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【ニューノーマルを生きる】

願う世界をどうつくるか――白木朋子・ACE事務局長がコロナ危機の中で考えたこと

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歴史を振り返った時、決して忘れることのない日々を、私たちはこの数ヶ月の間に経験してきた。多くの人たちが目に見えないところでさまざまな役割を担っていて、その支え合いによって私たちは生かされているのだということにあらためて気づかされた。安全で平和な環境があってこその日常があることのありがたみも実感した。最前線に立ち続けている医療、ライフラインに関わる人々、すべての方々にまずは感謝と敬意を表したい。この地球にも。

国際協力NGOのいま

危機が弱いところからダメージを与えていくことも目の当たりにしている。私が所属するNGO、ACEは20年ほど前から児童労働や貧困などの国際課題に取り組んでいるが、今回のコロナ危機で、極度の貧困のなかで暮らす人が今年だけで4000万人から6000万人増加し、児童労働者の数も増えるとの予測がある(ILO&ユニセフ、2020)。私たちが活動するインドやガーナのコットンやカカオの生産地には、2月以降、渡航できない状況が続いているが、これまでも一緒に活動を進めてきた現地のパートナーNGOとともに、遠隔からではあるが現場の状況を把握しながら活動を続けている。

感染者が53万人に達したインドは特に心配である。3月25日に始まった全国的なロックダウン(都市封鎖)により(現在は一部地域を除いて緩和)、活動するテランガナ州でも外出禁止の措置が取られた。その影響は大きく、仕事を失い収入源を断たれてしまった零細農家や日雇い労働者が困窮状態に陥っている。政府支給の米や給付金だけでは生活できずに借金に手を出す人も増えている。学校は休校措置が取られ、オンライン授業の導入が決まったものの、電気などの基礎的なインフラ整備もままならない活動地域では、インターネット環境を整えるのは夢のまた夢。教育機会に恵まれなかった子どもたちがさらに取り残されてしまうリスクが高まっている。借金返済などのために子どもたちが労働へと逆戻りすることや、さらに苦しい状況に追い込まれた親のストレスが、休校で家にいる子どもへの虐待や暴力につながることも懸念される。日本での資金調達にも影響が出ていて、厳しい経営状況となっているが、「今こそ誰ひとり取り残さない」を掲げ、緊急対策を講じているところである。

もともと厳しい状況にあった人たちがさらに窮地に追い込まれることは、日本でも起きている。休業で仕事を失うと同時に住む場所を失いステイ・ホームと言われてもできない人、自宅にインターネット環境がなく学校のオンライン授業を受けられない子どもなど、経済格差やそれに伴う教育格差は構造的な問題で、世界でも、日本でも、フラクタル(相似形)に起きている。

どんな社会の中で自分はどうありたいかに目を向ける

ウィルスとの闘いがいつまで続くのかがわからない中、身体的に「健康であること」はより一層重要になっている。これからの社会のあり方を考えるとき、注目したい概念のひとつに「ウェルビーイング(well-being)」がある。身体的・精神的・社会的に良好な状態を表す概念といわれる。しばらくの間、私たちの社会では「経済成長=物質的な豊かさ=幸せ」が信じられ、がむしゃらに働き経済成長をめざす時代が続いてきた。

今回の危機が私たちに問いかけていることは、今まで信じてきたことをこれからも持ち続けてよいのか、ということとも受け取れる。外出自粛などの制限が課されたことで、自分にとって大事なことについて再発見した人も多いのではないか。身体が健康で、心も満たされ、社会とのつながりもよい状態とはどのようなことなのか。「新たな生活様式」や「ニューノーマル」といった、「やり方」を考えていく前に、まずはどんな社会の状態の中で自分はどうありたいのか、自分の深いところにある願いに目を向けたい。

今の世界の状態について目に留まったことがいくつかある。「石けんと水で手を洗う環境が自宅にない人たちが世界で30億人(世界人口の40%)」(2020年3月16日、ユニセフ)、「中国では年間およそ700万人が大気汚染によって亡くなっており、今回の新型ウィルス対策による大気汚染の改善で、数万人の命が救われた可能性がある」(2020年3月18日、CNN)。数日前に流れた、「シベリアで38度を観測した」との衝撃的なニュースも。米国に端を発し世界中で運動が広がっている、人種をはじめとする差別や分断。見えない痛みや苦しみが人々の中にあるのを感じている。

働き方が変わり、私の生活に新しく加わった習慣がある。仕事前の散歩である。満開の桜やさわやかな新緑、雨の恵みなど季節の移ろいを感じながら、自分自身と向き合う大切な時間となっている。仕事と子育てに必死に走り続けて疲れていた自分や、新鮮な空気を吸いこんで喜んでいる身体に気づき、少しスローダウンしてもいいのでは、そんな気持ちが沸き起こったりもした。

大切にしたいことは、自分らしくいられる時間的・空間的スペースや、自然との調和、人々がお互いに存在価値を認め合うこと。与えられた環境の中で、自分自身をよい状態に保ちながら、願う世界の状態を作り出していくこと、これが大きなチャレンジだ。周りの人たちとの協力なしでは成し遂げられない。本当にできるのか、との恐れも目の前に立ちはだかる。それでも、願いでつながる力を信じて、ちょっと肩の力を抜きながら、ひとつひとつ自分にできることを続けていきたい。

「今こそ誰一人取り残さない。ACE SDGsプロジェクト2020」(7月15日締め切り)

たくさんの方々の温かいご支援に心より感謝いたします。困難な状況だからこそ、よりよい世界をめざして活動できるよう、ご支援、ご協力をお待ちしています。
https://readyfor.jp/projects/ACESDGs202

白木 朋子

認定NPO法人ACE事務局長/ 共同創業者
大学でインドの児童労働を研究したことをきっかけに、大学在籍中に代表の岩附由香とACEを創業。英国大学院留学、企業勤務を経て2005年4月より現職。2008年以降は、カカオ産業の児童労働撤廃をめざした現地プロジェクトの立案、企業との連携、消費者向けの教材や映画の開発、メディアや国際会議での発信、ガーナ政府との制度構築など、多様なステークホルダーを巻き込んだ活動を展開。サプライチェーンの労働・人権、SDGsに関する研修なども実施。
http://acejapan.org/

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