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ポストコロナ時代、地方と都市の関係性はどう再構築されていくのか

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2011年の東日本大震災以降、日本では地方暮らしに注目が集まっていた。生き方に選択肢があるのだと気づいた人々は、「これからは、自分らしい生き方をしよう」、「どうせなら地元に貢献したい」など、さまざまな理由で便利な都市を離れ、自然豊かな地方で生きていくことを選んだ。では、2020年に起こった新型コロナの流行は、人々の「生き方、生きる場所への意識」をどう変えたのだろうか。「これからの地域とのつながり方」をテーマとする雑誌『TURNS』を企画・創刊し、現在はプロデューサーとして地域の魅力を発信している堀口正裕・第一プログレス常務取締役に、ポストコロナにおける地方と都市の関係性と、今後の変化について聞いた。(笠井美春)

“個”と“企業”と“地方”
その関わり方は、多様化の時代へ

「東日本大震災以降、日本人は都市の脆さに気づき、“人間らしく生きるとはどういうことなんだろう”と考えるようになりました。そして、今回の新型コロナ感染症の流行を経て、社会の構造ががらりと変わる体験をし、多くの人が必然的に“これから、どう動くか”を考え、動き出しているように感じます」

堀口氏の言葉どおり、移住支援を展開している認定NPO法人ふるさと回帰支援センター(東京・千代田)への問い合わせ件数を見てみると、2012年から2019年でその件数は約7.6倍にも膨れ上がっている(2012年6445回→2019年4万9401回)。『TURNS』は、そういった地方移住希望者と各地の架け橋として、地域の魅力だけでなく、移住者の受け入れ制度や支援策、住宅情報など、その土地で生きていくためのノウハウを、2012年創刊から一貫して提供してきたのだ。

「移住希望者は新型コロナの流行によってさらに増加していくかもしれません。しかし、移住の形は大きく変化すると感じています。というのも、これまでの“生活のすべてを地方に移す”という完全移住型ではなく、さまざまな形の“地方との関わり方”が広がってきたからです」

コロナ禍において、特に都心部では仕事のリモート化が進み、人々の働き方が大きく変化した。その中で、東京の会社に勤務しながらも住居は地方に構え、完全リモートで仕事をする人、地方暮らしをしつつ都市や地方の企業と関わるパラレルワークを展開する人などが増えようとしている。それにくわえ、企業が都市にオフィスを構えることの意味に疑問を持ち、地方への移転をするという事例も増えてきた。これにより、人々は“居住地に暮らしのすべてを置く”という生き方から解放されたのだ。

また、この変化の中で堀口氏は、これまで多かった“個のみ”で地方と関わるスタイルではなく、“個も企業も”さまざまな形で、地方との関わりを積極的に持つようになってきたことに注目しているという。

「今後は、これまで“地方移住をする個人”を対象に施策を打ち出してきた自治体も、体制を見直し、企業のニーズを満たすような環境を用意したり、スピーディーな判断を可能にするなどの変化が必要になります。企業と地方、双方のニーズを満たす場所をつくることができるかどうか、そしてそれをしっかりとPRしていけるかどうか。そこが各地域の腕の見せ所であり、選ばれる地域とそうでない地域の格差を生むポイントになるでしょう」

各地域は、流動的な人の流れの中で、それぞれの技術を幅広く活用する工夫を

堀口氏は今後、「地方へ移住し、そこを終の棲家にする」というような意識も、薄れていくのではないかと考えている。

「これからは働き方の多様化にともない、土地に縛られない生き方を選ぶ人が増えるでしょう。その中で、流動創生という言葉を使う方もいらっしゃるのですが、そこにずっと住むのではなく、ライフステージのどこかで地方で暮らす時期を持つというスタイルも、今後多くなっていくはずです」

確かに、ライフステージによって「どう生きたいか」は変化する。若いうちは都会でたくさんの人から刺激を受けて生きていきたい。子どもを持ったら自然に囲まれた環境で、地域の人たちと共に子育てをしていきたい。土地ならではの自然、文化や習わしを子どもに学ばせておきたい。そういった希望を持つ人も少なくないはずだ。

地方自治体は、こうしたニーズを捉えるべく、“土地ならではの魅力”を発信しなくてはならない。そして、離れ行く人も移り住む人も流動する中で、新たなエネルギーを生み出していく。そういったスタイルがこれからの地方には必要だと堀口氏は語った。さらに、外部人材のスキルを活用し、課題解決をする土壌を作ることも大切だと言う。

「各地域が、魅力とともにSOSを発信することも重要ですね。こんな課題を解決してほしいというメッセージで、共感者を募り、地域外に住む最適な人材と出会うことができます」

すでに広島県福山市や北海道余市町では、地域課題解決のために、副業、兼業の戦略推進マネージャーを公募。積極的に自らの地域外から人材を取り入れ、プロフェッショナルのスキルを生かしたまちづくりが進んでいるという。

地方と都市、双方の良さを生かしあう関係性の構築を

「都会でのキャリアを捨てて、地方で第2の人生を送る、というスタイルはもはや過去のものになりつつあります。定住でも交流でもなく、地域の人々と多様に関わる『関係人口』が今後は急増していくでしょう。そして、各地でこういった動きが活発になれば、地方の課題の解決はますます進んでいくはずです」

