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アル・ゴア元米副大統領が来日、気候変動について2時間半の熱弁

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米国の元副大統領、アル・ゴア氏が立ち上げたThe Climate Reality Projectは2-3日、東京都内で気候変動について学ぶトレーニングプログラムを開催している。アル・ゴア氏はドキュメンタリー映画「不都合な真実」シリーズを始め、さまざまな取り組みを通して環境問題を世界に訴え、2007年にはノーベル平和賞を受賞した。プログラム初日の2日、来日した同氏が自ら気候変動の最新の状況をプレゼン。圧倒的な事例とデータを駆使し、2時間半以上にわたった熱弁に、約800人の参加者が聞き入った。アル・ゴア氏が語った内容を一部要約して掲載する。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

実際のプレゼンテーションではより具体的で豊富な事例や詳細なデータを、数百点に及ぶ生々しいスライド映像を利用して紹介した。

私たちには地球温暖化を止める権利と力がある

写真=NASA

気候危機について、私たちに残されている課題は3つです。「変えなければならないのか」「変えることができるのか」「変える意思があるのか」です。これからまず「変えなければならないのか」という疑問に対するエビデンスを提供します。先に言ってしまえば、答えは「イエス」です。変わらなければなりません。これらのエビデンスの中には、心情的に受け入れにくいものもあると思います。損害は既にもたらされ、多くの危険が表面化しています。だからと言って、気を落とさないでください。というのは、残りの2つの課題、「変えることができるのか」「変える意思があるのか」の答えは非常にポジティブなのです。楽観的な考え方を持つことも可能です。

なぜ大きな変化が必要なのか、というエビデンスは非常に重要です。これがなければ、私たちが直面する危機を示すことができません。これから紹介する事例の多くは日本での出来事です。直近の事例もあります。

スライドは宇宙から見た地球の映像です。ミッションに参加した宇宙飛行士が見た美しい地球です。この宇宙飛行士は着陸こそしませんでしたが、人類として初めて月に行きました。このときのミッションのサウンドトラックはNASAのHPで聞くことができます。休暇中の家族のようです。宇宙飛行士は「カメラがないぞ!カラーフィルムはどこだ!」と叫んでいます。ビル・アンダースという宇宙飛行士が撮影した地球の姿によって、私たちがひとつの惑星に住んでいるということが理解されました。

私たちが晴れた日に空を見れば、大気は広大で無限に広がるように見えます。しかし現実には、私たちを取り囲んでいるのは非常に薄い殻のようなものです。これは非常に重要な事実です。空のなかにある分子の数は無限のものではなかったのです。76億人の人類がいて、人類は強力なテクノロジーを持っています。人類は空の科学的な組成さえも変えることもでき、実際そうなっています。

温室効果の仕組みはご存知の通りです。太陽の光が空を貫通し地球を暖めます。その一部は赤外線として宇宙に戻りますが、一部は大気中に閉じ込められます。これによって、地球の温度のバランスが地球上の生命にとって適切な範囲になるのです。地球は太陽系のほかの惑星に比べて、理想的です。金星ほど暑すぎず、火星ほど寒すぎません。金星が暑いのは太陽から近いからではありません。金星の大気中のCO2の量は地球よりもずっと多いのです。地球の平均気温は15度、金星は464度です。さらに金星では酸性の雨が降ります。

さて、人類は地球の大気に、多くのCO2を排出しています。金星と同じ状態に近づけてしまっているのです。毎日1億4200万トンに及ぶ地球温暖化の汚染物質を大気中に放出し、それは約1世紀の間、大気中にとどまります。さらにこれらの物質がより多くの熱を大気にとどめる原因になります。これが地球温暖化の仕組みです。農業や、特に畜産や、鉱山の採掘など多くの温暖化ガスの重要な発生源がありますが、CO2の最大の発生源は化石燃料の燃焼です。

1年のうち極端に暑い日の日数は統計的に有意なほど増え、現在では30年前に比べて150倍と言われています。過去に記録されたうち「最も暑い年」の上位は直近の5年間です。日本における年間の平均気温はどんどん上昇し、現在と同じペースで温暖化が続けば、今世紀中に今より5.4度上昇すると予測されています。日本では、ほんの数カ月前に温暖化の影響がみられました。猛暑です。1週間、熱波が続き、数千人が病院に搬送され、亡くなった方もいました。昨年の夏には7万1千人以上が記録的な猛暑の中で病院に搬送され、1千人以上が亡くなりました。

