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世界の潮流に遅れる日本「再エネ転換急ぐべき」:気候変動プロジェクトで警鐘

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10月2-3日に東京お台場で開かれた「クライメート・リアリティ・リーダーシップ・コミュニティ・トレーニング」は、アル・ゴア元・米国副大統領の気候変動に関する講演(下記リンク参照)に加え、頻発する「気候危機」の現実に日本がどう対応し、人々の意識や行動をどう変えていくのかという喫緊のテーマについて、気候変動の専門家や企業の担当者を招いて議論をした。その中で、日本は「石炭火力発電所を減らし、新規計画を凍結すべき」「再生可能エネルギーへのシフトを鮮明に」など気候危機への対応において日本の大きな問題点が浮かび上がってきた。(環境ライター 箕輪弥生)

2050年カーボンゼロに向けて、日本がすべきことは

これまで14カ国で行われてきた「クライメート・リアリティ・リーダーシップ・コミュニティ・トレーニング」は、43回目の今回が日本で初めての開催となった。同イベントを主催するNPO「The Climate Reality Project」(本部:米国ワシントンDC)は、東京で開催した理由として来年に東京五輪の開催を控え、世界から注目が集まっている国であると同時に、脱炭素社会への道筋において日本が岐路に立つ時期であることを挙げる。

9月にニューヨークで行われた国連気候行動サミットでは77カ国が、2050年に二酸化炭素など温室効果ガスの排出の「実質ゼロ」を表明するなど、世界の目標はカーボン実質ゼロに向かっている。

この背景にあるのはアル・ゴア元副大統領が講演で話したように、気候変動によって世界各地で頻発する自然災害、気温の上昇がもたらす生態系へのインパクトなど、気候危機がすでに私たちの生活を脅かしていること、それを解消するための手段としてCO²など温暖化を進める物質の排出を削減する必要があるという科学的な分析からだ。

U.S. Department of Energy/CDIAC

初日のセッションで、WWFジャパンの小西雅子専門ディレクターは、「すべての国が今パリ協定への目標をクリアしたとしても3℃気温は上昇してしまう」と説明した。

しかし、日本の目標は「2030年までに2013年の水準から26%削減」であり、「野心的とは評価されていない」(小西氏)。

東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は「今の日本を考えると目標の積み上げ型だと課題が大きい」と語る。

その上で「制度の改革、イノベーションなど課題は山積しているが、足元の対策という点では火力発電所の中でもエネルギー当たりの排出量が多い発電所である石炭火力発電所を国内でどうするのか、今後も国外の石炭火力プロジェクトへの支援をしていくのかが大きな論点だ」と高村氏は指摘する。

世界に逆行する日本の石炭火力発電所の新設

米国の石炭火力発電所の計画はほとんどが中止され、既存のプラントも閉鎖が増えている(U.S. EIA via Think Progress)
BP Statistical Review of World Energy

日本が推進する「石炭火力発電所」の新設については、高村氏以外にも多くの専門家が同様の警鐘を鳴らした。

NPO法人気候ネットワークの平田仁子国際ディレクターは「福島第一原子力発電所の事故の後に50基もの新規の石炭火力発電所の計画が生まれ、現在約100基が稼働している上に15基が建設中であり、新規分が稼働すると毎年7400万トンのCO²が追加排出される」と分析した。

このことは「最もCO²排出量の多い石炭火力発電所はストップしていこうと言われている中で完全に世界に逆行する」(平田氏)。

さらに平田氏は「政府が推奨する高効率の石炭火力発電所も1kwhあたりのCO²排出量が800gから700gに減るだけでさほど変わりはない」と指摘した。

ニューラルの夫馬賢治CEOは「石炭火力発電所とセットで開発されようとしている二酸化炭素を地中・水中などに封じ込めるCCSと呼ばれる技術も、海外ではすでに使われなくなった技術」と話す。「CCSのように費用のかかるシステムよりも、再生可能エネルギーという選択肢があるから」(夫馬氏)だ。

