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ミレニアル世代から見た林業 100年先の未来を考える

日本林業の多様性:樹種について

SB-J コラムニスト・井上 有加

農業で育てる野菜に色々な種類があるように、林業で扱う樹種も多様であることをご存じだろうか。樹木の特徴や物語に触れながら、スギとヒノキだけではない、意外と多様な日本の林業について紹介したい。

神話に描かれた木

ヒノキの大木

日本は木の文化と言われるが、神話の中にも色々な木が登場する。日本書紀には、植林の神でもある素戔嗚尊(すさのおのみこと)が「髭を抜いて蒔くと杉の木になった」「胸の毛は桧(ひのき)に、尻の毛は槙(まき)に、眉毛は楠(くす)になった」とあり、続けて「杉と楠は造船に、桧は神殿に、槙は棺桶に使え」と言ったという。

この4つの樹種は古くから有用樹として利用されてきた。杉や楠の大木は古墳時代頃から丸木舟の材料として使われてきたし、板として加工しやすい杉は水田の矢板など土木用材としても大量に使われた。世界最古の木造建築物である法隆寺に使われているのは桧であり、槙は耐久性が高いため土葬する棺桶に使われたことだろう。船、神殿、墓など、特に権威を示す木が神話に書かれたのだと思うが、この時代すでに日本に「適材適所」の知恵があったことを示すもので、とても興味深い。

さて、古代から飛んで現代日本の山は、約4割の面積を人工林が占めている。その多くが樹齢50年前後で、圧倒的に多く植えられているのが先ほども登場したスギ(44%)とヒノキ(25%)である。この2つの樹種だけで人工林の7割をも占めているのは、戦後の造林が緑化と復興需要への対応を叶えるため、成長が早く建築に向いた樹種を選んだからだ。現代日本の多くの山は、舟や棺桶ではなく建築用材のためにデザインされた山であり、そこで選ばれた木とは神話からの背景を持つ木であったことを覚えておきたい。

スギとヒノキ

このスギとヒノキは、全国ほとんどどこの山でも見られるから、日本の林業と言えばスギかヒノキを植えて育てるものと思われているかもしれない。有用な木であるし、元々天然に自生していたエリアも広いため、各地の気候や土に適応して育ちやすい。

スギは北海道南部から九州まで広く植林されている。新国立競技場のルーバーには47都道府県の木が使われているそうだが、沖縄県のリュウキュウマツ以外はすべてスギだ。スギの木は水を好むので、降水量や降雪量の多い地域に自生する。大きく分けると太平洋側の表スギ(葉がふさふさと茂る)、日本海側の裏スギ(枝が下を向いて葉が小さく雪に耐える)の系統がある。昔から非常に多くの品種が発見・開発されており、「○○杉」というブランド名もかなり多い。品種により成長スピードや立ち姿、材質が違うので「杉は人なり」と言われるほど個性と多様性があり、南北に長い日本を代表する林業樹種だと思う。

ヒノキはスギよりも雪に弱く、自生する北限は福島県あたりとされている。地域を選ばず品質が安定しやすい優等生で、建築用材として長らく最高級とされてきた。スギとヒノキはセットで植えられることも多く、その場合は山の地形により植え分ける。「尾根マツ、谷スギ、中ヒノキ」というが、乾燥に強いマツは尾根に、水が好きなスギは谷筋に、そしてその間にヒノキを植えるゾーニングが、土に合わせた昔からの工夫である。

ヒバ、カラマツ、マツ

スギとヒノキ以外にも個性的な樹種があるが、産地が偏っており特産品になっているのが面白い。青森県の津軽半島や下北半島には天然のヒバが多く自生していて、青森ヒバとして知られている。東北地方では重要な建築用材で弘前城などが知られ、抗菌作用がありツンとした香りがする。このヒバのもう一つの代表的産地は能登半島まで飛ぶ。平安時代に東北から持ち込まれたという伝承もあり、能登ヒバとかアテという別名で呼ばれる。雪に強いヒバは日本海の厳しい気候にも適応し、高い耐久性がある材は輪島塗の木地に使われたり、潮風の当たる家々の外壁によく使われている。遠く離れた地域の土と文化にも文字通り根付いた木だ。

カラマツは、スギとヒノキに次いで人工林の中で3番目に大きな面積(10%)を占めている。生産量としては北海道や東北が多いが、これも原産は遠く信州の山らしい。北海道ではトドマツ、アカエゾマツと並んで三大林業樹種になっている。カラマツも寒さ厳しい環境で育ち、硬く丈夫な材は土木用材や電柱材、近年は合板用材として重宝される。最近では狂いやヤニなどの欠点を克服し、建築材としてもその魅力を発揮している。国産の針葉樹で唯一黄葉するので「落葉松」という漢字があてられ、上高地や軽井沢の秋を彩る風景としても愛されている。

マツ(アカマツ、クロマツ)といえばやせ地や砂地などの厳しい条件で育ち、並木や防風林、マツタケ林としても馴染み深く、どこの里山にも生えていた。マツが育つそういった環境が減ったこと、さらに平成のマツ枯れ被害のため全国的に激減しているが、東北地方や中国山地、信州は貴重なマツの産地になっている。粘り強さや曲がった形そのままを利用して、梁などの強度がかかる部材に使う。その生命力にちなんで縁起が良いものとされ、家紋や能舞台などのデザインにも用いられるシンボルとしての意味合いも強い木だ。

多様性は何のためにあるか

以上はすべて針葉樹だが、各地の気候や土に合わせた「適地適木」をベースに林業の形が作られている。広葉樹の人工林はめったになく主に天然林(二次林)が利用されているが、これも地域によって常緑や落葉の樹種があり用途も違う。私は日本のあちこちの産地を訪ねたが、これだけ色々な樹種が育ちそれに合わせた産業がある多様性こそが、魅力であり宝だと感じた。どこに行っても同じ木しかなかったら、つまらなくなっていただろう。

多様性の大切さは各方面で言われるが、そもそも多様性はなぜ必要なのだろうか。リスクヘッジとか、林業で言えば生態系への影響という面もあるが、多様であった方がその世界の広がりや深まりがあって面白い、というのは素直な価値ではないか。お酒の種類がビールだけでなくワインや日本酒もあるからマーケットが広がるように、色々な木があった方が林業や建築も面白くなる。最近は木材も地産地消にこだわりすぎる風潮があるが、もっと色々な木材を使ったらどうかとも思う。

そして、多様性とはどのようにして生まれるのだろうか。南北に長く地形も複雑な日本の自然環境では、林業はどうしたって多様にならざるを得ないのだろう。自然に任せれば多様性は生まれるものであり、それにある程度のまとまりと経済性を持たせながら、うまく価値にしていくきめ細かさやバランスが肝心だ。あまり知られていない日本林業の多様性だが、その価値がもっと見直されてもよいのではないだろうか。

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井上 有加
井上有加(いのうえ・ゆか)

1987年生まれ。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中に立ち上げた「林業女子会」が国内外に広がるムーブメントとなった。若手林業ビジネスサミット発起人。林業・木材産業専門のコンサルティング会社に5年間勤務し国内各地で民間企業や自治体のブランディング支援に携わる。現在は高知県安芸市で嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、林業女子会@高知の広報担当も務める。田舎暮らしを実践しながら林業の魅力を幅広く発信したいと考えている。

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