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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第10回:持続可能なアジアの未来は実現されるか

SB-J コラムニスト・古沢 広祐

アジアの未来を左右する2つの国際開発銀行の総会が続きました。5月上旬、横浜で開催されたADB(アジア開発銀行)設立50年総会には約6000人が参加し、ADB史上最大の盛り上がりを見せました。他方、ADBを凌駕する中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)第2回総会が6月中旬、韓国の済州島で開催されました。持続可能なアジアに向けて、最新動向に迫ります。

アジア開発銀行の役割をふり返る

まずADB総会に参加しての印象を報告しましょう。戦後、日本がリード役を務めてアジア・太平洋地域の発展に大きく貢献した国際機関がADBです。インフラ整備・開発援助に成果をあげたのですが、環境面や社会面での不備が過去に市民社会から批判・指摘されたことで、セーフガード(環境社会配慮)政策が取り入れられ、持続可能な発展への貢献が目指されてきました。

戦後の日本を振り返ってみると、荒廃した国土の復興と発展に際して、世界銀行からの融資に大いに助けられました。東名高速や東海道新幹線もその一例です。その後1966年、世界銀行からの借入支援を終了した日本は、自らの経験を踏まえてアジア・太平洋地域の開発を支援するADBの設立に協力したのでした。最大出資国で歴代総裁は日本人、本部はフィリッピンのマニラにあります。当初、飢餓の克服と農業分野への支援を皮切りに、その後は電力や交通など工業化とインフラの整備へと経済発展の土台作りに寄与してきました。

日本の経済発展の歩みを振り返ると、実際には輝かしい光の部分とともに深刻な公害被害や自然破壊、山間部のダム開発や沿岸開発による居住地移転など、影の部分が同時進行しました。躍進するアジア地域の経済発展においても、実は開発における同様の光と影の部分が交錯しており、とりわけ民主化が遅れた地域では環境破壊のみならず地域住民に深刻な人権侵害が引き起こされる経緯があったのです。

持続可能な開発・発展には、「経済」のみならず「環境」配慮と「社会」配慮が欠かせないこと(サステナビリティ3要素)は、現代世界では常識となってきたのですが、それが常識化する過程では、NGOなど市民社会側からの告発や抗議など社会運動が欠かせませんでした。詳細は省きますが、ADBによる開発援助が多大な貢献をする一方で、開発実施国側の制度的不備や汚職・腐敗、融資案件の審査の甘さなど、いわゆるアカウンタビリティ(説明責任)問題が顕在化したのでした。

論点としては、開発実施主体のみならず融資する貸し手の責任や、資金提供している援助国側の日本国民の税金の使い方という点でも、見過ごせない問題となりました。すでに連載で紹介した1992年の地球サミット当時、NGOによる世界銀行など国際開発銀行への批判が急速に高まったことで、環境社会配慮のガイドライン(セーフガード)の制定が相次ぎました。ADBでも、1991 年に「業務手続きに関するガイドライン~ADB 業務における環境配慮」を定めて、セーフガード政策が取り組まれたのです。

理想と現実の揺れ動きの中で

ADBの過去の案件の責任を告発するNGO団体(横浜・桜木町駅前広場、5月4日)

ガイドラインができ、その後、住民やNGOからの抗議・提言によって内容の改定や融資プロセスの改善が取り組まれてきましたが、一定の成果は見せたものの現実問題としてガイドラインが遵守されず、住民被害が未解決のまま持ち越される事態も一方で起きました。一例をあげれば、「貧困削減と持続可能な開発モデル」とされたラオス・ナムトゥン2(NT2)水力発電事業(世界銀行との協調融資)では、6300人もの住民移転と下流域で12万人以上に影響を及ぼした問題や、大メコン圏カンボジア鉄道改修事業でも住民移転問題の被害(人権侵害)報告などが、NGO団体「メコン・ウォッチ」などから指摘されています。
(詳細はhttp://www.mekongwatch.org/http://www.jacses.org/sdap/index.html

近年のADB総会では、市民社会とりわけNGO団体との対話、コミュニケーションの機会が設けられており、アカウンタビリティ(説明責任)は大きく進展しました。この連載で紹介した国連の新目標(2030アジェンダ、SDGs)を、ADBも率先して取り組むとして分科会(セミナー)も開催されたのです。

関連して新たな長期戦略「ストラテジー2030」の骨子が、総会において紹介されました。「ストラテジー 2030」において、中尾武彦総裁から、アジアの成長を支援し、貧困、気候変動、都市化、高齢化、格差の拡大を含む開発課題に積極的に対応する方向性が語られたのです。

アジア地域は人口比では世界の過半数を占めますが、経済規模では3割に過ぎません。1日2ドル未満の貧困層を多数抱え(約3.5億人)、経済発展の基盤づくりとしてのインフラ投資の需要は巨額になります(2030年までに年間1.7兆ドル規模と推定)。その際に問題なのは、経済発展と両立するような革新的な環境保全策、とくに気候変動対策(CO2削減)や生物多様性保護などには多額の対策費が必要とされることです。

アジアの未来はどうなるか

他方で、インフラ需要に迅速に応える新たな受け皿として、中国主導のAIIBがADBをしのぐ勢いで躍進しています。中国は現代版シルクロード経済圏「一帯一路」構想を打ち出しており、AIIBの資金が大きな役割を担うことになります。ADB総会の直後の5月中旬に、北京で「一帯一路」に関する初の国際首脳会合が開かれました。その会合に合わせて、AIIBは加盟国が77カ国になったことを世界に発表しました。ADBの加盟国は66カ国です。

AIIBも環境社会配慮に留意する方針は示していますが、ADBのような政策実施の体制作りはこれからです。スタッフもADBが3千人の職員を抱えているのに対して、まだわずか100人ほどです。ADBの中尾総裁は、AIIBの金立群総裁との連携協力を積極的に進めていくと表明しています。開発のための資金提供をめぐって2つの機関が競合しあい、環境社会配慮が緩和されてしまうような、かつての悪夢のような事態は避けねばなりません。

別の心配事としては、開発ブームの再来で巨額の資金投入が過熱化し、かつてのアジア通貨危機のような事態を招かないか、注意深いリスク管理も大切です。連載の第8回で紹介したように順調に発展するベトナムでも、一皮むくと巨額の債務を膨張させている様子が垣間見られます。アジアの世紀と期待される「輝く未来」が本当に実現されるかどうか、揺れ動く時代の変化に目が離せません。

ADB総会について:http://adb2017.city.yokohama.lg.jp/ (日本語)
https://www.adb.org/annual-meeting/2017/main(英語)

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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