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G☆Local Eco!

ビジネスパーソンが求めるマインドフルネス

SB-J コラムニスト・青木 茂樹

日本のZenが世界に静かに広まる理由

国際フォーラムでの坐禅体験。筆者撮影(2017年9月)

[G☆Local Eco!第14回]2017年9月2日ー3日に鎌倉建長寺で「Zen2.0」という国際フォーラムが開催された。そこには30-50歳代の男女のビジネスパーソン中心に、さらに欧米系の外国人が加わった300名ほどが集まり、皆さんの関心の高さを肌で知ることとなった。

日本でも書店に行けば、ビジネス書の平棚にもいつの間にかMindfulness(以下、マインドフルネス)やMeditation(瞑想)、Zen(禅)関連の書籍が並ぶようになった。筆者も420年前の曹洞宗の学林を起源とする大学に勤めており、信仰に拘らず、経営学者として気になる潮流であるがゆえにこのフォーラムに参加してみた。

多くのビジネスパーソンがマインドフルネスや禅の広がりを知ったのは、グーグルやセールスフォースなどのアメリカ西海岸の優良なIT企業の社員研修などにマインドフルネスが活用されていることがきっかけだろう(https://goo.gl/S8Rdiv)。さらには、アップル創業者の故スティーブ・ジョブス氏が曹洞宗の故乙川弘文老師(駒澤大学卒)に師事していたため、永平寺の黒い作務衣をイメージしてつくったと言われる黒いシャツをトレードマークとし、ミニマリズム(最小限主義)のマックのデザインが生まれたという話も有名だ。

2016年にマサチューセッツ総合病院・ハーバードメディカルスクールのサラ・ラザール准教授が、瞑想が大脳に与える効果(相関関係)として、学習や記憶を司る海馬やストレスに関わる扁桃体といった脳の5つの部位の体積を変化させるという研究成果を討論会で報告したことも大きな影響を与えた。今日の膨大な情報量に溢れ、ストレスの溜まる社会において、瞑想のひとつの医学的な可能性が見えてきたのだ。坐禅や瞑想はいまや宗教ではなく、メンタルを鍛える実践法として欧米社会に受け入れられることとなってきた。

マインドフルネスとは、「煩悩からの解脱と静謐な心を求める坐禅に軌を一にしており、一瞬一瞬の呼吸や体感に意識を集中し、ただ存在することを実践し、今に生きることのトレーニングを実践」することをいう(『現代精神医学事典』弘文堂、2011年より一部修正・抜粋)。未来を憂いたりや過去を悔やむのではなく、ただいまを生きていることだけを受け入れる……。これにより「自己受容、的確な判断、およびセルフコントロールが可能となる」という(同上書)。

マインドフルネスの始まりは、1970年代にマサチューセッツ大のメディカルセンターにて、ジョン・カバットジン氏がMBSR(Mindfulness-based stress reduction)というプログラムをつくったことにある。Zenや瞑想などの宗教色の強い言葉では広がりが難しいことから、マインドフルネスという言葉が使用された。貝谷氏によれば「ジョン・カバットジンが来日したとき、この新しい精神療法の基本理念を問いただすと、彼は即座に道元禅師の曹洞宗であるといった」という(貝谷久宣他編著『マインドフルネス−基礎と実践』日本評論社、2016年より一部修正・抜粋)。

禅とマインドフルネス

​パネル・ディスカッションの様子。筆者撮影(2017年9月)

さて、この国際フォーラムのプログラムの最後では「禅とマインドフルネス、その可能性について」、スタンフォード大学のスティーブン・マーフィー重松氏、曹洞宗国際センター所長の藤田一照師、臨済宗円覚寺の横田嶺南管長によるパネル・ディスカッションが開催された。

ハーバード大、東大で教鞭をとり、現在、スタンフォード大学にてマインドフルネスを指導する重松氏は「スタンフォードの学生がダックシンドロームになっている」と報告した。ダックシンドロームとは「一見、物静かで知的に見える学生たちが、内面では水面下で足をバタつかせるカモのようにもがき苦しんでおり、孤独や将来不安を抱えている実態」をいう。そこでマインドフルネスの実践が必要とされているというのだ。
 
また、藤田氏からは、マインドフルネスという考えが禅思想の入り口としてあることは良いが、それだけが効くという考えはいかがなものかという指摘もなされた。マインドフルネスをすれば効果があるというのは、まるでビタミン剤やサプリメントを摂取するのと同じようだ。本来、禅は体験であり生活そのものであるし、もっとホーリスティック(全体的)でオーガニック(有機的)なものという指摘がなされた。

また横田氏からは「私は毎日おかゆと梅干しを食べている。ただ毎日繰り返すだけ。それがマインドなんとかと言われて驚いている」と会場を沸かせながら、「思考だけでは生きられない。深い思いやりなど、思考以前のものが大事になっている。仏心は頭であれこれ考える前に働いているのだ」と含蓄のある話を語った。

これについて後日、駒澤大学の角田泰隆教授に伺うと「曹洞宗には『修証一等』という言葉がある。修(修行)と証(さとり)は一等(一体)であり、修行は悟りを目的として行うのではなく、修行していることが仏のあり方を現しているという教えをいう」のだそうだ。

坐禅の実践での効用が科学的に証明されることで、禅やマインドフルネスを傾聴する姿勢が現代の経営者やピジネス・パーソンに広まっている事実がある一方、その禅や、そこから始まる日本文化や思想の本来のあり方は、持続的な日々の営みにこそ、その本質がある。

ひとつの作法を巡って、まさに東洋的な全体論や循環論と西洋的な近代科学合理主義が対立、いや融合しあっているのだ。

アメリカに禅思想を伝えたパイオニアの故鈴木大拙師は以下のようにいう。「西洋は数が元になるから、まず主客の両観から始まって、次から次へと分化して行く。科学の発達から、技術の精確さ、巧緻さに至るまで、東洋よりはずっと進んでいる。東洋式はこれと全面的に反対だ。主も客もない。いわゆる父母未生以前の消息を端的に見てとらんとするのが東洋式の精髄である(鈴木大拙『東洋的な見方』岩波文庫、1997年より一部修正・抜粋)」

人類の「五感を伴う(超えた?)新たな知」は、正反合のアウフヘーベンのなかから生み出されようとしているのだ。

鎌倉建長寺の庭園。筆者撮影(2017年9月)
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青木 茂樹
青木 茂樹

駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得、山梨学院大学商学部教授、University of Southern California Marshall School Visiting Scholar。

企業のマーケティング・コンサルティング、住民参加型の地域活性化および観光の事業構築、マスメディアやSNS、人的ネットワークによるパブリシティの構築を専門とし、山梨県産業振興ビジョン策定委員会委員、山梨県特選農産物認証委員会委員、甲府市商工業振興協議会会長、南アルプス・フルーツ劇場プロジェクト会長、やまなし大使を歴任。2008年経済産業省「第1回社会人基礎力育成グランプリ大賞」受賞を指導。また地域活性化としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。
http://yamanashi.hyakusaka.com/

著書には『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版、2012年、戦略的マーケティングの構図—マーケティング研究のおける現代的諸問題』同文館出版、2014年など多数。

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