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世界で加速する人権への関心

ノボ・ノルディスクCSOが語る、統合思考

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

Interviewee:スザンヌ・ストーマー=ノボ・ノルディスクCSO
Interviewer:下田屋毅=在ロンドンCSR/サステナビリティ・コンサルタント

ノボ・ノルディスク(本社:デンマーク・コペンハーゲン)は、糖尿病治療を90年以上にわたって研究開発する同分野の世界的リーダーだ。製品は5大陸165か国以上で販売され、従業員は世界77カ国に現在4万2000人。血友病と成長ホルモン不全の治療でも著しい貢献をしている。またトリプル・ボトム・ライン(TBL)を経営戦略上、不可欠なものとして実施する企業である。

この世界でCSR/サステナビリティをけん引する先進企業、糖尿病分野の世界的リーダーでもあるノボ・ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を務めるスザンヌ・ストーマー氏に同社のサステナビリティ活動について伺った。

前編:ノボ・ノルディスク、サステナビリティ推進の鍵は「人」

統合報告書とビジネスと人権

―――ノボ・ノルディスクは統合報告書において最先端の報告書を発行し、世界をけん引する企業です。国際統合報告評議会(IIRC)のパイロットプロジェクトは終了しましたが、その後どのように統合報告を推進するためにIIRCをサポートしていますか。

筆者とスザンヌ・ストーマー氏

ストーマー氏:パイロットプロジェクトが終了した後も、「ビジネスネットワーク」と呼ばれて継続しています。これは100以上の企業のグループで、世界のさまざまな場所から参加し、また日本にあるような地域のネットワークもあります。このビジネスネットワークの中では、私達は、統合報告のある部分(結合性、マテリアリティ等)について議論をするために、経験やアイデアをウェビナーや年次ミーティングに参加して共有しています。

―――日本でも約200社が統合報告書を発行しています。しかし多くは統合の過程であり、現時点では混合報告書と呼ばれるものになっています。そこで、統合報告の第一人者として、統合思考を進めるための重要な要素についてアドバイスがあればお願いします。

ストーマー氏:ノボ・ノルディスクの統合報告書についてですが、私達が最初の「統合報告書」と呼んだ報告書も、ただ「混合」したものでした。しかし何が「混合報告書」から次へのステップが起こるかということですが、現時点で財務情報、そして社会、環境の非財務情報があると思います。

私のアドバイスとしては、まず数字をよく見て、そして何が純売上高を促進しているのかを考えてみることだと思います。そして自社の労働者を見てみる。従業員の離職率が高いかどうかを見ます。もし離職率が高い場合は、その離職率を下げる活動を行うこと。離職率が下がると純売上高が上がるのがわかります。

また似たようなものでは、カーボンフットプリントがあります。二酸化炭素の排出についてエネルギーコストで見てみる。そしてこれが自社のPLに製造コストとして反映されている。最初は数字を見て、そしてどのようにつなげられるかを考えることです。そしてその後自社のストーリーを伝え始めるということになります。

従来の財務報告で何を含んでいるかというと、お金が入ってきて、そして出ていくということだけなのです。しかし企業はその他の資本を持っていて、また負の影響を与えていることがあります。統合報告書は、その従来の箱の中から出ることになります。

統合報告書の大きなセールスポイントとして、日本企業には特に、とても高い教養を持った、そして忠誠心が高く、長く在職している労働者がいます。この労働者達は、とても大きな資本なのです。しかしこれがまだあまり資本化されていないと考えます。もし自分たちの工場やビルなどの資本だけを見ているのであれば、全ての企業価値を見いだせていないということです。

―――ノボ・ノルディスクはビジネスと人権に関しても先進的な取り組みを行っていらっしゃいます。国連ビジネスと人権に関する指導原則に則ってどのようにビジネスと人権に関して進めていらっしゃいますか。

ストーマー氏:国連ビジネスと人権に関する指導原則では、全ての企業が次の3つのことを実施せよと言っています。

1つ目は、どのように人権を尊重するのかに関する「人権方針」を持つこと。これに関しては、ノボ・ノルディスクは既に実施しています。2つ目は、「人権デューディリジェンス」を行うこと。3つ目は、「救済へのアクセス」を確保するということです。

この中で「人権デューディリジェンス」は難しい部分だと考えています。ここでは、どのように企業が人権へ負の影響を与えているのか、人権に負の影響を与えている原因、助長、関与はどうなっているのかについて、とても大変ですが私達は全てのビジネスのプロセスを確認することを進めています。

また人権方針やその実践において、従業員とともに自分たちが何をしているのかについて確認し、そしてギャップを特定しています。この上でノボ・ノルディスクが発行している「グローバル労働ガイドライン」を参照し、世界のどこであろうと生活賃金を保証し、マタニティカバーを確保も行っています。私達は、会社の他部門と協働し、改善が必要な部分の特定を少しずつ進めています。

―――工場のコミュニティからの情報を得るのは簡単なことではないと思いますがどのように行っているのですか。

ストーマー氏:工場のコミュニティに関しては、「隣人ミーティング」を以前から実施してきました。周辺の人々を工場へ招き、工場見学を行ったりしています。そしてこれらの人々は、たまに不満を伝えてくることもあります。

昔は、工場の臭気(子どものおむつのような)がひどい時期があり、その不満を述べられた時がありました。これは、実際は近隣の酵素工場の臭気であり、私達ノボ・ノルディスクの工場からの臭気ではなかったのですが、周辺住民はその区分けは良く知らないので、私達に不満を伝えてきました。このような周辺住民とのコミュニケーションを図り、その適切な対応を行うことは、彼らとの対立を減らすことができますので私達にとっても助けになります。

