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SDGsは「荒波の中で2030年目指す羅針盤」:今こそ活用しグレート・リセットを――笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長

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「コロナ禍という荒波の中、SDGsが羅針盤として一層重要になっている」――。そう語るのは笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長。「産官学」を網羅するその経歴を生かし、「未来まちづくりフォーラム」では「協創で日本創生モデルをつくろう」というコンセプトを掲げ、セクター間の垣根を越えてSDGsを推進する。同フォーラムの次回の主題は「SDGsで『グレート・リセット』」だ。コロナ禍に直面して世界の変革が進む。そこでSDGsがどう役割を果たすのか。笹谷氏が11月に上梓した最新の著作「3ステップで学ぶ 自治体SDGs」に沿ってポイントを詳しく聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

日本の進捗は「世界の中で間に合いつつある」

――SDGs達成度の世界のランキングなども毎年出ていますが、現在の日本の進捗はどのように捉えられていますか。

笹谷秀光氏(以下、敬称略):日本はこれまで約5年をかけてSDGsをじっくり解読してきた、いわばスロースターターでした。「SDGsとは何か」という話を続けている状況では、世界の中で置いて行かれてしまうという危機感がありますが、昨年頃から日本でもSDGsの解読作業を終え、さまざまな場面でその取り組みが主流化する動きが芽生えています。

世界の動きに対して日本は「何とか間に合いつつあるのではないか」と私は見ています。経済界ではプラットフォーマーと呼べる大きな産業の中でSDGsの実装が進み、そして何よりも、自治体関係者がもっともSDGsの世界観のイメージを持ち始めているのではないかと思います。

2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が公布され、2017年からはそこにSDGsが盛り込まれ、2018年からSDGs未来都市の選定が始まり、これまで累計で94都市がSDGs未来都市になりました。

私がこれまで「産官学」の立場を経験してきた中で、例えば、官公庁がつくる文書はやはりわかりにくく、一方、企業はもちろんビジネスマインドを持っていますが、行政の考えを深堀りするほどの時間を持っていない、といったことを実感しています。「それぞれの強み、弱みを補強し合える」ということです。

関連:書籍「3ステップで学ぶ自治体SDGs」
STEP 1 第1章「SDGsの基本を知ろう!」
STEP 1 第3章「SDGsで地域を元気に!」
STEP 2 第1章「なぜ今、自治体SDGsか?」
STEP 3 第5章「進み行く関係者の連携」

SDGsは荒波の中を進む「羅針盤」

――SDGsへの取り組みが主流化してきたタイミングで、新型コロナウイルスのパンデミックが起こった影響は。

笹谷:パンデミックは世界全体で起こり、日本でも起こっている、というグローバリズムの中の出来事です。にもかかわらず、この影響の特性として、地域が封鎖されたり、人の行き来が制限され、自分がどの国に所属しているか、どの自治体に所属しているか、どの組織に所属しているか、というローカルな帰属意識が極めて重要になりました。グローバルな世界観の中にあって、都道府県の施策、市町村区の対応など、自治体の役割がクローズアップされたわけです。

さらに、企業の経営資源の4要素の「ヒト・モノ・カネ・情報」、そして自治体の「まち・ひと・しごと」という3要素。パンデミックは、このすべてに影響があります。激動の状況になり、SDGsが「羅針盤」として、さらに重要度を大きく増したと思っています。

――「羅針盤としてのSDGs」とはどういうものでしょうか。

笹谷:これまでSDGsは「課題が明確になった中、あなたにとってチャンスは何か」という議論が多かったと思います。一方でSDGsは、人権、労働、環境、法令などの多岐に渡る今後のリスクが盛り込まれたものだと見ることができます。その中でパンデミックに際して、「健康上のリスク」や「国際関係上のリスク」がクローズアップされているわけです。

チャンスとリスクの両面で地図となり、どの方向に進むべきかという羅針盤の機能を備えたSDGsを、今のような難しい時代にこそ上手に使うべきです。国連のリーダーたちの「混迷の時代に導く光を与えるのがSDGsだ」という言葉があります。まさにその通りだと思います。パンデミックに直面する私たちにとって、SDGsがヒント集になっている、という風に思います。

