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民間投資が牽引する「破綻都市・デトロイト」の再生

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹
ダウンタウンの再生が始まったデトロイト
ダウンタウンの再生が始まったデトロイト(2017年5月、筆者撮影)

[G☆Local Eco!第11回]財政破綻都市・デトロイト。アメリカ合衆国ミシガン州に位置し、過去に自動車産業で栄華を極めた街が1兆8千億円の連邦破産法の適用を受けたのが2013年。その後「全米一の治安の悪い都市」とされ、人口も180万人の最盛期から70万人へと激減した。

この都市でこの5月「サステナブル・ブランド国際会議2017」は開催されることとなり、当初は「どうなることか」と思っていた。が、そこには新しい都市へと生まれ変わろうと民間企業が動き出す姿があった。

デトロイト関連で日本でも話題となったのが、印象派の絵画を多く所蔵するデトロイト美術館の6万5千点の美術品を市が売却しようとした時だ。これに対する市民の反対運動と様々な寄付が集まったことで、結果として一点たりとも売却されることはなくなり、美術館は市民の誇りとなった。

市民や企業の寄付によって美術品を売却しなかったデトロイト美術館(2017年5月、筆者撮影)
再生のシンボルとなったデトロイト市内を循環する路面電車「Q LINE」(2017年5月、筆者撮影)

この「誇り」は街の再生にも大きな影響を与えた。ちょうど5月12日から営業を開始した「Q LINE」という路面電車に乗ってダウンタウンを移動してみた。約10kmに渡りウッドワードというメインストリートを12駅でつなぐ循環路線だ。

駅に降りて気づくのは、駅の一つ一つが民間企業の投資で成り立っており、スポンサー企業の看板が掲げられているところだ。破綻した市では投資できないので、すべて民間企業や慈善団体での投資や寄付によって資金はまかなわれ、開業にこぎつけた。

街の再生を図るBEDROCK本社(2017年5月、筆者撮影)

この街の再生を民間投資で始めたのが「Quicken Loan」という金融機関創業者であり、バスケットボールなどのプロスポーツチームのオーナーであるDan・Gilbertである。デトロイト復興のために、まずはQuicken Loanの本社をデトロイトに移し、さらに総合不動産デベロッパーの“BEDROCK”を創設した。

BEDROCKは、街の再開発だけではなくテナント誘致からそのプロモーションといった細部に至るまで、まちづくりの全てを行う。そのために2200億円を投資し、95の不動産を取得し都市再生を行った。その取得用地は150万平方メートルにも及び、14000人以上の雇用を創出した。

ライフスタイルを提案するデトロイト発ブランドのSHINOLA(2017年5月、筆者撮影)

この動きに共感したのがカジュアルな腕時計で世界を席巻した「Fossil」の創業者Tom・Kartsotisだ。彼自身はテキサス州出身であるが、デトロイトの再生に関心をもち、デトロイト発のアメリカン・クオリティ“SHINOLA”
を立ち上げた。SHINOLAは、時計から自転車・バッグを製造販売し、コーヒショップも併設し、新しいライフスタイルを提供している。ここでは350人以上の雇用を生むこととなった。

ここが世界中の注目を集めたのは、オバマ前大統領のデトロイト訪問時のこと。「これこそアメリカ再生のモデルだ」として、SHINOLAの腕時計を購入し、さらに英国のキャメロン前首相にもプレゼントしたエピソードで一躍話題となった。

そしてこのDanとTomが共同で立ち上げるのが2018年に開業予定のSHINOLA HOTELである。

この動きから日本が学ぶべきことは、産業が空洞化し行政が破綻した時に、「持続可能な都市を誰が仕掛けていくのか」ということだ。

デトロイトはまさに強いアメリカを取りもどすべく、大中小の事業規模や新旧の社歴に拘らず、DanとTomの二人のヒーローに気概を感じた企業によるオープン・イノベーションとしての民間投資が始まっている。

それは新しいコ・ワーキングやワークシェアリングという真の働き方革命であり、健康的なレストランやカフェ、アパレルなどの新しいライフスタイルであり、植栽にあふれた街区やエコな交通インフラである。デトロイトからまさに新しい時代のアメリカン・ライフスタイルが胎動しているのである。

しかもそのスピードには驚かされる。2013年に破綻し、全米一の治安が悪い都市として銃撃や殺人事件が横行し、行政がコントロールを失った都市に、DanやTomらが投資を始め、わずか4年で新たなデトロイトの象徴としての路面電車を走らせ、この動きを」面白い」と思ったベンチャー企業が集まってきている。日本では、こうした悲惨な状況に飛び込む企業はいくつあるだろうか?
 
都市のサステナビリティのエンジンは、底値であったときにこそリスクを抱えても投資を決断し、さらには新たなGood Lifeを創造するような新規事業を巻き込んでいく力であると、フロンティアへの挑戦を肌身で感じることができるのが今のデトロイトなのである。

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青木 茂樹
青木 茂樹

駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得、山梨学院大学商学部教授、University of Southern California Marshall School Visiting Scholar。

企業のマーケティング・コンサルティング、住民参加型の地域活性化および観光の事業構築、マスメディアやSNS、人的ネットワークによるパブリシティの構築を専門とし、山梨県産業振興ビジョン策定委員会委員、山梨県特選農産物認証委員会委員、甲府市商工業振興協議会会長、南アルプス・フルーツ劇場プロジェクト会長、やまなし大使を歴任。2008年経済産業省「第1回社会人基礎力育成グランプリ大賞」受賞を指導。また地域活性化としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。
http://yamanashi.hyakusaka.com/

著書には『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版、2012年、戦略的マーケティングの構図—マーケティング研究のおける現代的諸問題』同文館出版、2014年など多数。

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