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”麹”の力で食品ロス解消へ、鹿児島県の焼酎種麹会社が取り組み

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麹菌を利用する食品残さの液状飼料化技術「GEN麹リキッドフィード」プラント

世界的な課題である食品ロス。これを日本古来の“麹”の力で解消しようと取り組んでいるのが、鹿児島県霧島市の焼酎用種麹メーカー「河内源一郎商店」だ。同社が開発した食品残さの液体飼料化技術は、麹をふりかけるだけでそのまま家畜の飼料となり、しかもそれを食べた家畜は生育が2割アップ、さらにその糞で作った堆肥は野菜を1.5倍に成長させるという。大手コンビニチェーンの関連会社でも導入が進むユニークな食品リサイクルシステムについて、同社の山元正博会長に話を聞いた。(いからしひろき)

低コスト、高付加価値のエコ飼料

発酵中の食品残さ。麹菌が発酵を促す

2001年5月に施行された食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の概要、通称「食品リサイクル法」。多くの企業が食品残さの飼料化や堆肥化に取り組んでいるが、大きな課題が“コスト”だ。食品残さから飼料を作るには加熱乾燥のための燃料代などに少なからず費用がかかる。またそうしてエコ飼料を作っても市場には安価な配合飼料が出回っているため、儲けが出にくい。儲からなければ当然、事業として持続することは不可能だ。

しかし、鹿児島県霧島市の焼酎用種麹メーカー「河内源一郎商店」の研究所が開発した、麹菌を利用する食品残さの液状飼料化技術「GEN麹リキッドフィード」は、この課題を克服する可能性がある。

まずは低コスト。殺菌した食品残さに種麹をかけて麹を生育し、そのまま発酵させて液体飼料にするので、一般的な加熱乾燥による飼料化に比べて使用するエネルギー量が極めて少ない。通常、1トンの生ゴミを乾燥するには1万円以上のコストがかかるが、この技術なら種麹の費用を含めても1200円程度だ。プラントの建設費用自体は4トン処理で2000万円程度と通常の加熱乾燥装置とあまり変わらないが、トン当りのランニングコストが圧倒的に違う。

続いては「高付加価値化」だ。液体飼料として家畜に与えると、飼料に含まれる麹由来の酵素の働きで、「家畜の成長促進」「肉質の向上」「エサの削減」「内臓廃棄率の低下」という効果が得られるという。

同システムの生みの親で、河内源一郎商店の三代目である山元正博会長はこう説明する。

「この液状飼料を給餌した豚は通常の配合飼料を食べた豚より2割以上も体重が増えるというデータがあります。肉質については肉の中のビタミンEが増加。ドリップが少なく、焼いても縮まりません。これは細胞膜が強くなり破れづらくなるからです。内蔵廃棄率の低下は腸内の善玉菌が大幅に増加することが原因。腸内環境が改善することで大腸菌症など内臓疾患の問題が解消、回虫などが激減するからです」

“高付加価値化“には、さらに続きがある。

「この飼料をたべた豚は糞が素晴らしいのです。腸内環境がよくなると糞のpHが酸性になるのでアンモニアの発生が抑制され、悪臭が激減します。さらに堆肥化を促進する放線菌の増殖も麹の影響で加速、短期間で良質な完熟堆肥が出来上がります。さらにこの肥料は作物の成長にも好影響を及ぼします。ソバの実で比較したところ、通常の肥料で育てたものより1.5倍多い収穫量を記録しました」

食べ残しから低コストで良質な飼料を作ることができ、さらに良い肥料が作物を大きく育てる。まさに好循環だ。

海洋投棄していた焼酎廃液を再利用

河内源一郎商店・3代目の山元正博会長

この画期的なシステムは一体どのようにして生まれたのだろうか。

そもそも河内源一郎商店は、明治時代に焼酎づくりに欠かせない黒麹菌の分離に成功した河内源一郎氏が創業。現在は国内の焼酎用麹菌の約8割を占める。

その一方で、東京大学農学部を卒業し、農学博士の肩書を持つ3代目の山元正博会長は、30年以上前から麹の健康効果について独自に研究。健康食品などを開発してきた。

飼料づくりに関わるようになったのは、とある国際条約がきっかけだ。

「1996年、ロンドン議定書で焼酎廃液の海洋投棄が禁止されたのです。それまで焼酎を蒸留した後に残る廃液は川に流していましたが、国際条約に違反するわけにはいきません。そこでまず麹菌の発酵熱で廃液を乾燥させる技術を開発しました。乾燥して残ったものは麹の塊。これの生かし方を考えていた時、会社の前にある鹿児島空港がふと目に入ったんです。空港には毎日大量の食品残さが出る。これに麹をふりかけて発酵させたら飼料が出来るのではないかと――」

苦渋の策から生まれた画期的な技術は、2008年に特許を取得。現在はセブンイレブンの関連会社や伊藤ハム傘下の環境ファーム(ただし食品リサイクルではなく配合飼料に使用)など大手食品企業でも導入が進む。東南アジアなど海外への輸出も始まった。

それにしても、日本古来ある「麹」にこのような力があるとは……。

「麹菌には自ら酵素を作り出すほか、ほかの善玉菌を活性化させ、まわりの環境全体を良い方向に持っていく作用があります。いわゆる“共生“ですね。海外では猛毒をつくる有害な病原菌として嫌われる麹菌(Aspergillus/アスペルギルス)を身近な食品づくりに活用しているのは日本だけ。この麹の力を、世界中の食品ロスを解消するために活用したいですね」

日本が誇る食文化が、食品ロスを解消する切り札として、世界に広まる日は近いかもしれない。

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いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。