SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイトです。ページの先頭です。

SUSTAINABLE BRANDS JAPAN のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

埼玉県全63市町村キーマン展:63人の顔から学ぶ地域の有機的な営み

埼玉県内の全63市町村から一人ずつ、63人の地域の「キーマン」を紹介するというユニークな催しが15日から、東京駅のエキナカ商業施設「グランスタ東京」で開催されている。会場に用意された63台の展示台。そこに大きく切り取られた印象的なキーマンたちの顔と、その活動を表現するものが展示されるほか、20日までの会期中、毎日トークライブを行う。キーマンは職種もさまざまだが機会あるごとに有機的なつながりを生み、街のためになっているという。彼らは実際どんな人たちで、一堂に会することで何が見えてくるのか。地域の営みに着目した「キーマン展」の仕掛け人、PUBLIC DINER(埼玉・熊谷)の加賀崎勝弘代表に狙いを聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本 啓一)

東京駅構内、グランスタ東京のオープンスペース「スクエア ゼロ」に並ぶパネルには、大きく切り取られた人の顔が展示されている。それぞれの展示台には農作物やお酒などの生産品や、さまざまな制作物が並ぶが、中には使い込んだ中華鍋と厨房服が置かれたパネルもあり、単に「生産者と生産品」を展示しているわけではない。写真は埼玉県内の全63市町村から見出された地域の「キーマン」たち。展示品は「活動を表現するもの」だ。

キーマンたちは地域単位で社会の課題を解決するさまざまな活動を行っている。彼らの所属は中小企業や店舗、NPO法人、市町村自治体、任意団体など。解決している課題も地域や人によって千差万別だ。

例えば嵐山町のキーマン、荒神文彦さんは地域交流や子ども食堂を実施している。特産品の梨文化を守る取り組みをしているのは神川町のキーマン、金澤佳代さん。朝霞市のキーマン、山崎幸治さんは「今、必要とされる」ことを目指す書店経営者で、三郷市のキーマン、酒井菜法さんは日蓮宗の僧侶として心と体の健康を考えている、といった具合だ。

ユニークな展示の仕掛け人は、PUBLIC DINER(埼玉・熊谷)の加賀崎勝弘代表だ。

仕掛け人の加賀崎勝弘・PUBLIC DINER代表。埼玉県内で地元愛を育む活動「HOME GROWN PROJECT」の中心的人物。「熊谷圏オーガニックフェス」や「埼玉県全63市町村キーマン展」はそのプロジェクトの一部でもある。

地域と人を訪ね続けて見出したキーマンたち

埼玉県・熊谷生まれ、熊谷育ちの加賀崎氏は2003年、創業35年の大衆食堂「加賀家食堂」を両親から引き継ぎ、リニューアルした。ロードサイドの昔ながらの食堂を若者や家族連れも通う繁盛店に成長させて以来、地域社会に根差した発信を続け、地元愛あふれる店舗を展開。現在はPUBLIC DINER 代表として8店舗を運営し、地域に活気をもたらしている。

加賀崎氏がデザイントラベルガイド「d design travel 埼玉号」に「その土地のキーマン」として紹介されたのは2017年3月のことだ。「2カ月間暮らすように現地を旅して、本当に感動したものだけを『ロングライフデザイン』の視点で、本音で紹介」しているというそのガイドブックは、全国47都道府県ごとに一冊、丹念な取材とデザインの力を活用した構成で、「長く続くもの」・「その土地の個性=らしさ」を選定している。

「『埼玉県には未来のデザインがありました』というナガオカケンメイ氏(同誌発行人)の言葉と一緒に自分自身が『d design travel 埼玉号』にキーマンとして紹介され、その言葉を体現したいと思ったのがキーマン展の最初のきっかけでした」と加賀崎氏は振り返る。

同誌から視点を学び、埼玉県内で未来に向かう広がりのある活動、街のためになっている取り組みをしている人をリサーチした。候補者は少ない市町村で5人、時には15人~20人以上だ。その一人ひとりを地道に訪問し、直接話をしたという。

行政に企画を持ち込み2018年秋、自身が統括プロデューサーを務める「Greater KUMAGAYA Organic FES(熊谷圏オーガニックフェス)」で初めて「キーマン展」を開催した。その後、JR東日本高崎支社が沿線ブランディングを10年かけて行う中で、「目指す方向性が同じだ」と協調して連携。埼玉県や熊谷市といった自治体だけでなく、地元のソーシャル・ファームなどが加わり「地域愛を育む推進協議会」を設立し、鉄道会館(東京・千代田)との共催で、第2回目の開催に至ったというわけだ。

台風被害やコロナ禍での延期を経て、初回開催から2年が経った。その間、継続して取材を重ね、2018年の開催時には見つかっていなかった9市町村でもキーマンを見つけた。さらに今回の「キーマン展」では63人の活動を63本のドキュメンタリームービーに収録し、初めて発表した。

会場のプロジェクターでは63人のキーマンのドキュメンタリー映像を上映している

「キーマン」とはどういう人なのか

加賀崎氏はキーマンの選定を始めた当初、あえてその定義を曖昧にしたまま、足を使って人に会うことを繰り返したという。昼はカフェ、夜は居酒屋で地域の話に耳を傾け、その場所の雰囲気や特有の課題、活動が生まれている環境を肌感覚で感じるうち、課題解決の中にいる人物にある種の共通項が見えてきた。