日本では昨年7月、41.1度という観測史上の最高温度が記録されました。日本気象学会は人間活動による温暖化の影響がなければ、このような熱波は発生しなかっただろうと発表し、世界中の科学者たちがこの意見に賛同しています。2020年のオリンピックでは、観客のために人工雪をテストしていると聞きました。うまくいくことを願っています。

世界の各地で気温の上昇によって人間が住めない地域が出てきています。2019年になってからこれまでで、世界の361箇所で観測史上の最高気温が記録されています。北極海でも昨年、気温が34度に達した日がありました。通常より28度も気温が高い日があったのです。このような熱波が北極海に3年連続で訪れています。

地球の気象システムはエンジンのようなものです。正常であれば、風や水の流れによって、熱帯から極地に熱を再配分し、温度がばらつくようになるのです。しかし温暖化により、例えばジェット気流の方向も変わってしまっています。これは非常に重要なことです。昨年の2月、ジェット気流が2方向に分裂しました。暖かい空気が北極に流れ込み、冷たい空気が南に流れ込みました。そして北極の気温が上昇し、ローマで大雪が降るということが起こりました。

地球全体で93%の熱が海洋に吸収されると言われています。海はスポンジのような役割を持ち、熱と二酸化炭素を吸収してきましたが、この働きが追いつかなくなっています。海洋の熱量は深海2000メートルでも大きく上昇しています。2018年に史上最高の温度を記録しました。非常に危険な状況です。

大気の気温が上がれば、大気中の水分の含有量が上昇します。カテゴリ5の驚異的な勢力のハリケーンも多く起こっています。ジェット気流の方向が変化して、ハリケーンが同じ場所に長くとどまり、そこで海洋から水分を吸収するのです。ハリケーン「マリア」はカテゴリ1から5まで18時間以内で成長しました。熱帯低気圧は今世紀中に激しさを増します。日本でも、3週間前の台風15号や1年前の台風21号での大阪の被害があり、2005年には大阪は台風により160億ドル相当の損害をうけました。3年前、宮崎県では500ミリの豪雨がありました。

フィリピンでは台風30号で400万人が家を失いました。「気候の大きな影響は最も貧しい人々に多大な苦しみを与える」のです、だからこそ世界中で気候正義が叫ばれています。

N.Y.で破滅的な被害をもたらしたハリケーン「サンディ」。過去には、このような規模の台風は500年に一度発生するといわれていました。それが25年に一度に修正され、今後の10年では、5年ごとに一度発生すると言われています。頻度も破壊力も高まっているのです。こういった異常気象や台風に対して、それぞれの悲劇に注目し「ひとつの台風が強くなったのは気候変動のためだとは言えない」と思っていたかもしれません。しかしそうではありません。個々の台風、それぞれの異常気象が気候変動のために起こっているのです。台風の水分の含有量も変わっています。

海が温かくなることによって陸が影響を受けます。水の循環に、すべてが影響されています。海面から水が蒸発し、雲になり雨が降る。この最初のステップが強化されてしまっているのです。1000年に1度しかなかった記録的な豪雨がこの10年以内に、世界で18回起こっています。

皮肉なことに、気候の変動は豪雨や洪水とともに干ばつをもたらします。日本では、3年前に関東地方で干ばつがありました。フランスでもこれまでなかった干ばつが頻発し、仏政府は干ばつにさらされる農家からの税金徴収を停止しました。インドでは水の危機が深刻です。南アフリカのケープタウンでは、干ばつは気候変動の影響だと市長が発表しました。水道水が不足し、2万人以上が通常の生活を送れないようになっています。

水不足は食糧不足に直結します。ソマリアでは540万人が深刻な食糧不足に直面しています。2018年、イランで深刻な干ばつがあり、経済的損失は40億ドルにのぼりました。想像を絶する水への危機が訪れています。暑い夏に干ばつが起こり、植物が枯れれば、山火事も頻発するようになります。海洋では藻が大量発生し、ビーチが閉鎖されています。

海洋熱波の頻度は1982年から倍増しています。地球の平均気温が2度温暖化すれば、海洋熱波の頻度は20倍になると予測されています。今年6月、水揚げされたムール貝が海洋熱波によって調理済みになっていたということがありました。自然は「注目してくれ」と訴えているのです。

世界の海の酸性度は、産業革命以前より30%上昇しています。海中にCO2が蓄積されているのです。それによって、海洋生物全体にとって重要な役割を果たすサンゴ礁の白化が進んでいます。漁における漁獲量の減少も顕著です。ウミガメの性別は海水温によって決まりますが、昨年、オーストラリアのレイン島ではウミガメの99%が雌になっていることがわかりました。統計学の専門家ではありませんが、異常なことであることは明白です。海洋脊椎動物の個体数も減少しています。原因は明確です。気候危機の深刻な影響が多様性を失わせているのです。

