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100年目のサステナブルジャーニー。コーヒーに関わるすべての人たちの幸せのために。

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コーヒーの2050年問題

世界中でコーヒーの需要が高まっている一方、気候変動の影響により、2050年までにコーヒー(アラビカ種)栽培に適した土地は現在の50%にまで縮小すると言われている。2050年まであと30年。喫緊の対応が求められている中、キーコーヒーはインドネシア・トラジャ地方を起点に、コーヒーとコーヒー農家の未来を守る活動に取り組んでいる。

トラジャの直営農園で農園長を務めた経歴をもつ、キーコーヒー株式会社 取締役副社長 執行役員 川股一雄氏に話を伺った。

「幻のコーヒー」復活から始まったキーコーヒーの取り組み

2020年に創業100周年を迎えるキーコーヒー。海外の農園事業から、コーヒーの製造・販売、飲食店の展開まで、コーヒーを中核とする幅広いビジネスを展開している。

同社のインドネシアにおける農園事業は、約50年前、トラジャ地方に伝わる「幻のコーヒー」を現地の人々とともに復活させたことから始まった。530haという広大な自社農園を開墾し、ノウハウを地元の農家にも提供し、各農家が栽培した豆を適正な価格で買い取る仕組みを構築。復活を遂げたトラジャコーヒーは、一大ブランドへと成長すると同時に、コーヒー農家の生活水準向上にも貢献してきた。

「トラジャコーヒーを復活させて以来、再び幻となることのないよう、気候変動への対応も含めて、環境・農家・企業の共存共生を第一に事業を行ってきました。ですから、2050年問題への取り組みも、これまでの延長線上にあると考えています。現在、①気候変動に耐性のある品種開発、②モデル農園での試験栽培、③収穫後の豆を追熟させる加工技術、の3つを柱に、活動を進めています」

① 気候変動に耐性のある品種開発:IMLVT(国際品種栽培試験)

キーコーヒーは、2016年、より幅広い団体と連携しコーヒー業界の課題解決に取り組んでいくことを目指し、持続可能なコーヒー栽培を目指す国際的な研究機関World Coffee Research(WCR)との協業をスタート。WCRが進めるInternational Multi-Location Variety Trial(国際品種栽培試験、IMLVT)に参加している。IMLVTとは、気候変動や病害虫への耐性がありながら豊かな味わいも備えた新品種を開発する取り組みだ。これまでコーヒーの栽培試験は、それぞれ育成された地域内で行われることがほとんどだったが、IMLVTではブラジルの従来品種をインドネシアで栽培するなど、世界を横断した栽培試験を行い、そこから得られたデータを元に新品種開発を進めている。

キーコーヒーは、自社農園の一角、約2ヘクタールを実験圃場とし、通常はインドネシア外で栽培されている品種を含むコーヒーの苗木35種(最終的には42種の予定)の栽培試験を実施。IMLVTは世界26か国で展開されているが、一企業が2ヘクタールもの土地を提供している例は多くない。

「この地で50年近く現地農家とともにコーヒーをつくり、信頼関係を築いてきたからこそ、一過性ではない腰を据えた挑戦ができるのだと思います。人材や運用資金の確保も含めて、長期的視点で取り組んでいます。

IMLVTに参加してから3年。品種による適性の差が明らかになってきました。同様の研究が世界中で行われており、データは全てWCRに集約されます。こうして集まったビッグデータは、様々な研究機関などに公開され新品種開発がグローバルに進められていくのです」

② モデル農園での試験栽培

IMLVTから一歩進んだ取り組みとして、トラジャ地方で高いパフォーマンスを発揮し得る品種を、モデル農園で試験栽培する準備も進められている。

「当社のIMLVTの試験農園では、約40の品種を栽培していますが、あと数年経つと、これまでトラジャ地方では栽培されていなかったけれど、実はこの地域と相性の良い品種が分かってくると思います。こうした可能性のある品種は、モデル農園での試験栽培にシフトしていきます。

もともとモデル農園は、地域の人々に適切な栽培方法等を伝える目的で、トラジャ地方の各地に設置しているものですから、IMLVTとの協業で得られた成果も、いち早く発信し、地域に還元していきたいですね」

また、モデル農園では、インドネシアで深刻化する土壌流出への研究も進められている。

「インドネシアのコーヒー農園は標高1000メートル以上の山岳地帯にあり、多くのコーヒー農園は斜面につくられています。斜面ですから、ある程度の表土流出はやむを得ないのですが、近年の降水量増加により流出量が増加。土壌流出が深刻な課題となっています。テラスをつくれば良いのですが、メンテナンスが大変で、各農家が取り組む解決策としては現実的ではありません。そこで、コーヒーの下に下草を植えるカバークロップを推奨し、モデル農園で展開しています。栽培に手間はかかりますが、その分収益があることをデータで示し、地元農家の理解を進めていく予定です」

③ 収穫後の豆を追熟させる加工技術:KEY Post-Harvest Processing

3つめのアプローチは、収穫後の豆に対するユニークな加工、世界初の精選技術「KEY Post-Harvest Processing」だ。脱肉工程(外果皮と果肉を取り除く工程)前に0℃以下でも凍らない特別な環境下で貯蔵し「氷温熟成(R)」を行うことで、コーヒーチェリーの追熟を促す。この技術は、2050年問題への対策としても有効だという。

「気候変動により昼夜の寒暖差がなくなるとコーヒーチェリーが十分に熟さず、品質が落ちてしまいます。このような場合でも、この精選技術で追熟を行えば品質が向上。市場価値が維持され、農家の人々の生活を守ることができるのです。現地でこの技術が使えるように、農協のような団体を新たにつくりノウハウを伝えていくことを検討中です」

2030年までにサステナブルなコーヒー栽培方法を確立

最後に今後のビジョンについて伺った。

「先に挙げた①②③については、あと5年程度で一定の成果が見えてくるでしょう。2030年までには、新技術や仕組みを確立し、トラジャ地方に定着させることを目指しています。

さらに次のステップとしては、トラジャで育んだノウハウを他の国にも広げていきたいですね。例えば東ティモールやパプアニューギニアは緯度が近いので、私たちのノウハウが役立てるのではないでしょうか」

常にコーヒーと、コーヒー農家に寄り添ってきたキーコーヒー。今後も、世界中のどの地域でも共存共生を第一に、キーコーヒーの挑戦は続いていく。

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