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「恋愛」の相手は異性とは限らない――三省堂の国語辞典の語釈に変化、「SDGs」など新語も追加

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言葉は刻々と生まれ続け、変化する。「国語辞典はその時代を映す鏡だ」とも言われる。小型国語辞典でシェア上位の「新明解国語辞典」(三省堂)は9年ぶりに全面改訂され「第八版」が19日、発売される。時代を映した追加語の中には「エスディージーズ(SDGs)」や「エルジービーティー(LGBT)」、「生物多様性」など、サステナビリティに関連する語が目立つ。「恋愛」などの既存語の説明では「特定の異性」という表記の多くが「特定の相手」と変更された。三省堂辞書出版部の山本康一部長に同国語辞典の編集哲学と、言葉を通して感じた社会の価値観の変化を聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

れん あい【恋愛】―する(自サ) 特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。「熱烈な―の末に結ばれた二人/―結婚・―小説・―至上主義」

「多様な性」の問題に注目が集まり、「恋愛対象が異性とは限らない」という認識も広がった。三省堂が出版する「新明解国語辞典」は、男女に関わる収録語の中で、第七版までは「特定の異性」という記述だったものの多くを「特定の相手」に変更した。

同辞典は約7万9000語が掲載される「小型国語辞典」。このサイズでは「日本で一番売れている国語辞典」といい、教育の現場での使用者も多い。11月19日、9年ぶりに全面改訂した第八版が発売される。

エスディージーズ【SDGs】[←Sustainable Development Goals] 持続可能な開発目標。国際社会が達成すべきものとして、貧困の撲滅・男女平等の達成・気候変動への対応など十数項目を目標として国連が採択。

新たに追加された語にも、持続可能性の文脈で見かける語が数多い。一部を抜粋すると

「エスディージーズ (SDGs)」「エルジービーティー(LGBT)」「環境ガバナンス」「サステナビリティー」「資源ごみ」「生物多様性 」「ソギ(SOGI) 」「ダイバーシティー (diversity=多様性)」「 二酸化炭素」「フェアトレード」「レッドデータブック」「レジリエンス」「ワークライフバランス」

――など。

東日本大震災きっかけに注目された言葉に変化

山本氏は大辞林編集部の編集長も兼務する

これら追加する語は、辞書編集者や編集委員が日々、各種メディアやSNS、日常会話などから言葉を蒐集(用例採集)し、社会の中での使われ方、言葉の背景を分析、判断して選定、語釈の編集を行っている。2016年に映画化された三浦しをん氏の小説「舟を編む」さながらの作業だ。

「人が社会生活を営んでいく中で色んな物事が生じ、その事態に対応するために言葉も生まれ変化していく――。社会と言葉は切り離せません」

こう話すのは三省堂 辞書出版部の山本康一部長。第八版の改訂を通して言葉の使われ方を観察し「私個人としては、サステナビリティに関連する分野の言葉がダイナミックに動いているという意識があります」と話す。

おとこ【男】←→女 一・人間のうち、雄としての性器官・性機能を持つ方。[広義では、動物の雄をも指す] 二・一人前に成熟した男性。[狭義では、弱い者をかばう一方で、積極的な行動性を持つなどの、伝統的・文化的価値観から評価される特質を備えた男性を指す。また、△いい(悪い)意味で、「奴(ヤツ)」とほとんど同義に使うこともある]「―を上げる/―がすたる/―と見て頼む/いい[=男ぶりがいい]―/たより無い―」・愛人。情夫。「―を作る」四・男の召使。下男。

環境やまちづくりに関わる語では、2011年の東日本大震災からの復興を機に「レジリエンス」という言葉が見られるようになり、原発問題で「再生可能エネルギー」が重要な言葉になったとして第八版から掲載された。LGBTという言葉は「性的少数者の人権を守らなければならない、ということも、社会の新しい意志として生じていることだと見える」として掲載・語釈の編集が行われたという。

