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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第15回 営業のためのサステナブル・ブランディング入門(4)「半沢直樹」に学ぶ!ブランディングの王道

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

日曜劇場「半沢直樹」が好調です。新型コロナウイルスの影響で初回放送が約3カ月延期となりましたが、満を持しての放映開始となりました。このドラマに、なぜこんなにも惹きつけられてしまうのか。そこに、サステナブル・ブランディングのヒントがあるようです。

「半沢直樹」に学ぶ!ブランディングの王道

TBS系列・日曜劇場「半沢直樹」が人気を博しています。堺雅人さん演じる銀行家・半沢直樹の決めゼリフ「やられたらやり返す。倍返しだ!」が社会現象となり、前シリーズの最終回では驚異の視聴率42.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するなど大ヒットとなりました。「倍返し」は新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれました。今日のネット優勢と言われる中で、テレビの影響力の広がり方という意味でも取沙汰されました。

新型コロナウイルスの感染拡大で初回放送が約3カ月延期となりましたが、前作から7年の歳月を経て、満を持しての放映開始となりました。このドラマに、なぜこんなにも惹きつけられてしまうのか。

組織の理不尽にやり返す爽快さが魅力の「勧善懲悪」のストーリーであり、コロナ渦で溜まったストレス発散にぴったりなのかもしれません。ブランド論に鑑みても、絶対に「倍返し」をしてくれるという期待に応え、『約束』を守る、すなわちブランド・プロミス(brand promise)が堅持されているのが醍醐味です。

ストーリー・シナリオも良く、個性派揃いの俳優陣は役に見事にはまっています。悪役は、昔懐かしい時代劇の悪徳代官のようだし、正義側は、真面目で一生懸命、爽やかな印象を与えます。また俳優陣の熱演だけでなく、ドラマの中で独特の臨場感や緊迫感を生み出している演出の効果も見逃せません。展開の速さやテンポの良さ、効果音、テーマ曲の挿入箇所もさることながら、状況が切迫するシーンの切り替わりの妙など、各シーンの「カット割り」も冴えわたります。このドラマの様式美といえましょう。

そして初回が終わってみれば、やはり高視聴率。

「期待どおり」はもちろん、「期待以上!」の声も多数あがったようです。この言葉こそが、ブランド力の真髄といえます。相手に感動を与えたければ、期待を超えることが重要です。

次の3段階で整理できます。

①期待を裏切る…期待レベルに届きませんので、期待とは「ネガティブな不一致」です。こうなると、不満が生成され、不買につながったり、悪評が立ったりします。
②期待どおり… 満足はしますが、感動には至りません。
③期待以上… 期待レベルを超えていますので、「ポジティブな不一致」です。感動を呼び、ロイヤルティが醸成されます。ますます愛着が湧いてきます。

したがって、感動づくりの方程式は、「満足-期待=感動」と捉えることができます。

この構造は、「半沢直樹」だけでなく、ビジネスにおいても鉄則です。営業活動に際して、信頼の獲得はもちろんですが、お客様にどれだけ「WOW!」と感動してもらえるかが、ロイヤルティやブランド力向上の鍵となります。お客様との対応において、WOWファクター(感動させる要因)を増やすことが、ブランディングにつながります。AIが注目される時代、「ヒト」の素晴らしい感性や能力が期待されます。

「感謝と恩返し」とサステナブル・ブランディング

この言葉は、第3話の中盤ぐらいに登場しました。切り札となる策を部下に委ねるにあたり、半沢が部下を激励し、次のフレーズを贈りました。

大事なのは「感謝と恩返し」だ。
この2つを忘れた未来は、ただの独りよがりの絵空事だ。
これまでの出会いと出来事に感謝をし、その恩返しのつもりで仕事をする。
そうすれば必ず明るい未来が開けるはずだ。
成功を祈る。

「独りよがりの絵空事」とは、自分勝手に思い描いただけでは実現には至らない、自分本位だけではやっていけないということと解釈できます。それゆえに、「感謝と恩返し」の気持ちがあれば、実現する可能性が高いというわけです。

このくだりは、今日の企業経営にも通じます。ビジネスは企業本位だけでは営むことはできません。関わってくれている人々、欠くべからざる人々、すなわちステークホルダーからの信頼と協力のおかげで存続できているということです。

コーポレート・ブランディングは、企業に関わる人たちすべてを広範囲に捉え、ステークホルダーと企業とが共に創り上げていくことに焦点が当てられます。企業はステークホルダーとともに、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源をやりとりして生きていく存在です。そして、それぞれのステークホルダーが、企業との関わりにおいて、満足している限りにおいて企業の存続が許されることになります。したがって、ステークホルダーに対して「感謝と恩返し」の心を持ち、期待に応え、「信頼」と「愛着」を獲得していくことが、今日の企業ブランディングの礎です。これが、サステナブル・ブランディングの基本スタンスです。

ドラマの第4話で、出向先から銀行に復帰することになった半沢直樹が、一緒に戦った部下たちに次のように語りました。

『どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って、日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組と言うんじゃないかと、俺は思う』

いまの時代、仕事に誇りが持てる不可欠な要素として、「社会のためになる」という信念と「世の中から頼りにされている」という実感ではないでしょうか。コロナ禍を経て、企業の「社会性(社会的存在意義)」を重視する機運が高まっており、ブランドの芯であり背骨となっています。サステナビリティ時代のインターナル・ブランディングは、社員一人ひとりの誇りとイキイキにつながります。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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