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日本の大西洋クロマグロ漁業が世界初のMSC認証を取得、臼井社長に課題を聞く(前編)

今年8月、北大西洋等で遠洋はえ縄漁業を展開する宮城・気仙沼の臼福本店が、大西洋クロマグロ漁で世界初の快挙となるMSC認証を取得した。「海のエコラベル」ともいうべきMSC認証取得のニュースは、我が国の水産業が持続可能な方向に向けて舵を切るための新たな契機となるかもしれない。臼井壮太朗社長に、3年がかりで取得したという認証への思いや今後の課題を聞いた。(佐々木ひろこ)

臼福本店の大西洋クロマグロを使った、東京・北参道のフランス料理店「シンシア」の前菜。クリーミーな根セロリのソースとパウダー状に凍らせたカレー風味のソースを添えて

「やっとここまで来ることができました。長かったです」

2020年8月10日は、宮城県気仙沼に5代続く遠洋漁業者、臼福本店の臼井壮太朗社長にとっては忘れられない一日となった。北大西洋海域で大西洋クロマグロ漁を操業する同社が、2018年に申請した水産物の国際認証、MSC(海洋管理協議会)の審査が正式に終了し、認証取得の報が臼井さんに届いたのだ。持続可能な漁業の証として、現在もっとも信頼性が高いスキームのひとつであるMSC認証を、日本のクロマグロ漁業者が取得したというこの出来事は大きなニュースとして世界に報じられた。

MSCとは?

世界自然保護基金(WWF)とユニリーバが構想を発案し、1997年に設立された持続可能な漁業の普及に取り組む国際団体Marine Steward Council(海洋管理協議会・本部ロンドン)。「資源の持続可能性」「漁業が生態系に与える影響」「漁業の管理システム」という3原則に則った漁業認証規格を用い、独立した審査機関が審査を行うという厳格なスキームを持ち、現在世界100カ国でMSCラベルがついた製品が販売されている。残念ながら日本のMSC認証漁業数は現在7と少ないものの、ここ数年で審査入りする漁業が少しずつ増加。また認証水産物として販売するために、サプライヤーを含め必要となるCoC認証を取得する流通や外食事業者は急増中だ。

大西洋クロマグロはメキシコ湾や地中海で産卵し、大西洋を回遊する大型マグロだ。日本近海で産卵し太平洋を泳ぐ太平洋クロマグロ(近海本マグロ)とは亜種の関係にあり、戦後以降に遠洋漁業船が活躍した歴史から日本でも広く流通している。品質においてマグロの最高峰とされるクロマグロは1970年代以降、その経済的価値の高さから世界中で乱獲が進んできた。ともに激減の一途をたどった結果、大西洋クロマグロは2011年、太平洋クロマグロは2014年に国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されている。

しかしその後、事態を重く見た大西洋クロマグロを管理する国際機関、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)は資源回復に向けて厳しい管理手法を導入する。2000年代後半以降、まずは産卵場がある海域での漁を規制し(*1)、未成熟(産卵前)である30kg以下の幼魚は原則漁獲禁止に。また科学的な調査・研究をもとに、全体の漁獲量も大幅に制限する(*2)。さらに規制遵守のために必要となる漁獲データの収集・管理体制を強固にしたうえで、各国政府と連携しながら厳格に運用してきたのだ。その努力が功を奏して、現在大西洋マグロの数は大きく増加しV字回復の途上にある。

*1:メキシコ湾は産卵期全面禁漁。地中海では、大量漁獲のため資源への影響が大きいとされるまき網船の漁獲期間を年間1カ月のみ、はえ縄や釣り漁などの漁法は4−5カ月に制限。
*2:まき網漁は約90%減、はえ縄や釣り漁などの漁法は約50%減。ただし零細漁業者については規制外。

回遊するクロマグロの群れ
親魚量(Spawning Stock Biomass)の推移 (ICCAT Report 2019)

マグロ・カツオ類の資源は国際機関が管理

多くの海域をまたいで泳ぎ、経済的価値も大きいマグロ・カツオ類の資源は一国で管理できるものではなく、関係各国で責を担うべきという考え方から、地域ごとに5つの国際機関が設立されている。このうち大西洋クロマグロ生息地域は大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、太平洋クロマグロ生息地域は中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC/太平洋のアジア側)と全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC/同アメリカ側)が管理している。

今回の臼福本店に対する認証付与は、大西洋(東側)のクロマグロの数が十分に回復し、持続可能な状態になったとMSCも公式に認めたということだ。水産物に関する国際間協定に詳しい国際政治学者で、早稲田大学の地域・地域間研究機構研究院客員准教授である真田康弘さんは言う。

「ICCATが進めた漁業規制と管理は、その後のマグロの増え方を見てもきちんと結果を出してきました。臼福本店のMSC認証取得はすばらしいニュースで、今後MSC認証漁業者が増えマーケットに浸透すれば、大西洋クロマグロのさらなる資源保全に向けて、ICCATの規制との相互強化が期待できるはずです」

水産資源は有限の資源であり、科学的な根拠に基づいた資源管理が欠かせない。この大西洋クロマグロの資源回復例は、いったんは絶滅の危機に瀕した商業魚の数を増やし、持続的に漁獲・利用する素地をつくったモデルケースのひとつとして、今後世界の水産業のなかで参照されていくだろう。

折しも日本では、水産業に持続可能性を導入すべく、70年ぶりに改正された新漁業法が今年12月1日に施行される。過剰漁獲を主要因に日本の海から魚が激減し、総漁獲量が1984年のピーク時から3分の1にまで落ちこんでしまった今、資源回復を成し遂げ、日本の漁業者が世界初のMSC認証を取得した大西洋クロマグロのすばらしい成功体験から、何らかの知見が生かされることを期待したい。

太平洋クロマグロ親魚資源量の推移(1952年ー2016年)
2015年以降、日本、韓国、台湾、アメリカなど27カ国・地域が加盟するWCPFCが国別漁獲枠制を導入したものの、各国に委ねられる部分が多く、日本では現在、年間のクロマグロ総漁獲量の6割以上が産卵期に産卵場で漁獲(水産庁・国立研究開発法人 水産研究・教育機構「国際漁業資源の現状」)

佐々木ひろこ (ささき・ひろこ)

フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue (シェフス・フォー・ザ・ブルー) 代表理事
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドにメディアに寄稿している。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。
2017年に東京のトップシェフ約30名と共にChefs for the Blueを立ち上げ、イベント等を通じてサステナブルシーフードの啓発活動に取り組む。2018年3月には、米海洋保全団体シーウェブが主催するサステナブルシーフード・プロジェクトのグローバルコンペティション“Co-Lab 2018”で優勝を果たす。

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