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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナブル・ブランド創設者に聞く、世界のビジネスキーワード「リジェネレーション」とは? (後編)

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サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内で、テーマとして掲げた、再生を意味する“リジェネレーション”。 日本でその考え方は広まりつつあるが、世界的にもまだまだ浸透しているとは言い難い。サステナビリティとリジェネレーションの違いなど、サステナブル・ブランドの創設者コーアン・スカジニア氏に、足立直樹サステナビリティ・プロデューサーが聞いた前編に続き、後編をお届けする。

サステナブル・ブランド創設者に聞く、世界のビジネスキーワード「リジェネレーション」とは? (前編)

パンデミックと政治的分断の影響

足立:これまでお話を伺い、リジェネレーションが必要な理由はよく理解できました。では、「リジェネレイティング・ローカル」をSB国際会議のテーマに選んだのには、他に何か特別な理由はあったのでしょうか?

スカジニア:1つは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、多国籍企業のグローバル構造に潜むリスクが明らかになったためです。誰もがサプライチェーンの混乱に伴うリスクを実感しています。これからの世界で求められるレジリエンスを支えていくには、地域により根ざしたレジリエントなビジネスエコシステムやサプライチェーンの構築方法を学ばなければなりません。

それから、米国で政治的な緊張が高まっていることもこのテーマを選んだ理由です。政治的な分断が深まるなか、相反する考え方がどこから生まれるのかを理解しなければ、人々の心の内や考えを変えることはできません。家族間や隣人の間で対立が生まれるほど社会構造が崩れてしまった場合、健全な社会を再構築する唯一のすべは“つながり”を再構築すること以外にありません。そして、こうした分断は今や米国だけにとどまらず世界のさまざまな地域で起きています。

まずは隣人とのつながりを再生することから始めることです。自分と異なる意見や観点をもつ隣人とも礼節をもって会話ができなければなりません。そして、「あなたがそう考える理由を理解できるように教えてもらいたい」「なぜ私がこう考えるのかを伝えさせてもらえないか」「互いを理解する方法を探そう」と言うことができるようになることです。

足立:サプライチェーンの分断以外に、パンデミックは世界やサステナビリティの推進にどのような影響を及ぼしたと思われますか?

スカジニア:世界的なパンデミックほど、多くの人をひとつにするものはありません。世界が共に混乱を経験し、新たなコミュニケーションの機会が生まれたことは良いことです。ですが、同時に恐怖も生まれました。解決策に注力しようとする時、恐怖ほど人を消耗させるものはありません。恐怖は私たちを閉ざし、互いを理解しあうことを難しくします。ですから、混乱にはポジティブとネガティブな可能性の両方があります。

そういうときこそ、人間性が発揮され、私たちが何者であるかが問われるのです。そして、サステナブル・ブランドのように自らを「勇気ある楽観主義者」と称するコミュニティがとても重要になります。私たちが組織やパートナーとしてできることは、コミュニティにそれを反映させること、つまり、私たちは勇気ある楽観主義者であることや、「コップに水が半分しかない」と思うか、「半分もある」と思うのかを選択できることに気づいてもらうことです。私たちは困難からチャンスを生み出すことに注力することもできますが、それもまた選択なのです。

来年度は、サプライヤー部門のイノベーションが柱の1つに

足立:世界的なサステナビリティのトレンドを踏まえて、2024年度のサステナブル・ブランド国際会議のテーマはどんな内容になる予定でしょうか?

スカジニア:世界的な傾向として、サステナビリティの情報開示についての規制がますます強化されています。最近では、中国もサステナビリティ報告の新たな情報開示の規制について発表しました。欧州はこの分野でリーダーであり、米国企業の開示にも影響を及ぼしています。サステナブル・ブランドが本拠を置くカリフォルニア州ではより厳しい規制を設けており、同州は世界のリーダーであり続けています。

企業の多くのリソースがイノベーションよりもデータ収集や報告に費やされていることは、短期的には良いことだと思います。情報開示やサプライチェーンの透明性を高めるための素晴らしいテクノロジーソリューションも生まれています。また、大手ブランドや消費財メーカー、BtoCやBtoB企業は一時的にイノベーションから遠ざかる一方で、さまざまなサプライヤー部門で多くのイノベーションが起きています。

次のサステナブル・ブランド国際会議はそこに目を向けていきたいと考えています。AI関連のあらゆる解決策とそれらがサステナビリティの加速をどう支援するか、さまざまなデータソリューション、素材やパッケージングのイノベーションソリューション、バイオエンジニアリング(生物工学)ソリューションについて議論していきたいです。

しかし、こうしたソリューションは進化を加速させる反面、予期せぬ結果をもたらす可能性も秘めています。現在の世界の変化のスピードを考えると、予期せぬ結果を招かないようにするテクノロジーをデザインすることに、十分な時間を費やす必要があります。これは人類にとって本当に重要なことです。

複雑性をマネジメントする時代に備える

足立:日本ではグリーンウォッシュはそれほど大きな話題にはなっていないのですが、TNFDをはじめとする情報開示フレームワークへの関心は高まっています。さて、それでは最後に、日本のサステナブル・ブランド・コミュニティにどんなことを伝えたいですか?

