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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第45回 エシカル就活と採用ブランディング

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

いよいよ本格化する24卒の就活。大企業・有名企業・上場企業からの内定も喜ばしいですが、就活の目的は本当に自分にマッチした企業に出会うこと。近年、「エシカル就活」に関心が高まっています。

24卒就活、本格スタート

2024年3月卒業予定(24卒)学生の就職活動が本格化する時期がやってきました。親世代はとかく『大企業・有名企業・上場企業』への就職意向が取り沙汰されましたが、気候変動や海洋汚染、格差社会等を身近に感じて育った現世代の就活学生の目線はだいぶ違うようです。

昨今、Z世代を中心に地球環境や社会課題への関心が高まり、エシカルな暮らしへの志向性が芽生えています。とりわけ直近では新型コロナウイルスの影響も相まって、その傾向が顕著に表れているといえます。そうした価値観がライフスタイルや消費行動の域を超え、『会社選び』の基準にも反映されてきています。「エシカル就活」という言葉も、散見されるようになりました。

「エシカル」とは

最近よく耳にする「エシカル」という言葉。エシカル(ethical)とは、直訳すると「倫理的・道徳的」という意味の英語です。エシカルという考え方が日本で広がったきっかけの一つとして、2015年に消費者庁が、「倫理的消費(エシカル消費)」の普及に向けた調査研究会を発足させたことが挙げられます。この報告書において、倫理的消費(エシカル消費)とは、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会、環境に配慮した消費行動」と定義されています。消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことと説明されています。

消費者庁が2016年度と2019年度に行った「倫理的消費(エシカル消費)に関する消費者意識調査」の結果を比較すると、『エシカル消費・倫理的消費』の認知度は6%から12.2%へ、エシカル消費への興味度は35.9%から59.1%へと意識が向上してきていることがわかります。

また、日経MJが2021年11月に実施した、Z世代が社会や企業に何を求めているかを探るアンケート調査でも、同様の傾向が見て取れます。
アンケート項目の一例として、「価格が高くなったり、不自由になったりしても、自らの消費行動を通じて社会の課題解決に貢献したいか」という質問に対して、
Z世代の中の16~26歳の計34.9%が「貢献したい」という意向を示しています。自分は金銭的にあまり恵まれていないと考えるZ世代に限っても計24.6%が「貢献したい」ということでした。

所得の多寡に関係なく、自分の消費行動をソーシャルグッド(社会に良いインパクトをもたらす活動)につなげたいという意識が垣間見えます。ここにきて、1990年代半ばから2010年頃に生まれたZ世代が消費のあり方を変えようとしているようです。

「経営資源の調達」という補助線

ESG投資、エシカル消費、そしてエシカル就活…。なんだか、そこかしこで『サステナビリティ』に関するコンセプトが注目されるようになりました。企業側の見地から、この錯綜しがちな潮流を本質的に捉えるためには、「経営資源の調達」という補助線を引いてみるとスッキリします。

企業はステークホルダー(経営にとって欠くべからざる人々)とともに事業を営んでいます。もとより、事業運営のためのヒト・モノ・カネといった経営資源(リソース)は、このステークホルダーから提供されるわけです。経営資源を潤沢に調達したければ、ステークホルダーに「価値提供」をしなくてはなりません。このステークホルダーが期待する『価値』こそが、時代の変化とともに変容しています。個別の主な市場ごとにみていきましょう。

○資本市場… 国連の「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」に署名したり、日本版スチュワードシップコードの受入表明をしている多くの機関投資家は、短期主義(ショート・ターミズム)から中長期への時間軸のシフトによる投資リターンを志向するようになってきている。したがって、持続的成長・中長期的な企業価値向上が見込める企業を選別するため、投資行動の喚起にあたっては非財務(ESG)が重視されるようになった。

○財市場…エシカル消費が普及し、製品・サービスの性能もさることながら、環境や社会への配慮が行き届いているかということも重要な購入判断基準になってきている。消費行動の喚起にあたっては、サステナビリティ要素が基本的なスペックとなった。

※ちなみに今年のバレンタインデー商戦では、ご褒美チョコなどで『フェアトレード』の商品が人気を集めたそうです。フェアトレードとは、開発途上国等で生産している原料や製品を適正な価格で継続購入することで、立場の弱い生産者や生活改善の自立を目指す貿易の仕組みのこと。これにより、生産者の生活を支え、自然環境を守り、教育支援などのサポートにつながります。

○労働市場… 就活学生は応募するに際し、『社会のためになっているのか』が重要な企業選択の目線となってきている。初任給を入口とする金銭報酬も大事だが、仕事を通じて『社会のためになりたい』というニーズを通じて満たしてくれるのは重要な「非金銭報酬」となっている。よって業界1位企業に内定しても、2位のサステナブルカンパニーに行くケースも見受けられるようになった。求職行動の喚起にあたっては、企業規模や業種業態を問わず、サステナビリティ・SDGsに対する企業姿勢の訴求が不可欠となった。

このように、従来の 経済価値(財務)のみならず、時代の価値観である社会・環境価値(非財務)を含む『統合的な価値』を訴求しなければ、投資・消費・求職などの行動を喚起できず、経営資源の調達に支障をきたします。企業に求める要請と期待は変化しています。これに対応してこそ、ステークホルダーからの信頼や支持が獲得でき、円滑に経営リソースが確保できるということです。

とりわけ「人的資本経営」が注目される中、リクルーティングの観点からも、優秀な人材を確保したり育成したりできるかが、ますます企業競争力を大きく左右するようになっています。

この指、とまれ!

サステナビリティを軸とする新しい時代を迎え、有為(ゆうい)な学生から選ばれるためには、パーパス(社会的存在意義)をしっかりと掲げ、「この指、とまれ!」と就活学生に自信を持って呼びかけることが大事です。
パーパスへの共感(個々の志と会社の目指すところとのシンクロ)を獲得できるかが決め手といえます。

サステナビリティが経営戦略の中核に据えられる今日、イノベーション・トランスフォーメーションは不可避です。それを成し遂げるには、従業員が高いエンゲージメントのもと、時代の変化への感性を研ぎ澄まし、自律的・主体的に想像力や創造力等の能力を存分に発揮してもらうことが第一義です。人的資本への投資として、従業員が持つ知識やスキルなどに磨きをかけることで『無形資産』が高まり、競争優位につながります。就活学生は、明日の企業の命運を握る「人的資本」なのです。

採用版・サステナブルブランディング

エシカル就活に関心が高まる中、カウンターパートとなる企業側の採用戦略においても、「企業活動と社会課題解決を融合させ、自社らしさで競争優位を創り出す戦略メソッド」であるサステナブルブランディングが有効です。それこそが、サステナビリティ時代の採用ブランディングといえましょう。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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