キーマンの特徴とは、上の世代(レジェンド)の取り組みをリスペクトし、バトンを受けとる魂があること、社会的課題を解決し得る要素があること、何らかのコミュニティをつくっていること、「育む」「耕す」「見守る」「任せる」という農耕的概念をどこかに感じること、だ。

「わかりやすく言えば、『ご自身の活動が、有名とか、無名とかじゃなく、また、大きいとか、小さいとかじゃなく、未来に向かった広がりのある活動でいて、なおかつ、それが結果的でも良いので、街の為になっている人』」――。現場ではそのように説明していた。

キーマンたちの活動のあり方もさまざまだ。鳩山町のキーマン、岡田学さんは森林の中に工房を構える革職人。ネットショップを中心に販売を行っており、現実に誰とつながっているわけでもない。しかし、鳩山町にはこの数年、岡田さんをモデルケースに、移住する作家が増えているという。それを象徴する取り組みのあり様として、岡田さんを選定した。社交的であるかないか、ということを越え、ライフスタイルそのものがコミュニティを形成する一因となって地域を耕している人もいる。

鳩山町のキーマン、岡田学さんのパネル展示(手前)

取材時、たまたま会場を訪れた所沢市のキーマン、角田テルノさんは対照的に、「地域の『なんでも屋』です」と笑顔を見せる。運営する施設、倉庫を改装した「SAVE AREA」内は区画を個人の出店に貸し出すほか、ワークスペースなどを備える。おもちゃや駄菓子を買いに来る子ども、マルシェを訪れる主婦、スケートボードの練習をする若者など、地域の人たちが気軽に立ち寄って「こういう人知らない?」「こういうことをしたいんだけど……」と相談する。

所沢市のキーマン、角田テルノさん。手に持っているのは「SAVE AREA」のワークスペースで制作された「ムサシノキーホルダー」(会場で販売)。パネルに展示しているものは「SAVE AREA」の近所で作られた熊手。所沢市は熊手の生産量日本一。「取り組みを表現するもの」はテルノさんにとって「地域を表現するもの」だったのだろう

「キーマン展は僕がやりたいと思っている、地域から世界につながりを広げるということと同じなので、参加させてもらえるならとにかく参加しようと。キーマンに選ばれたことで、自分のやりたいこと、役割をこれからもしっかりまっとうしよう、と改めて感じています」(角田テルノさん)

地域愛を育み、「持っているもの」に気付くこと

「『埼玉県全63市町村キーマン展』は今を切り取っているんです」と加賀崎氏は説明する。「人類の長い歴史の中には多くの『キーマン』がいたと思います。今、少なくとも直前の世代の取り組みをわれわれが受け継いでいるということです」

トークライブでは過去の「レジェンドキーマン」やこれからの「ネクストキーマン」を改めて掘り起こすという。「ネクストキーマン」を「キーマン展」にするときには、例えば「地域の中小企業」など、さまざまな切り口が考えられると加賀崎氏は広がりを語る。埼玉県内だけでなく、全国の都道府県の市町村、という県外への展開もあり得るだろう。

有名、無名や大小に関わらず、身近で日常的、それでいて地域に「有機的なつながり」をもたらす「キーマン」たち。彼らを見出した加賀崎氏の視点や手法、そしてヒロイズムを強調せず、人間らしい63人の顔を並べるデザイン。キーマンたちを一堂に会する狙いは、彼らの動きを可視化して支援すること、次の世代につなぐことだという。

それに加え、分断の時代にあって「全市町村から一人ずつ」集めるという全体感には、じわりと湧き上がる豊かさが感じられ、共生の姿を伝えているようだ。未来をつくるイノベーションの舞台が特別な場所でなく、地域の日常の営みの中にあることを思い出させる効果もあるのだろう。

「埼玉県全63市町村キーマン展」に足を運べば、実は64人目のキーマンが展示されている。そこにあるのは、誰もが知ったある顔だ。加賀崎氏は「キーマン展」の先に目指すことを、次のように話す。

「昔から、『なんでこんなことやっているんですか』とよく聞かれていたんですよ。その時に『自分が住んでいる町が、良い町のほうがいいじゃない』って答えていました。でも今思えば、それって答えになってなかったんです。

人が働いているところとか、住んでいるところ、学んでいるところには、意識していなくても必ず『無償の愛』が存在していると思っています。それに気づきさえすれば、人にもモノにも、さまざまな関係性に対して優しくなれるし、それで解決する問題もあります。

地域愛を育むという目線から、自分の持っている愛情とか、そういうものに気付くことが大事なんじゃないかなと思います。『なんでこんなことやっているのか』って今聞かれたら、そう答えます」

埼玉県全63市町村キーマン展

【展示期間】2020年12月15日(火)~20日(日)11:00-20:00
【会場】JR東京駅「グランスタ東京」内イベントスペース「スクエア ゼロ」
【ライブ配信】HOME GROWN PROJECT SAITAMA Youtubeチャンネル
【詳細】GREATER KUMAGAYA ORGANIC FES のホームページ及びFacebookをご確認ください。

会場ではキーマンにまつわる物品や「キーマン展」冊子などの販売あり

  • Twitter
  • Facebook
沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。