例えば『TURNS』が業務提携している、定額で日本各地に住むことができる「ADDress(アドレス)」も、地方の関係人口を増やすサービスだといえる。月額4万円で、全国各地にある家に自由に住むことができるというこのサービスは、日本各地の空き家などをリノベーションして、企業や個人に貸し出す。空き家問題を解決しつつ、多拠点生活という新しいライフスタイルを提唱する新しい時代のビジネスなのだ。

「これまでは“都市VS.地方”という構図が少なからずありましたが、地方にいても、東京の機能、情報や人口の集中によるメリットや、技術を生かすことはできます。だからこそ、地方は都市の良さを再認識したうえで、うまく生かしあう関係性を再構築できればいいのでは、と私自身は思っています」

ポストコロナ時代、働き方や生き方の多様化によって、地方と都市の境界線があいまいになった。その中で「生かしあう関係性」を新たに築いていくことが重要なのだ。

都市を介さず、地域から世界へ
LOCAL to LOCAL の可能性

「地方と都市がそれぞれの魅力を生かしあう関係性の先に何があるのか」を、堀口氏に問うと、「生かしあう文化が、地方と都市だけでなく、地域と企業、企業と企業、地域と地域に広がり、日本全体での広域連携が可能になるのでは」との答えが返ってきた。

「例えば、織物文化のある地域同士、発酵文化に強い地域同士、コスメ原料の生産地同士など、さまざまな交流によって新たな商品を開発したり、ビジネスをスタートしたりできるのではないでしょうか。そこに行政も絡み、官民連携で動いていけばよりダイナミックに、面白いことができるはずです」

すでに大阪府八尾市では、これに先駆けた取り組みがあるという。八尾市は、ブラシや文具、ゴム製品やアルミなどさまざまな工場が数多くある、ものづくりのまち。それらの企業が協働した「みせるばやお」という事業では、ワークショップなどを通して、人々にものづくりの魅力を発信し、さらに技術を魅せ合い、共有することで大きなイノベーションを生もうとしているのだ。

「地元企業35社ほどでスタートしたこの事業ですが、今では120社ほどが参加するように。そこには地域外の企業も参加していて、八尾市から大きな波を作ることに成功しています。こういった動きは、地域から地域へどんどん広がっていくのではないでしょうか」

また、この「みせるばやお」のように “地域資源をうまく生かしている事例”を、地方から海外に向けて発信することも堀口氏は考えている。これは、人口減少や少子高齢化という課題先進国の日本から、「地域産業活性化のソリューションモデル」を世界に提示することにつながる。

RENEWの工房公開、ワークショップ風景。2020年開催は10月9-11日

「福井県鯖江市、越前市、越前町で開催される漆器、和紙、メガネなどの工房一斉開放イベントRENEWは、まだスタートして5年ですが、来場者4万人を集めるだけの力を持つようになりました。その中で、新たな事業が生まれたり、移住者も増えたりしています。これは、地元にある資源を上手に使って、収益を生み、新たな雇用の創出や事業継承も可能にする事例。こういった事例を集め、それを世界に発信したいと考えています。それが世界各地で先進課題を解決する糸口になったり、産業の魅力そのものが伝わって新たなビジネスが生まれたり、そういった動きにつながるといいですよね」

LOCAL to LOCALから、世界へ。その動きは今後加速し、地方と都市の距離が縮まったように、世界との距離もますます縮まっていくのかもしれない。

「生かしあう」ことをエネルギーに
ここから、また次の時代へ

気軽に世界を飛び回ることのできないポストコロナ時代、まずはここにある物を見つめ、その価値を知ろう。そして、価値あるものの魅力を、人々の交流によって高め合おう。世界中、どこにいてもその魅力を発信することはできるのだ。インタビューの中で、堀口氏はそう語った。

確かに、コロナ禍で社会の構造は大きく変容した。特に都市部の暮らしは大きな変化を余儀なくされた。しかしこれにより、地方と都市の境界線は融和し、実際に現地に行くことは難しくても、さまざまな交流が可能になったといえる。

地域創生、教育格差、地方と都市が抱える課題は多い。しかし、堀口氏の語るように、この交流や新たな連携はそれらを解決に導き、次の時代の力になるはずなのだ。

先ほど紹介した、福井県の工房一斉開放イベント「RENEW」は、2020年の開催では、その名前を「Re:RENEW」としている。コロナ禍により先の見えない未来においても、「さらにまたここから“更新”を続けていこう」という決意がそこには込められていた。

さらにまた、ここから。地方と都市の関係も「生かしあうことで」、また、ここから再構築されていくのだ。

堀口 正裕

株式会社第一プログレス常務取締役/TURNS プロデューサー
1971年、北海道生まれ。早稲田大学卒業。(株)第一プログレス常務取締役。国土交通省、農林水産省等での地方創生に関連する各委員、全国各自治体の移住施策に関わる。ラジオ、テレビ出演他、地域活性事例に関する講演多数。
東日本大震災後、これからの地方との繋がりかたと、自分らしい生き方、働き方、暮らし方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。「TURNSカフェ」や「TURNSツアー」、「TURNSのがっこう」といった、地域と都市の若者をつなぐ各種イベントを展開。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。

第一プログレス
〒100-0006 東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館ビル9F
https://ichipro.co.jp/

TURNS 
“Uターン、Iターン、Jターンのターン”、“暮らしや社会を見つめ直す、折り返し地点としてのターン”、“そして、次に行動を起こすのはあなたの番(your TURN)”。3つの意味が込められた、地域と地域や移住に関心のある人々をつなぐ雑誌。偶数月20日ころ発行。
https://turns.jp/

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笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。