―――サプライヤーとはいかがですか。

ストーマー氏:私達は責任ある調達として、人権、労働者の権利、環境、腐敗防止についての取り組みを何年も実施してきています。現在は一次サプライヤーを超えて、2次、3次サプライヤーへも行っていますが、これはとても複雑で、どれだけ深く進んでいくのかということがあります。近年は、紛争鉱物規制や英国現代奴隷法などがでてきており、これらは企業に一次サプライヤーを超えてサプライヤー管理をすることを励行しており、私達の活動をサポートしてくれる重要なものとなっています。

移民・難民問題と英国EU離脱

―――ノボ・ノルディスクは中東、トルコ、ギリシャなどでも工場などを置いていますが、多くの移民や難民がシリア、アフリカその他からそうした国々に流入しています。ノボ・ノルディスクとしては、これら移民や難民についてどのように対処していますか。また何か特別なプログラムなどを設けていますでしょうか。

ストーマー氏:これについては「はい」と「いいえ」の両方があります。「はい」の方は、私達は国際赤十字と協働し、トルコの難民キャンプにいる糖尿病患者に対して糖尿病治療薬を提供しています。これにより難民の方々も糖尿病治療を継続することができています。しかし私達がトルコにいる難民の状況を改善する活動を実施しているわけではないので、これについては「いいえ」とお答えすることになります。

私達は、デンマークで移民・難民への対応を行うためのプログラムについて議論を行いました。その結果、デンマークでの滞在許可を得ている移民・難民の方々へ労働の場やインターンシップ・プログラムを提供し、職場での指導や教育を行いました。SDGs(持続可能な開発目標)に話は戻りますが、政府がこの移民・難民問題に対処することについて、企業はビジネスを通じて何かの役割を果たして手助けをすることができます。

私達が取っている方法は、これらの移民・難民の方々を労働者市場に引き入れ、仕事を与えることです。私自身はシリアからの難民のインターンを受け入れていましたし、私の同僚も同様にインターンを受け入れていました。そして私がお話できることとしては、これら移民・難民の方々が今は仕事があるということです。私達はこれらを一企業として一対一で実施していますが、これで移民・難民対策が十分と言えるかというと、答えは「いいえ」になります。

―――英国のEU離脱(ブレグジット)は、周辺諸国にも影響を及ぼしていると思います。ブレグジットはノボ・ノルディスクのサステナビリティのプログラムに何か影響を与えますでしょうか。

ストーマー氏:この英国のブレグジットの特にサステナビリティに関連する質問については、今まで受けたことがないのですが興味深いですね。ブレグジットに関する言外の意味としては貿易に関することであると思います。

デンマークは小国ですが、小国であるが故に我が国は商品を他の市場に販売する必要があり、我が国は貿易について自由に開かれています。そして私達は自由に開かれた貿易が継続してできるように働きかけをしています。

ブレグジットに関して思いつくものの一つとして欧州医薬品庁があり、現在英国にあります。ブレグジットが行われるのであれば、ノボ・ノルディスクとしては、この欧州医薬品庁を英国ロンドンからデンマークへの移転を提言したいと考えています。コペンハーゲンは、欧州医薬品庁にとって非常に魅力的な場所で、ノボ・ノルディスクが経済的にも手助けをすることができると思っています。

またサステナビリティに特化してブレグジットを考えた場合、まだブレグジットが起こったときにこの観点からどのようになるのかをしっかりと理解していない状況があると思いますが、ノボ・ノルディスクのTBLをベースとしたサステナビリティに関する努力は継続して実施していくのは間違いありません。

ブレグジットの際に私達が特に考えなければならないのは、どのようにグローバリゼーションが敗者に影響を与えているのかということです。なぜならば、ブレグジットは全てグローバリゼーションの敗者に関わることだからです。企業責任(CR)は、グローバリゼーションの負の部分に対応する方法の一つである言うことができます。

私達や他の企業が企業責任に取り組む際に考える必要があるのは、新しいグローバリゼーションの時代の中で、どのように適当なグローバリゼーションのサイズをキープして、どのようにサステナビリティの観点から負の影響を減らしていくのかということです。これらが、私達の富の分配の全てであり、そしてこれがSDGsに貢献することになるのです。なぜならば、もし私達がSDGsに関して貢献することができれば、私達は全ての人々が繁栄することができる世界を創ることができるのです。実施していくことは簡単なものではないと思いますが、ノボ・ノルディスクは、この件に関してもビジネスの実践を通して貢献していきたいと考えています。

―――この度はインタビューのお時間をいただきありがとうございました。TBLをベースに統合報告やビジネスと人権などを進め、サステナビリティに関して引き続き世界をリードし、ベストプラクティスを世界へ広げていただければと思います。

ストーマー氏:こちらこそインタビューをしていただきありがとうございます。これからも日本やさまざまな企業に対して良い影響を与える活動を継続していっていただければと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

スザンヌ・ストーマー
ノボ・ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)
ノボ・ノルディスクのサステナビリティ事業の取り組みをリードし、企業のサステナビリティに基づくプログラムの管理、統合報告書、ステークホルダーエンゲージメント、トリプルボトムライン(TBL)ビジネス原則の価値に関するコミュニケーションを担当している。同社の統合報告書は世界的に評価が高く、同氏は国際統合報告評議会(IIRC)においてリーダーシップを発揮している。コペンハーゲン・ビジネス・スクール助教授(担当コーポレート・サステナビリティ)

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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