今何が起こっているのか、この状況をどうやって乗り越えていくのかを、自分でちゃんと考えられている感じ。だから、しんどいけどなんとか乗り越えられると思える」と語る現地の女性スタッフの言葉なども綴られている。

過酷な状況下でも、しなやかに生きていこうとする女性。自らの望む仕事を見つけ、その実現に邁進する女性。SALASUSUはそんな女性たちを育んでいる。これからの時代、社会に必要なのは、彼女たちのもつ「しなやかさ」だ。

今回の取材を通して、SALASUSUから発信される「ひとづくり」のあり方は、今後、女性活躍やコーチングなどにも広がっていくのではと感じた。そして、その教育の中に、レジリエントな社会づくりのヒントがあるように思えてならない。

NPO・NGOと企業。「ひとづくり」における今後の連携にも、引き続き注目をしていきたい。

SALASUSU: https://salasusu.com/

青木健太  SALASUSU Co-founder / CEO
1982年生まれ。2002年、東京大学在学中に、2人の仲間とともに「かものはしプロジェクト」を創業。2008年から児童買春解決のためにカンボジアに渡り、貧困家庭出身の女性たちを雇用し、ハンディクラフト雑貨を生産・販売する事業を統括する。2018年4月、NPO法人SALASUSU共同代表として独立。「ものづくりを通したひとづくり」を活動コンセプトに、独自の教育プログラムを開発し、現在は、そのプログラムを工房からカンボジア全土、そして世界に広めるべく日々奮闘中。

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笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。