スカジニア:私たちの人生で、これ以上に重要な仕事はないでしょう。私は、日本が文化やビジネスの分野において素晴らしいイノベーターであると常々思ってきました。日本人と自然との歴史的なつながり、自然とのつながりに対する意識、イノベーションの能力が大好きです。皆さんが文化として、自然とのつながりとイノベーションの2つを持ち続けていくことは重要なことだと思います。

2010年のサステナブル・ブランドのカンファレンスでは“The Power of And (アンドの力)”をテーマに掲げました。さまざまな分野や人、考え方などを結ぶ“The Power of And”もまた手放してはならない重要な考え方です。私たちはこれまでサイロ(縦割り構造で孤立化したセクション)の中で仕事をし、サイロの中で考え、個々の問題に重点を置いてきました。さらに、世界では気候変動問題が議論の中心になっていますが、気候変動は問題の一部であり、全てではありません。システム全体や、悪化を招くあらゆる要素、変化の手段に目を向けることを避けてはいけません。

これからは、複雑性をマネジメントする時代です。サイロ化した思考では複雑性をマネジメントすることはできません。今年10月に米国で開催するサステナブル・ブランド国際会議では、友人であり『Notes on Complexity: A Scientific Theory of Connection, Consciousness, and Being(仮訳:複雑性に関する注意――つながりと意識、存在の科学理論)』を著したニューヨーク大学グロスマン医学部病理学教授のニール・シース氏を基調講演にお迎えします。

この本は、複雑系(数多くの要素が相互かつ複雑に絡み合って成り立つシステム)について書かれたものです。量子物理学についての記述が一部あり、そこには伝統的な知恵が伝えることと量子物理学の教えに関連性があることが紹介されています。さまざまな分野を結びつけるファクトに注目が集まり始めていることにワクワクしています。

足立:私たちは伝統的な知恵を多く持ちながらも、それを失いつつあるようにも思います。それをいま一度、思い出した方がいいということかもしれませんね。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材・文:小松遥香  写真:松島香織(サステナブル・ブランド ジャパン)

インタビューを終えて
足立直樹

リジェネレーションという言葉自体が日本ではまだ一般的ではありませんし、特にそれが何を意図しているのかということがしっかり理解されているとは言い難い状況です。SBではこの言葉を既に数年続けてテーマにしてきましたが、そのテーマ設定をしているスカジニア氏がなぜこの言葉を選んだのか、直接話を聞くことができたことは、その意図を理解するためにはもちろん、私たちが今どこにいて、何を目指すかを考える上でも非常に良い機会であったと思います。

リジェネレートと並んで、「再生」を意味する語にはもう一つ「リプロデュース」があります。リプロデュースは元の形をそのまま再現するというニュアンスが強いのに対して、リジェネレートは新しく作り直す、あるいは本来の形に戻すというニュアンスがあるようです。そしてもちろん、私たちが目指すべきは、単に同じものを再現するリプロデュースではなく、新たにより良い社会を、あるいは本来の環境を再生するリジェネレートだというわけです。

私が専門とする「生物多様性」も、ネイチャー・ポジティブが世界目標となり、そのためには自然を再生することが必要だという流れになって来ています。企業でも、自然を回復(リストア)し、再生(リジェネレート)しようとの呼びかけが強まっています。リジェネレートがさまざまな分野で使われるようになっているのは、決して偶然ではないでしょう。

サステナビリティという考えだけでは不十分だというスカジニア氏の指摘は、やや過激に聞こえるかもしれませんし、「それだけでも大変なのに……」という嘆きが聞こえてきそうです。しかし、彼女はこれまでの私たちの行動を否定しているわけではなく、私たちが目指すところを明確にしてくれたのです。さらには、今のやり方で本当に大丈夫なのだろうか? 間に合うのだろうか? と不安に思っていた方々からすれば、「今あるものにツギハギを当てて騙しだましするのではなく、きちんと新しいものを作らないといけないのだ」と言われたことによって、むしろすっきりしたのではないでしょうか。

いずれにしろ、本当にサステナブルな社会やビジネスへのシフトを目指す私たちは、今新たなステージに進んだようです。その過渡期に「SBは正しい方向性を示すコミュニティである」ということ、そのことを今回のインタビューで確信していただけたのではないでしょうか。私たちやその祖先がすでに持っている知恵をもう一度しっかり確認しながら、私たちの社会や環境を再生していくという、やりがいのある仕事にSBコミュニティ全体で挑んでいきたい。そういう思いを新たにするインタビューでした。そして読者の皆さまにも、自分たちは今何を再生しようとしているか、そのことをこれから常に意識していただければと思います。

サステナブル・ブランド創設者に聞く、世界のビジネスキーワード「リジェネレーション」とは? (前編)

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