既存の掲載語も語意・語義や、その背景を含めて手を入れている。「男」という言葉の狭義の解釈では、従来の「男らしさ」という見方は今の社会背景に照らせば「伝統的・文化的価値観から評価される特質」のひとつにすぎない、というわけだ。

専門用語や複合語など、「百科語彙」と呼ばれる語群は基本的に小型国語辞典に掲載されず、例えば「生物多様性」は複合語(生物+多様性)のため、これまで掲載されていなかった。しかし「ひとつの言葉・用語として世の中に出てきている、と評価、判断」して追加されたという。

「サステナビリティという価値観はこの9年間の、大きなひとつのテーマだと感じています」(山本氏)

「考える辞書」とは

「サステナビリティー」も追加された語。「持続可能性」は未掲載。山本氏によれば「複合語なので、今後検討する」

「新明解国語辞典」は第八版の刊行にあたって、「考える辞書宣言」というコピーを設定した。

「言葉の実態、社会の中でどういう意味を持つのか、踏み込んでいく必要があるだろうというのが『新明解国語辞典』の初版からの姿勢です。そのためには徹底して語釈を研ぎ澄まさなければなりません」(山本氏)

ヘイト スピーチ [hate speech] 特定の人種・民族・性・思想信条の人びとに向けてなされる、憎悪に基づく言論。デマ・捏造(ネツゾウ)・誇張に戻づいた偏見・差別・憎悪をあおり、社会の分断をはかる卑劣きわまる言動や活動。

辞典が社会背景までを考慮するのは「踏み込みすぎ」だという意見もあると山本氏は話す。しかし「国語辞典は一種の、時代の記録であると同時に、規範性を体現しているわけです。何が規範なのかは、実例がどう使われているのか、用例を集めてそれを曇りのない目で思索を重ねて語釈をすることになります」と貫徹する。

例えば「ヘイトスピーチ」という言葉は、社会のあり様としてあってはいけないものだ、という前提の上で言葉が生まれ、流通していると判断した。「卑劣きわまる言動や活動」の記載に「いや、必要悪だ」と意を唱える人がいたとしても、考えを巡らせることになる。

「わからない言葉だけではなく、当たり前に使っている言葉についても辞書を引いてもらいたい。日常生活の中の立ち止まる時間、考える時間、振り返ってみるきっかけにしてもらえれば」と山本氏が話すように、「考える辞書」は利用者の思索をも促すわけだ。

サステナビリティに通じる「革新と伝統のバランス」

一方で変わらないもの、簡単に変えてはいけないものもある。

「言語は変化するものですが、すべてが一様に変化するわけではありません。変化することも必要であると同時に、同じくらい変わらないことによる継続性も大事です。いわば、革新と伝統のバランスの上にあるのだと思います」(山本氏)

辞書ではこれを、記述性(descritive)と規範性(prescriptive)という言い方をする。実際に世の中でこのように使われているものを記述するということと、多様な使われ方に対して規範を示すということ、その両面が辞書には必要だ。

「頑なに変化を拒むことはかえって継続につながらず、継続するために変わらないものを持ちながら、変わるところは変化していく、というのが言葉であり、辞書です。おそらく、『サステナブル』という考え方にも、似たところがあるのではないだろうか、と感じています」(山本氏)

こう ふく【幸福】 現在(に至るまで)の自分の境遇に十分な安らぎや精神的な充足感を覚え、あえてそれ以上を望もうとする気持をいだくことも無く、現状が持続してほしいと思うこと(心の状態)。「祖父は思えばな一生だったと思います/しみじみと―(感)を味わう」

※本文中、囲みの語釈は「新明解国語辞典 第八版」から引用。一部の表記を本サイトに合わせて変更、抜粋しました。

「新明解国語辞典」第八版
山田忠雄・倉持保男・上野善道・山田明雄・井島正博・笹原宏之[編]
2020年11月19日 全国一斉発売(一部地域を除く)

普通版(赤)・白版・青版 定価(本体3,100円+税)
小型版 定価(本体2,900円+税) 
革装 定価(本体5,500円+税)※2020年12月上旬発売予定

スマホアプリ版は「物書堂」で同日リリース予定

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。