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日本の大西洋クロマグロ漁業が世界初のMSC認証を取得、臼井社長に課題を聞く(後編)

今年8月、北大西洋等で遠洋はえ縄漁業を展開する宮城・気仙沼の臼福本店が、大西洋クロマグロ漁で世界初の快挙となるMSC認証を取得した。「海のエコラベル」ともいうべきMSC認証取得のニュースは、我が国の水産業が持続可能な方向に向けて舵を切るための新たな契機となるかもしれない。臼井壮太朗社長に、3年がかりで取得したという認証への思いや今後の課題を聞いた。(佐々木ひろこ)

臼福本店の臼井壮太朗氏(中央)を中心に、チーム一丸となって認証取得を目指した関係各社の方々とともに

――まず改めて、MSC認証の取得、本当におめでとうございます。実は申請からずいんぶん長くかかったと伺いました。

臼井:ありがとうございます、予備審査から計算すると、足かけ3年かかりましたね。船員がインタビューされたり機密情報の漁業日誌を公開したり、海鳥が誤って仕掛けにかからないようにする装置や、仕掛けにつける餌の小魚が乱獲されたものでないかの確認まで、当社大西洋クロマグロ遠洋漁船の基地、カナリア諸島のラス・パルマス港で行われた審査の内容は多岐にわたりました。

遠洋漁業をご存知ですか?

臼福本店が操業するのは大西洋のアイルランド沖やアフリカ西岸のナミビア沖など、日本から遠く離れた海域の公海だ。このような遠洋漁船は、戦後、日本が世界の海を股にかけて航行し、各地での大量漁獲から「海洋大国」の名を築いた時代には多くが操業していた。ところが1970年代以降、各国が沿岸の海を守るためEEZ(排他的経済水域・いわゆる200カイリ規定)を設定するようになると操業が公海に絞られたために、日本の遠洋漁業船は激減。現在は日本全国で150船を割り込んでいる。

――アフリカ西岸のスペイン領、カナリア諸島ですね。御社はここを基地のひとつとし、「遠洋はえ縄漁」の操業を長く続けられています。これはどのような漁法でしょうか。

臼井:遠洋はえ縄漁は、約150kmの長さの幹縄に2500−3000本もの枝縄を下げ、それぞれに餌をつけた仕掛けを海に流すという大掛かりな漁です。1回に釣れるクロマグロは多くても十数本と多くないですが、その分状態よく船上に上げられるため、ていねいに処理しクオリティの高い魚に仕立てられるのが強みです。船に上げたらすぐに血や内臓を抜いて神経締めを行い、即座にマイナス60℃の冷凍庫で急速冷凍しています。

クロマグロ漁いろいろ

クロマグロの漁法には、このはえ縄漁のほか、群れを追いかけて網で囲い込むまき網漁、主に浅い海に大きな網を設置し、中に入った魚を引き上げる定置網漁、竿や糸で船上から釣る一本釣り漁などがある。

――クロマグロ漁ではこれまで、MSC認証漁業がありませんでした。つまり今回はまさに世界初の快挙ということになりますね。

臼井:はい。以前は枯渇が叫ばれていた大西洋クロマグロが、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の漁獲規制のおかげで、ずいぶん増えていることが大きいと思います。たとえば2019年に弊社に配分された漁獲枠、68t653kgは1カ月もかからず獲り切ってしまったんですが、10−15年前には同じ量を獲るのに2−3カ月もかかりました。つまり、今はそれほど海にマグロの数が戻っていて、仕掛けを入れるとすぐにたくさん食いついてくれるんです。さらに漁獲情報の報告や厳格な管理など、ICCATが漁業者に義務付けた細かいルールを日本の遠洋漁業者がきっちりと遵守してきたことが、今回のMSCの審査基準に合致したんだと思います。

――ICCATの規制や管理は本当に厳しいと聞いています。

臼井:そうなんです、とにかく細かくて厳しい。まず規制の面で言うと、産卵期の漁や幼魚の漁獲規制を徹底的に行ったことが、資源の大幅増加につながったと思います。現在激減中の日本の近海マグロ(太平洋クロマグロ)も、もし同様に産卵期などの漁獲を厳しく規制すれば、大西洋のように短期間で増えるんじゃないでしょうか。 

また漁業者側の管理に関しては、まず漁場で釣ったマグロは船上で一本一本計量し、そのデータを漁獲場所や日付などとともに記録した通し番号付きタグを魚につけます。水産庁にも毎日漁獲内容を報告しなくてはなりません。漁獲枠をオーバーした際の魚の海上投棄など、不法行為を防ぐために、ICCATによるオブザーバーの乗船も一定率求められます。

――私は清水港での水揚げを何度か見せていただきましたが、マグロを積んだトラックが港を出る際、車ごと検量されているのを見て驚きました。

臼井:水揚げ時には水産庁職員の立会いのもと、マグロを積んだトラックはすべて検量して積算し、トータル重量に齟齬がないか確かめることが求められるんです。ここでもし1kgでも漁獲枠をオーバーしてしまうと、漁業ライセンスの剥奪もありうる厳しい罰則が待っているので、本当に神経を使うんですよ。でも、振り返ってみればこれだけのことをしてきたからこそごまかしの余地がなく、マグロが守られたんでしょうね。