海面上昇によってもっとも大きな影響を受けている都市は東南アジアが多く、経済的な損失では東京も上位に入ります。世界の平均気温が2度上昇すれば、海面上昇によって日本で1800万人が住居を失います。米国・フロリダのマイアミビーチでは満潮時に、街が浸水するようになっています。ワシントンでも同様です。満潮時に雨が降るとキャピタルモールで魚釣りをする人もいます。ホワイトハウス内のオフィスでも、満潮と豪雨が重なったときに床上浸水しました。もし私が大統領であれば、そんなことがあれば気候危機に目を向けますが、必ずしも誰もがそうではないようです。

気候変動は世界の経済にとっても多くのリスクをはらんでいます。投資対象として炭素を考えると、サブプライム同様に炭素バブルが起きているのです。現在発見され、リストに載り、資産として計上されている炭素のうち、パリ協定に整合しながら実際に燃焼可能なものはほぼないのです。22兆ドル分の炭素が燃焼不可能な、サブプライムの炭素の資産です。炭素の価値は燃焼されることが大前提です。しかし燃焼できないのです。それは条約があるから、法律があるからではなく、テクノロジーと市場が変わっているからです。2018年7月に英BP社の戦略責任者は「資源の一部は日の目を見ることがない」と明言しました。

一方で、化石燃料に対しての世界中の政府や政治家が出す補助金は、再生可能エネルギーに対する補助金の36倍です。どうかしているとしか思えません。日本も化石燃料に対して巨額の補助金を出しています。日本の再生可能エネルギーへの投資額は2010年まで増えましたが、それ以降下がっています。世界全体では2017年の化石燃料に対する補助金は20兆3000億円です。これはGDPの3.7%に匹敵します。

さて、転換点がやってきました。私たちは判断しなければなりません。世界中のどの国でもやらなければならないことがあります。私たちの手には解決策があります。「変えることができるのか」という疑問の答えはここにあります。

そしてこれから先、「変える意思があるのか」。2000年時点で、世界の風力発電量は2010年までに30ギガワットに達すると予測されていました。現在、この予測の20倍の電力量が風力で発電されています。そして風力発電量は指数関数的に増加し続けています。特に洋上発電が増えると、発電コストも減少します。

太陽光と風力由来の電力が化石燃料による発電コストよりも安いという地域は、5年前には世界の5%しかありませんでしたが、現在では世界の2/3の地域がそうなっています。今後は全世界に広がるでしょう。再生可能エネルギーのコストはどんどん下がっています。変化は急速に起こっています。これは間違いなく良いニュースです。

例えば米国・テキサスやカリフォルニアのある電力会社は、21時以降の夜間の電気代を無料にしています。これは風力発電量が豊かだから実現しています。日本はどうでしょうか。比類ない技術を持つ国です。福島沖には世界最大の浮体式風力発電設備があります。日本には産業の規模も世界意有数の技術もあります。ドイツ、ポルトガル、スコットランドやイギリスでも風力を利用して大量の電力を発電しています。

世界規模で見ると消費量に対して40倍以上の電力を風力だけで供給することができるのです。さらに、17年前、太陽光エネルギーの市場は年間1ギガワットのペースで成長すると予測されていましたが、現実には2010年の段階で、予測の17倍の成長を遂げています。昨年ではこの予測より109倍も良い状況でした。成長はさらに急速に進みます。ドラマティックなサクセスストーリーが実現しています。

日本でも太陽光の発電量が増えています。感動的な数字です。日本には中国や米国と比較しても太陽光設備が多く設置されています。また、世界中でたくさんの雇用も創出されています。太陽光による発電コストが既存の発電コストよりも安くなる「グリッドパリティ」が世界中で達成されています。グリッドパリティは例えるなら0度と1度の違いです。たった1度の違いと思われるかもしれませんが、水と氷の違いがあるのです。市場ではこの違いは投資の魅力となります。2010年以降、再生可能エネルギーへの投資が増えています。

携帯電話を例に挙げてみたいと思います。非常に大型の携帯電話が登場した当時、米国の最大手・AT&T社がマッキンゼーに調査を依頼しました。「今後20年で、世界全体で携帯電話のユーザーはどれくらい増えるのか?」マッキンゼーの返答はこうです。

