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子どもたちの学びを、学校から地域へ、そして世界へーー地方留学と創生を支える「学校魅力化」とは

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高校魅力化を支援している沖縄・久米島高校の生徒

「地方留学」という言葉を聞いたことがあるだろうか。海外ではなく日本国内の、例えば自然豊かな地域の高校などに、他地域から子どもが移り住み通学するというものだ。2011年以降、日本では地方移住が増加傾向にあるが、近年では、この地方留学にも熱い視線が注がれている。今回話を聞いたのは、全国各地で「高校魅力化プロジェクト」を支援しているPrima Pinguino(プリマペンギーノ)の羽鳥圭氏、跡見愛美氏、小野ひとみ氏。さまざまな地域で、子どもたちが「生きた学び」と「希望の進路」を獲得できる環境づくりをサポートしてきた彼らは、そこで何を見てきたのだろうか。学校の魅力化、そして地方留学が地域と子どもたちに与える可能性について探っていきたい。(笠井美春)

「学校の魅力化」によって、地域創生の障壁である学校統廃合を食い止める

少子高齢化が進む日本では、現在多くの地域で学校の統廃合が進んでいる。公立高校においては、ここ10年で約450校の減少、およそ9校に1校が統廃合されているという。では、この統廃合は、その周辺地域にどのような影響を及ぼすのだろう。

羽鳥氏

「学校がなくなることで困るのは、そこに通っている子どもたちとその家族だけではありません。教育環境が整っていないことで、子育て世代の流出が起こり、移住者の流入も見込めなくなります。そして、少子化はますます進み、地域の活性化を望むことができなくなってしまうんです」(羽鳥)

そう語るのは、Prima Pinguino地方創生事業部 部長の羽鳥氏。統廃合は離島や山間部など周縁部から行われるということもあり、その地域にとっては致命傷になりかねないという。地域にとって、学校を失うことは、子育て世代を失うこと。つまり、地域創生において、学校の統廃合は「避けなければならない大きな壁」なのだ。

「この問題に対し、学校を魅力的することで廃校を阻止しようと動きだした人たちがいます。私たちは、そういった全国の自治体、地域の方々、そして先生方の支援をすることで、地方創生に貢献できればと考えています」

独自カリキュラム・公営塾・公営寮で取り組む、学校の魅力化とは

同社が、高校魅力化支援事業を手掛けるきっかけとなったのは、2007年に開始した島根県の「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」に代表の藤岡慎二氏が参画したことだった。

入学者の減少から廃校危機に直面していた同校。しかし、3つの島からなるこの地域唯一の高校が廃校になってしまえば、「地域の活気が失われる→子どもの流出が加速→未来の担い手不足→まちの文化や産業が衰退」という負の連鎖に陥ってしまう。それを食い止めるべく3町村が協議し、子どもと保護者、地域にとって魅力的な学校づくりへの取り組みをスタートしたのだ。

隠岐島前高校が掲げたのは、島をまるごと教育の場にする教育カリキュラム。キャリア教育や海外での研究発表など、地域と世界をつなげるグローカル人材の育成を目指して、地域総がかりでプロジェクトが進められた。ここにおいて同社代表の藤岡氏は、プロジェクト全体の企画や、隠岐國学習センター(公営塾)の運営、地域およびキャリア教育の場となる「夢ゼミ」での指導などに携わったという。

「同校では、魅力化をスタートした2007年に89人だった全校生徒数が、2016年には180人となり、廃校の危機を脱するだけでなく、クラスを増設するまでになりました。すばらしいことに、現在も全校生徒の約半数は島外からの留学生。さまざまな地域から、この学校で学びたいと選ばれる学校になり、移住者も増加していきました」(羽鳥)

地域の環境と働く大人との関わりで、子どもの未来を豊かに

同社、地方創生事業部プロジェクトマネージャーの跡見愛美氏は、沖縄県久米島における久米島高校魅力化プロジェクトにおいて公営塾の塾長を経験している。

跡見氏

久米島高校は、魅力的な環境に囲まれているものの、沖縄本島の高校に進学する生徒の増加により、園芸科廃科の危機となっていた。そこで、園芸科魅力化への取り組みがスタートしたのだ。

「選ばれる学校になるためには、カリキュラムの魅力化はもちろん、進路についての不安を払しょくすることも重要です。例えば、子どもが地方留学したいと思っていても、学力や能力が身につかないかもしれないという不安があれば、保護者の皆さんは応援しづらいもの。その面を下支えするのが公営塾なんです」(跡見)

塾では学習サポートの一方で、「ちゅらゼミ」というディスカッションを中心とした授業も展開。「大人の基準って何だろう」「この地域の魅力とは」などのテーマについて考え、研究し、発表する場を作っている。

「このゼミで子どもたちは大きく成長していきます。最初は誰も発言しなくても、授業を重ねるたびに発言ができるようになり、どんどん積極的に。島外からゲストを招いたり、さまざまな大人と触れ合うことで、子どもたちは、誰かと意見交換する楽しみを覚えていきました」(跡見)