変革を強調した「グレート・リセット」という言葉が、今の複雑な状況を表しています。その変革の議論、考え方のベースにもまたSDGsが機能するわけです。

関連:書籍「3ステップで学ぶ自治体SDGs」
STEP 1 「はじめに」
STEP 1 第4章「SDGsの未来」
STEP 2 第4章「次のステージに進むためのヒント」
STEP 3 第6章「世界の中の日本」

SDGsを使い、大変革(グレート・リセット)を

――現段階で、国内ではSDGsが具体的にどのように実装されていますか。

笹谷:私はSDGsが政策においても主流になりつつあると見ています。内閣府が推進を始めた「スーパーシティ構想」は、特に政策におけるSDGs主流化の代表格です。6月に成立した「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」を背景に、特区の中で5Gなどの通信技術やドローン技術、最新医療技術などを総動員し、まち全体を一気に未来都市にするという構想です。すでに感度の良い自治体が50以上、提案を行っています。

その実現の目標年は2030年。SDGsを強く意識しています。まちづくりの総合政策の要素を持っているので、第3回未来まちづくりフォーラムにも、その要素を盛り込んだ提案、発表があるのではないかと思います。

関連:書籍「3ステップで学ぶ自治体SDGs」
STEP 2 第4章「SDGs推進でまちはどう変わる?」
STEP 3 第2章-第4章「事例で見るSDGs」
STEP 3 第7章「『スーパーシティ』構想でSDGsスーパー未来都市」

――最後に改めて、SDGsの「必要性」をお聞かせください。

笹谷:例えば「もったいない」は環境配慮ですし、「慮り」は誰一人取り残さないということです。「匠」という技術力の考え方もあります。日本社会は文化の中にSDGsの要素が元々たくさんあります。ただ、「陰徳善事」のマインドもあり世界の荒波に放り出されたとき、発信力が弱い一面があります。そしてSDGsは極めて視認性が高いアイコンを設定していて、発信力を重視しています。

私は、SDGsとは「世界の持続可能な社会づくりの共通言語」であり「荒波を乗り切るための羅針盤」そして「お互いを比較可能にするための物差し」でもあると考えています。それを分析する時を経て、「使う」時代になっているということです。

使えば何が得られるか。それは「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」というタイトルにヒントがあります。この「変革」は未来への志向と、現在における危機感に基づいています。SDGsを使うようなるということは、未来志向でバックキャスティングの思考体系を得ることであり、同時に現在における大変革、グレート・リセットのためのプログラムを獲得することです。


第3回未来まちづくりフォーラム
オープニングトークで阿部 守一 長野県 知事(SDGs未来都市)の登壇決定!
2021年2月24日、オンラインとのハイブリッド開催

■笹谷秀光氏 著書情報

3ステップで学ぶ自治体SDGs STEP1 基本がわかるQ&A 

3ステップで学ぶ自治体SDGs STEP2 実践に役立つメソッド
3ステップで学ぶ自治体SDGs STEP3 事例で見るまちづくり

各1500円 +税

著者:笹谷秀光
出版社: ぎょうせい

本書は主に自治体に所属する人に向けて、実際にSDGsを導入する上で何をすればいいのか、基本的な考え方や背景から実践まで3巻を通して丁寧に手順を組み立てた手引書として構成される。特に関係者の連携に焦点を当てているため、自治体のみならず企業やNPO/NGOがどのように地方創生SDGsに参画するかという議論にも役立つ内容となっている。

本書のベースにはこれまでに開催された「未来まちづくりフォーラム」とその前身「まちてん」の成果がある。そこで議論、発表された自治体、企業や教育・研究機関、NPO/NGOなどの具体的な取り組み事例だけでなく、「サステナブル・ブランド ジャパン」掲載の対談なども改めて編集・再録されたほか、岩手県の有識者が集う審議会で著者が行った講演「幸福を守り育てるSDGs」など、読み応えがありつつも身近でわかりやすい内容を収録した。

単なる枕詞ではなく、現実のまちづくりにSDGsを落とし込む上で必要な知識、事例、背景が、これまでに集積された情報から過不足なく得られる仕上がりとなっている。SDGsが荒波の中を進むための羅針盤であれば、本書は「SDGsを活用するための羅針盤」として機能するだろう。

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。