「良いニュースですよ! 今後20年で携帯電話のユーザーは90万人にのぼるでしょう!」

現実には今、世界の人口よりも携帯電話の数が多いという状況です。どうして大手のコンサルティング会社が大幅に予測を間違えたのでしょうか。その理由は3つあります。まず、技術が予測よりも急激にコストダウンしたこと。次に品質が一気に向上したこと。そして、興味深いことに、世界の大部分の地域では固定電話すらなく、そのような地域で古い技術を飛び越えて新しい技術を導入したのです。

電力では、例えばインドの人口のうち3億人は現在まったく電力にアクセスできていません。こういった地域では従量制の太陽光発電による電力という新しいビジネスモデルも登場しています。バングラディシュでもソーラー革命が急速に広がりました。バチカン市国は世界で最初のカーボンフリーの国のひとつとなります。チリでは急激に太陽光発電設備の建設が進んでいます。

インドの経済学者は「現在、インドで石炭火力発電に投資をすることは非常に勇気がいることだ」と述べています。世界中でも同様だと思います。石炭火力発電に投資することは勇気がなければできません。また、賢くない人でないとできないでしょう。年間の世界のエネルギー需要を満たせるだけの十分な太陽エネルギーが毎時間、空から降り注いでいます。

インディアナ州で行われた調査では「経済的合理性を考えれば、石炭やガスを燃やし続ける理由はない。誰にとっても太陽光や風力を利用して発電したほうがいい」という結果が出ています。これは経済的な意思決定です。

インドでは石油やディーゼルの内燃機関の自動車を購入することを、今後10年以内に違法にすると政府が公表しています。そして世界でも16の国で段階的に内燃機関の自動車を廃止します。自動車メーカーもEVに移行しています。2025年までに世界のバスの半数は電気自動車になります。27の大都市が、2025年以降はゼロエミッションのバスのみを購入することを公表しています。

米国で今もっとも雇用が伸びているのが太陽光発電関連の業界です。石炭関連の5倍近い雇用です。石炭はもはや過去のものです。しかし政治では過去のもののほうがより影響力が大きいということがあります。特に現在の大統領のもとでは。しかし国民にとっては、未来は太陽光や風力なのです。

公的資金の投入という面では、日本と中国だけが石炭火力発電に大きく出資をしています。日本よりも多いのは中国だけです。――考えさせられますよね。世界の金融機関は「これ以上石炭火力に投資をしたくない」という方向に進んでいます。にもかかわらず、日本の納税者は石炭火力に投資しなければならない、という状況なのです。

これまで30カ国が非石炭電力供給のアライアンスに加盟しています。これは非常に有望なトレンドとなるでしょう。東京では初めて自治体が排出量取引制度を導入しました。日本は何ができるのでしょうか。パリ協定を掘り下げるより強いコミットメントをすることが求められています。新しい石炭火力発電に投資するのではなく、太陽光、風力、地熱に投資をしてはどうでしょうか。また固定価格買取制度を進め、競争を促し再生可能エネルギーのコストをより下げるということも必要です。

もちろん、国内で新しい石炭火力発電の建設を止めるということもひとつの手だと思います。石炭火力発電への補助金をやめるということも考えられます。地球温暖化の原因の1/4は建物のエネルギー効率の問題とも言われています。照明効率を上げることも有効です。なぜこういったことをしないのでしょうか。電気を利用する個人が電気料金を払っているわけではない場合が多いというのも理由のひとつです。そうすると政府のイニシアティブが重要になります。これから先、実は石炭より太陽光や風力の電力のほうが安いのです。収益性も上がります。

政府が変われば皆が幸せになります。これは重要なことです。一方、日本企業は日本政府に先駆けて再生可能エネルギーの導入に取り組んでいます。それはとても頼もしいことです。そして日本でも気候マーチなどが行われています。世界全体が地球の危機を認識し、変えなければならないと感じています。特に若い人たちはより良い将来を望み、そして要求しています。

「最後にNOが出たあとにYESがやってくる。そしてこのYESにこそ、未来の世界がかかっている」という言葉があります。世界でさまざまな革命がおこるとき、最初にNOという大きな声が起こります。そして選択を続ければ、YESという答えが出てくるのです。

私たちはこれからきちんとした判断をしなければなりません。私たちには地球温暖化を止める権利があり、力もあります。地球温暖化は大きな脅威です。皆の力を合わせ、皆をよりエンパワーメントすることが必要なのです。皆の将来を救うということに力を貸して頂きたいと思います。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。