長野県の白馬高校魅力化プロジェクトに関わった小野ひとみ氏も、ゼミにおいて、地域の子どもたちが自分の殻を破る瞬間を見ることができたという。

管理部 部長兼キャリア事業部 小野氏

「白馬など子どもが少ない地域は、常に同じメンバーで進級していきます。だからこそおとなしい子はずっとおとなしいままなど、キャラクターが固定してしまいがち。でも、そこに違うメンバーが混ざり合うことで、新しい自分になるきっかけを掴むことができるんです」(小野)

さらに小野氏は、公営塾は子どもたちの「サードプレイス」としての役割も担っていると、その存在意義に触れた。確かに、地方の高校生たちは学校を出ると、家以外に行き場がないことが多い。

「あと少しだけ友達と話したい、親と喧嘩したのですぐには帰りたくない、そういった生徒にとって公営塾は居場所になることができます。さまざまな悩みがある思春期の高校生にとって、そういった場所があることはとても大きな意味を持つのではないでしょうか」(小野)

誰でも通うことのできる公営塾は、学習面以外でも子たちを支える、大きな受け皿を担っているというわけだ。

子どもたちの学びを、学校から地域へ、そして世界へ広げること
それが、日本全域の創生につながる

同社がカリキュラム改革を支援し、「起業家教育」を実施する愛媛・弓削高校

子どもたちを大きく成長させる可能性を秘めた「地方留学」。この実現と成功の背景には、受け入れ地域の行政、学校、先生を含む地域総がかりの「学校魅力化」があった。

羽鳥氏によると、この魅力化はスタートからリフトオフまでに約3年はかかる、息の長いプロジェクト。しかし、少しずつこういった動きが全国的に広まりつつあると言う。

「現在、県全体で取り組もうといった動きもいくつかあります。小規模校だけではなく、日本中の高校がこうしたプロジェクトを推進するようになってほしいですね。魅力化は、子どもたちの学びの場を学校から、地域へ、そして世界に広げていきます。高校生という多感な時期に、たくさんの価値観に触れ、自己や自然環境、社会について考えることは、彼らにとって大きな成長の糧になるはずです」(羽鳥氏)

跡見氏においては、教育の不平等についても是正をしていきたいと語った。この仕事を始める前は兵庫県で塾講師をしていた同氏。久米島に行き、学校外で学ぶ場がない、という環境に驚いたという。

「兵庫県には塾がたくさんあり、高校生たちは多くの学習機会を得ていました。しかし、久米島には塾がなく、学校以外での学習機会がなかったんです。都市部と地方の教育環境差を目の当たりにして、これは平等ではないな、と感じました。学校ではICT教育などが進み、少しずつその不平等さは解消されていますが、まだ行き届いていない部分もあります。だからこそ、私もこの不平等解消に貢献できればと思っています」(跡見氏)

跡見氏の言う通り、教育機会の不平等さは時代とともに解消されつつある。しかしここから、教育機会の均等化とともに、教育そのものの魅力化が全国各地で進んでいくためには、学校教育に関わる大人、周辺地域の大人たちの継続的な働きかけが必要不可欠だ。だからこそ、動き出した地域の人々、先生たちをPrima Pinguinoは支援していきたいのだという。

「どこの現場に行っても教育の最前線にいる先生方は、本当に真摯に、子どもたちの将来のために力を注いでいます。しかしその中で疲弊をしてしまうこともある。子どもたちの将来は、どんな大人と触れ合ってきたかで変わるはずです。だからこそ、先生方にも楽しんで教育の場に立っていてほしいですし、私たちもそうあれるようにサポートしたいと考えています。そして、子どもたちには、たくさんの大人と関わり、社会に触れ、なりたい未来像を描けるようになってほしいですね」(羽鳥)

自らを取り巻く環境が、人に与える影響は大きい。同時に、誰と関わり合いながら学び、生きてきたかが、個々の将来に与える影響も大きいだろう。だからこそ、地域ぐるみで、また日本全体で子どもの教育に関わっていく必要があるのだ。そして、それこそが日本全域の創生にもつながるのではないだろうか。

地方留学については、現在、「地域みらい留学」(一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 運営)がプラットフォームとなり、さまざまな情報を発信している。2020年度は、24都道府県66校が、全国から生徒を募集(1年間の留学については別途、地域みらい留学365として募集中)。7月から10月に開催したオンラインフェスタにも多くの参加者があり、受け入れ校は年々増加中だという。

全国地域で沸き起こりつつある、「子どもたちの高校3年間をもっと魅力的なものに」という動き。今後、学校魅力化の波が、地方から日本全域にも広がる日は、そう遠くなさそうだ。

取材協力:
羽鳥圭 地方創生事業部 部長
跡見愛美 地方創生事業部プロジェクトマネージャー  
小野ひとみ 管理部 部長 兼 キャリア事業部

株式会社Prima Pinguino
〒103-0027 東京都中央区日本橋1-2-10東洋ビル316号室
Prima Pinguino HP:http://pripin.co.jp
高校魅力化プロジェクト HP:http://miryokuka.com

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笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。