三井住友銀行の金井司フェロー役員は、「金融面でも化石燃料を扱うことは座礁資産と見られ、ポートフォリオで大きなリスクとして示される」と話す。

ODI

気候変動イニシアティブの末吉竹二郎代表も「日本が世界の潮流に立ち遅れていることへの危機感のなさ」を改めて指摘した。

グッドニュースは再エネのコスト低下

Bloomberg New Energy Finance

日本の電力は、石炭、天然ガスなどの火力発電に8割以上を頼るが(2018年エネルギー白書)、世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合はすでに4分の1を超えている。ここにも大きなギャップがあると言える。

2050年までにネットゼロにするという世界のトレンドに追いつくには化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギーシフトが必須だが、日本はそれをどのように実現していったらいいのか。

高村ゆかり教授は「グッドニュースは再エネが国内外でコスト低下を果たしていることだ」と話す。

日本が再エネにシフトすべき理由として高村氏は1)再エネの価格の低下、2)脱炭素化の流れ、3)再エネはエネルギー安全保障に対する貢献があることをあげた。

日本では海外に比べて再エネが高いというイメージがあるが、経済産業省資源エネルギー庁の梶直弘課長補佐は、「ここ数年の再エネの発電単価を調査したが、1kwh10円以下の発電所が300件もあった」と価格低下について日本が特別ではないことを示した。梶氏は「国民負担を減らしながら再エネを最大限増やしていく」ことを表明し、そのために更なる発電コストの低下、送電網コストをどう入れていくか、地域との共生を課題としてあげた。

しかし、現実は再エネ導入にさまざまな障害が立ち塞がる。夫馬CEOは再エネ導入に関する問題点を具体的に2つ指摘した。ひとつは「FIT(固定価格買取制度)で発電した電力を使ってもCO²を削減したと見なされないことが企業のハードルになっている」点であり、もうひとつは「送電網を拡充するコストを石炭は安く、再エネは高く負荷をかけるという制度が今まさに始まろうとしていること」だ。

「政府はエネルギー基本計画で再エネを主力電源にすると表明しているが、こういう制度が実際は導入の加速や安定化を阻んでいる」と夫馬氏は分析する。

企業(需要家)からの声は届くのか

Bloomberg New Energy Finance

さまざまな課題はあるものの、需要家である企業の再エネに対する要望は大きくなりつつある。自然エネルギーだけで企業経営をすることを目指す「RE100」に加盟する日本企業も24社にまで増えた。

高村ゆかり教授は「需要家、企業そのものがCO²排出の多い石炭、石油から再エネへの転換を求めている」と話し、ソニー、イオンなどRE100に加盟する企業は今年6月、政府に対して2030年までに再エネを50%まで引き上げるべきだと提言した。

イオンの三宅香 執行役は、「再エネのマーケットはあり、リスクをとって作る人もいる。買おうという需要家がいることを示すのが企業の責任だと思った」と話す。

アップルなどはサプライチェーンにも100%再エネを求めている時代である。末吉氏は「他の企業より先にネットゼロに移行することがビジネスの成功にも近づくことになる」と指摘した。

アル・ゴア氏は、講演の中で「たとえば米国における太陽光発電に関連する雇用は、石炭採鉱関連の雇用の5倍近くに上る」と説明し、環境だけでなく経済面、雇用面からの「エコノミック・デジジョン」が求められていることを示唆した。

*グラフはすべて「The Climate Reality Project」より

人間性を軸にして、どう行動するか

筆者と同じくプログラムに参加したSB国際会議サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏は、2日間のプログラム修了後、次のように話した。

「気候の変化による世界の災害を改めてまとめてみると、『気候変動』ではなく『気候危機』であることを強く感じた。世界で起こる災害のニュースが国内で流れることは少ない。国内の状況でさえ、例えば台風15号による千葉県の被災状況の報道のように、少ないと感じることがある。報道の少なさが日本人を鈍感にしているのではないか。メディアの役割が議論されるべきだ。

敢えて冷静な言い方をすれば、参加した約800人の全員が行動を起こすわけではないかもしれない。しかし、1割の人が行動すれば80人の行動。それは大きな『変化の力』だ。

2日間を通じて『人間として、ヒューマニティを軸にどう考え行動するか』という言葉を多くの参加者から聞いた。気候危機への行動はもちろんのこと、これは企業活動にも当てはまる。製品の便利さや性能、安さだけでは競争力にならない時代だ。何を考えて製品をつくり、仕事をしているのかが問われている」

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/