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公共からパブリックへ、変わる都市経営

自治体もサステナブル経営を意識する時代へ(2)

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SB-J コラムニスト・伊藤 大貴

第1回では、これから本格的に到来する自治体の都市経営の変化、垂直統合型から水平分業型への移行について解説した。自治体がアウトソース可能な行政サービスについては、外へ任せていく水平分業型のことを、「都市のオープン化」と定義した。第2回は、この都市のオープン化を強力に推進していく、官民連携について触れよう。

第1回で触れたように、少子化、高齢化、人口減少、都市化の4要素が引き金となって都市のオープン化が進むことを説明した。これらにより自治体財政は厳しくなるため、従来の自前主義が成り立たなくなるからだ。

都市のオープン化は既に始まっている

これまでも、都市のオープン化の萌芽はあった。例えば、自治体が保有する公共施設の管理を民間企業に任せる「指定管理者制度」や、自治体が管理する公共施設の愛称を企業に開放する代わりにフィーをもらう「ネーミングライツ」。公共施設の整備等に民間資金や経営ノウハウを活用することで自治体が直接実施するよりも、効果的・効率的な財政運営とサービス提供を見込める「PFI(Private Finance Initiative)/PPP(Public Private Partnership)」などである。

どれも今や当たり前になったが、ネーミングライツは導入当初、市民からも「税金で整備した施設に企業の名前を付けて稼がせるなんて」という批判もあった。例えば、日本初のネーミングライツとして東京都など資本金の58%を出資している株式会社東京スタジアムと味の素のネーミングライツによる「味の素スタジアム」などは有名だろう。横浜の「日産スタジアム」も正式名称は「横浜国際総合競技場」だ。今や、正式名称を意識する人はほとんどいないと言っていいだろう。味の素スタジアムであり、日産スタジアムが人々の認識だが、これらは導入当初は大きな批判にさらされた。

しかし、今や日本全国津々浦々、ネーミングライツを導入した公共施設だらけ、である。それだけ自治体財政も背に腹は変えられないということであり、社会的にもネーミングライツを受け入れる素地が整った証左といえる。

GtoCにも押し寄せるサービス化の波

そして今、注目したいのは社会のあらゆるもののサービス化だ。サービス化とは、消費者の関心が「モノ」から「コト」へ移りつつある中で、個人や企業が保有する余剰資産やスキルを他人や他の企業が利用できるようにする仕組みのことである。従来はCDやファイルで音楽を所有していたのが、今は所有せず、ストリーミングで利用するのが当たり前になり、家も所有しつつも余剰時間はスタジオとして他人に貸したり、あるいはインバウンドの観光客に貸したり、という使い方も当たり前になっている。

BtoBやBtoCにおけるサービス化の流れは自治体にも訪れると見て間違いない。特にそれを牽引するのはIT企業だ。サービス化は需要と供給のマッチングが重要になるため、そこにはシステムが介在するからだ。サービス化の流れはまちづくりや観光、交通や決済、金融、宿泊、医療など多岐に及んでいく。必定、政府や自治体との接点が増えていくし、そこには必要な規制緩和や規制強化の議論も生まれていくに違いない。こうした未来を読んでのことだろう、グーグルやLINE、メルカリ、楽天など著名な大手IT企業は近年、「公共政策部門」を立ち上げ、霞ヶ関の中央省庁出身者や元国会議員、元地方議員など公共政策に精通した人材のスカウトを始めている。

AIやIoTなどテクノロジーが官民連携2.0を牽引

これから急速な勢いで官と民の垣根がなくなっていくだろう。AIやIoT、ブロックチェーンなどテクノロジーの進化がこうした動きを加速させ、社会のあらゆる分野でビジネスが公共を担う場面が増えていく。政府や自治体と企業のコラボレーションによって社会に新しい価値を生み出していく時代が訪れつつあると言い換えてもいいかもしれない。指定管理者制度やネーミングライツ、PFI/PPPのように、行政が要件を定義して民間に発注していた従来のやり方を「官民連携1.0」とするならば、これからは行政と企業が同じ土俵に立って、企業が提供するサービスに対して行政の要望を反映させていくコラボレーション型の「官民連携2.0」時代が始まる。

さて、ここで直面するのが、「公共を担う」ことの意味を肌感覚で有している人材が企業サイドにまだまだ少ないという現実である。だからこそ大手IT企業は経験者をスカウトしているわけだが、すべての企業が同じことができるわけではない。そこで重要になってくるのが、自治体や議会など公共セクターからの人材の供給だ。第3回では本格的に到来する公務員の複業・兼業時代について、第4回は社会にはほとんど認知されていない、ビジネス経験を有する地方議員の社会的価値について、取り上げる。

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伊藤 大貴
伊藤 大貴(いとう・ひろたか)

株式会社Public dots & Company代表取締役。元横浜市議会議員(3期10年)。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心した企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大学非常勤講師なども務める。

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