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布の循環利用、世界で拡大―新システムや素材

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H&Mファウンデーションは、HKRITAと2016年からパートナーシップを組み、技術の開発・商品化に取り組んできた
© H & M Hennes & Mauritz AB

布の「循環利用」が世界で活発化している。香港では、新技術のリサイクル工場が稼働を始めた。布地から繊維を取り出し、新たな布地としての利用が可能になった。ブラジルでは、現金や商品の代わりに余剰布地を用いる「布の銀行」が定着し始めた。オーストリアのメーカー開発の、廃棄綿を再生した布製の服は、世界各地のファッションショーで好評だ。いずれも「サーキュラーエコノミー」(循環経済)の実践例として注目されている。(クローディアー真理)

混紡布地のアップサイクルを可能に

香港でこのほど稼働を始めたリサイクル工場では、熱水処理技術を用い、綿とポリエステルの混紡布地を分離、各々をリサイクルする。H&Mグループの非営利財団であるH&Mファウンデーションのパートナーシップのもと、香港繊維アパレル研究開発センター(HKRITA)が開発した画期的な技術だ。混紡布地の中でも、綿とポリエステルの混紡は特に広範に用いられているにも関わらず、今までリサイクルできなかった。しかし、これからはHKRITAの技術を用い、紡績会社の大手、ノヴェテックス・テキスタイル(本社・香港)の工場で、布地のアップサイクルを産業レベルまで引き上げて行うことができるようになった。

現在のところ、ポリエステルを繊維として取り出し、新しい布地を作り出すための材料に、綿をセルロース粉末として、機能性製品や再生繊維の材料にするところまでが行われる。今後HKRITAは、分離後の繊維とセルロース粉末の質をさらに向上させ、同業界をよりサステナブルな方向に導くことに主眼を置く。工場では生産ラインを3つに増やし、使用済み布地から、各々1トンのリサイクル繊維を産出する計画だ。

並行して、消費者向けにコンテナーサイズに縮小した工場と店も設けている。消費者に使用済みの衣類を持ち込んでもらい、アップサイクルする工程を実際に見てもらうためだ。H&Mファウンデーションのエリック・バン イノベーション主任は、「『百聞は一見に如かず』で、自分の目で見れば、使用済み衣料が貴重な資源であり、リサイクルが環境にメリットをもたらすことをわかってもらえるはず」と、消費者の啓蒙に力を入れる。

余剰布地を現金代わりに

バンコ・デ・テシードの創始者、ルチアナ・ブエノ氏。長年、舞台衣装の制作を手がけ、800kgの余剰布地を抱えていたことが創設のきっかけになった
© Banco de Tecido

ブラジルで2015年に開設された、「バンコ・デ・テシード」は「布の銀行」だ。通常の銀行では現金を扱うが、代わりに布地が用いられる。顧客は布地を預け入れ、銀行に査定してもらい、クレジットを得る。クレジットの25%は銀行に手数料として支払う。残り75%は顧客のものだ。銀行内に預けられている布地を入手する際には手持ちのクレジットを利用する。口座を持たない場合も、キロ当たりで決められている価格を支払えば、布地を手に入れることができる。

持ち込む布地はある程度のサイズがあれば、種類は問わない。中には、ヴィンテージものや、ほかでは入手できないような、価値のある布地もある。顧客は主に、小規模生産を行っていたり、アップサイクリングを行っていたり、販売をオンラインのみに限っていたりする、新設のスローファッションやサステナブルファッション・ブランドだ。

引き取り手が多い余剰布地は四角など幾何学的な形をしているため、布の銀行では、顧客から預かった布地を、より好ましい形に整えている。この作業で出る、不定形で小さな端切れは、貧困エリアで教育面、仕事面、収入面におけるサポート活動に使ってもらうためにNGOに寄付される。

布の銀行は中堅・大手ブランドにとり、心強い存在だ。コストを抑えるために布を大量に購入しても、市場での反応が芳しくない場合は使わずに保管しておかなくてはならない。場所を取ったり、倉庫保管料が生じたりすると、どのブランドも生地を販売する大手企業に安価で売り払わざるを得なくなる。布の銀行のようなシステムがあれば、そうした無駄をなくすことができる。

「バンコ・デ・テシード」は功績を認められ、2016年には「ファブリック・オブ・チェンジ」賞の最終選考まで残った。これは、アパレル業界においてソーシャルイノベーションを行う、優秀な個人・団体に贈られる賞だ。

環境負荷の高いデニムをサステナブルに

新人デザイナーのパワン・クマール氏が、このほど行われたニューヨーク・クチュールファッションウィークで、サステナブルなデニムを素材としたイブニングウエアのコレクションを披露し、話題になった。クマール氏は、繊維技術にも精通する、ファッション・イノベーターだ。2015年に行われた、ドバイ・ファッションウィークでデビューし、「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。長年にわたり信頼関係を築いた、レーザーなどの最新テクノロジーを取り入れ、アパレル製品加工をサステナブルに行う企業、ヘアノロヒア(本社・スペイン)の技術を取り入れるなど、無駄をなくし、効率よくデザイン・制作を行うことで知られる。

クマール氏が手がけたデニムのイブニングウエア
© Lenzing AG

コレクションは、世界で最もエシカルでサステナブルなデニムを生産するといわれるサイテックス社(本社・ベトナム)や、再生可能な木材を原料とした繊維を生産する大手企業、レンチング・グループ(本社・オーストリア)とのコラボレーションだ。レンチング・グループにより生み出されたリフィブラ・リヨセル繊維で、サイテックス社が生地を製作している。

リフィブラ・リヨセルは、衣類の生産過程で廃棄される綿と、木材パルプでできている。加工の際に使う溶剤は複数回にわたり再利用が可能な上、使用する水の量も、一般的な綿素材の製造時に比べ95%削減できるという。

サイテックス社は、世界で最もエシカルでサステナブルなデニムを生産する企業といわれている。工場はLEED認証を受けており、デニムは自然エネルギーを活用して製造している。工程上使われる水の98%を再利用。わずかながら出る端切れはレンガとして加工し、国内の孤児院建設に役立てている。同社の製品は、「ブルーサイン」認証も得ている。これは、繊維業界における認証で、サステナブルなサプライチェーンのもと生産される製品に対して与えられるものだ。

クマール氏は、10月24、25日に行われた、デニム業界の最新ファッションと技術を集めた「キングピン」ショーでも、同様のミニコレクションを披露した。レンチング・グループのトリシア・キャリー デニム国際事業開発担当責任者は、「同コレクションは、デニムがいかに美しく、用途が広く、サステナブルなものになり得るかを証明している」と語っている。

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クローディアー真理

ニュージーランド在住ジャーナリスト。環境、ソーシャル・ビジネス/イノベーションや起業を含めたビジネス、教育、テクノロジー、ボランティア、先住民マオリ、LGBTなどが得意かつ主な執筆分野。日本では約8年間にわたり、編集者として多くの海外取材をこなす。1998年にニュージーランドに移住。以後、地元日本語誌2誌の編集・制作などの職務を経て、現在に至る。Global Press所属。