静岡・清水港の水揚げ風景。150kg級の大型マグロが、船倉の冷凍庫から次々と運び出される。釣り上げてすぐ血抜きと神経締めを行い、エラと内臓、尾を除き、マイナス60℃の冷凍庫で凍らせたマグロは、まるで霜をまとった巨大なライフル弾のよう
重い地響きとともに魚が作業台に降ろされる。作業員が分担して品質やデータのチェックをし、終えたらあっという間に待機中のトラックの荷台に積み込み次の荷下ろしを待ち受ける。熟練の連携プレーだ

――さて、御社がMSC認証の申請に踏み切られたきっかけを教えてください。

臼井:日本の一次産業の苦しい状況を打破したかったこと、が一番の理由です。「安さ」ばかりを求める食の価値観が主流となっているために、今の一次産業は大きな負担を強いられています。薄利多売の状況下では、漁業現場にどうしても乱獲が起こり、魚がさらに減っていきます。また生産履歴が不透明で、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)で獲られた可能性の高い安価な輸入魚(*1)が日本マーケットに流入しやすく、そのために市場がどんどん安値主流に傾いていく。苦しい中でもルールを守ってがんばっている現場の漁業者が夢を持てない状況を、なんとか変えたいと思っていたところ、海外市場で評価が高いMSC認証の取得を勧められて、挑戦することにしたんです。

日本は水産資源だけではなく、漁業に関わる人の資源、つまり携わる人もどんどん減っています(*2)。農業と違って漁業は、関連産業も含めた地域コミュニティがなければ成り立ちません。漁業が産業として生き残るために、世界で戦える素地を手に入れて地元のコミュニティを活性化したい、そして日本社会に向けてその意義を発信したい、伝えたいという思いうが強かったですね。

それに、サステナブルな運営が重視される、オリンピックの東京開催が決まったことにも背中を押されました。SDGsへの世界的な注目も高まっている中、これからは日本の漁業もサステナブルな方向に舵を切っていかなければ未来がないと思います。

*1:IUU漁業、つまりIllegal, Unreported and Unregulated(違法、無報告、無規制)に行われている漁業で獲られた魚。現在、世界の海で水産資源を減少させる大きな要因のひとつになっている。
*2:漁業者だけでも1960年代に60万人を数えていたが、2018年時点で約15万人(海面漁業従事者のみ。「2018年 漁業センサス」より)。

――9月1日、豊洲市場の冷凍大物売場に、御社は世界初のMSC認証ラベル付きクロマグロを上場されました。関係者として見学させていただきましたが、セリの際はかなり盛り上がりましたね。コロナ禍でマグロの値が全体に低調な中、キロ6800円はこの日一番の値付け。通常の冷凍クロマグロと比べキロ3000円(約2倍)高でした。

臼井:はい、MSC認証ロゴをつけたマグロがセリ場に並んだ様子を目にした時は嬉しかったですね。あのマグロは、北大西洋のアイルランド沖で獲れた142kgの魚だったんですが、仲買の皆さんがたくさん見に来られて、ロゴマークの写真を撮っていかれました。相場より高い値付けは、持続可能な漁業で獲れた魚に「価値」を見出してくれたということだと思います。MSCとは何か、その意義は何か、市場の仲買さんたちの間にも今後いっそう広めていけたらと思います。

MSC認証ラベルが貼付された臼福本店・第一昭福丸が漁獲した大西洋クロマグロ。9月1日に豊洲市場に上場された
クロマグロは、種として最大300−400kgまで成長する魚。冷凍大物売り場に並ぶ大西洋クロマグロは150kg前後のサイズが多い。しかし太平洋クロマグロは資源減少のため、残念ながら近年、このような大型マグロがたくさん並ぶ光景は見られない

――今後に向けて、なにか課題があれば教えてください。

臼井:IUU漁業の疑いがある水産物は国内で流通させない、というポリシーを徹底している先進国が多い中、現在の日本市場には本当にたくさん流通しています。たとえばサク加工された中国産の冷凍マグロなど、アメリカが「生産履歴が不透明」と判断し輸入禁止にした安い水産加工品は今、多くが日本に流れこんでいます。日本政府には、世界最大のマグロ消費国としてチェックを厳しくし、世界に対して海とマグロを守る責任を果たしてほしいと願っています。

当社としての課題といえば、認証取得の直後からアメリカやアジアの流通業者より取引の問い合わせが続いているのに対し、日本企業からはまだないことでしょうか。価値あるものに適正な対価を支払うという消費者文化を醸成し、日本の水産・流通業を変え、魅力ある産業にしていきたいという思いで認証を取得したので、ぜひマーケットの協力をお願いしたいのです。日本のみなさんにMSC認証マグロを食べていただけるよう、国内企業の方々からのお問い合わせをお待ちしています。

佐々木ひろこ (ささき・ひろこ)

フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue (シェフス・フォー・ザ・ブルー) 代表理事
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドにメディアに寄稿している。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。
2017年に東京のトップシェフ約30名と共にChefs for the Blueを立ち上げ、イベント等を通じてサステナブルシーフードの啓発活動に取り組む。2018年3月には、米海洋保全団体シーウェブが主催するサステナブルシーフード・プロジェクトのグローバルコンペティション“Co-Lab 2018”で優勝を果たす。

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