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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
サステナブル・オフィサーズ 第55回

外資系からSOMPOへ 下川亮子CSuOが進める、“個”と“多様性”を重視するサステナブル経営

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Interviewee
下川亮子・SOMPOホールディングス グループCSuO 執行役
Interviewer
小松遥香・Sustainable Brands Japan 編集局

さらなるトランスフォーメーションに向けて、多様な経歴を持った人材がサステナビリティ担当役員に抜擢されるようになっている。その一社がSOMPOホールディングスだ。同社では昨年8月、グループのサステナブル経営推進責任者(CSuO)執行役に下川亮子氏が着任した。下川氏は外資系証券会社や外食大手で働いたのち、2016年にSOMPOひまわり生命に入社し、執行役員人財開発部長を務めてきた。130年の企業文化を変革し、パーパスの実現を目指すべく、ジョブ型人事制度を導入するなど人材の多様化に力を入れるSOMPO。下川氏が進めるサステナブル経営について話を聞いた。

インタビューの内容
・ニューノーマルと少子高齢化に向き合う
・「自分ありき」のパーパス浸透で成長する組織に
・パーパス浸透は会社を変え、文化を変えること
・違う視点・感覚を生かし、前例のないことへの挑戦を楽しむ

ニューノーマルと少子高齢化に向き合う

――SOMPOホールディングスは傘下に損害保険のほか生命保険、介護、デジタル、ヘルスケア事業などを抱える企業集団です。現在、SOMPOホールディングスにとって何が社会的課題だと考えていますか。

大きくはニューノーマルと少子高齢化です。ニューノーマルについては、気候変動や自然災害の激甚化、デジタル技術の進展による新たなリスクが生まれるなど不確実性はいろんな意味で増しています。それらにどう対応していくかということが一つ目です。

もう一つは少子高齢化。特に日本では、子どもの数が減り、高齢化が進むことで財政がかなり苦しくなってきています。そういう中でSOMPOは介護事業に踏み出しました。踏み出してみると需給ギャップの拡大などいろんな問題がある。担い手がいないことや、介護される方にもさまざまなニーズがある。日本が今一番取り組まなければいけない課題であり、われわれも取り組んでいかないといけないものです。

課題に対応しながら、ビジネスとしてもきちんと成立させるようにしていく。そして必要な場合は、介護現場で働く人たちの人件費を上げることなどを世の中に対し訴えることも含め、取り組んでいきたいと考えています。

―― SOMPO のパーパスについて、改めてその定義を教えてください。

当社のパーパスは「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」です。 “安心・安全・健康のテーマパーク”については、2015年からビジョンとして掲げてきました。ただ、それを言うだけではなく、具現化して、皆さんに見えるようにし、理解してもらうフェーズに入っています。ポイントは、介護や保険という言葉が全く出てこないことです。

CEOの櫻田も言っていますが「SOMPOは、昔は保険会社だった」と言われたいと思っています。パーパスとともに、3つの提供する価値を掲げています。

社会に提供する価値
・社会が直面する未来のリスクから人々を守る
・健康で笑顔あふれる未来社会を創る
・多様性ある人材やつながりにより、未来社会を変える力を育む

私たちは保険会社というよりも、まさにここに掲げているような社会を実現するために必要な事業をやっていくという発想です。

保険というのは「万が一」のときのためのものです。しかし、本当は「万が一」は来ない方がいいし、なるべく遅い方がいい。SOMPOは「万が一」をじっと待つのではなく、もっと積極的に前に出ていき、皆さんと共にあるような存在、プラスの価値を提供する存在になりたいと思っています。残念なことがあったときに寄り添うだけではなく、ふだんからいてもらいたいと思われる存在です。

そうして、SOMPOと関わっている、あるいは保険に入ってくださっている方、そうでない方も「テーマパーク」でSOMPOと関わりを持つことによって、安心・安全・健康な状態でいられて、自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことができるようにする。そういうテーマパークをリアルとバーチャルで提供する。そこにアトラクションをどんどん作っていくように、新たな価値を提供することを目指しています。会社にとっても大きなトランスフォーメーション(変革)です。

――パーパスを実現する上で、下川CSuOの役割はなんですか。

パーパスはサステナブル経営の根幹にあるものです。私の役割の一つは、社会価値と経済価値の両方を追求するモデルをつくり「サステナブル・グロース(持続可能な成長)」を実現していくことです。そしてもう一つは、最終的に企業価値を上げていくことです。それには、財務的な価値や利益はもちろんですが、非財務、未実現財務価値というものをいかに見える化し、社内に対しても社外に対してもコミュニケーションをしていくかです。その結果として、市場での評価が上がり、マーケットでは時価総額や株価などがいかに上がっていくかというコミュニケーションです。業務としては、人事的な側面もありますし、ブランドやコミュニケーションに関わるPR的な側面もありますから、人事の最高責任者を含めいろいろな部署の人たちと進めています。

「自分ありき」のパーパス浸透で成長する組織に

――パーパスの浸透においては、一人ひとりのパーパスを起点としたパーパス・ドリブンな(パーパス主導の)企業を目指して「MYパーパス」に取り組まれています。なぜ重要なのでしょうか。

パーパスの浸透には2つのアプローチがあります。まず自分ごと化すること、そして自分ごと化したものを会社としてちゃんと回していく。現在、その両方に取り組んでいるところです。

一番大事にしていることはまず「自分ありき」ということです。会社の中に自分があるのではなく、自分の人生の中に会社があるという考え方です。私は転職してきているので、それを当たり前と捉えています。自分が何かやりたいことや興味があって、それがたぶん今の会社ではできないと思ったら、新しいところに移って行く。外国ではもっと短い期間でキャリアアップを選択することもあります。しかし、日本の大企業で働く人たちは最初こそ自分のパーパスを持っていても、見失ったり、強く意識しなくなってしまう人が少なくありません。一方で若い人は「私」が先にある人が多いです。

なぜ「自分ありき」が重要かというと3つ理由があります。一つは、先ほどのSOMPOが社会に提供する価値の一つ「多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)」にあります。保険会社は女性が多いです。でも、ただ女性が多いだけではあまり意味がありません。国籍や、どこの会社の出身か、ということも含めていろんなダイバーシティがあり、それが見かけだけではなく、実際にそういう人がその考えを表明しないとあまり意味はありません。いろんな人が会議室に座っていて良かったねというわけにはいかないのです。

会社がトランスフォーメーションするためには、ダイバーシティを生かしていかないといけないし、いろんな人たちがいることをよしとし、そのいろんな人たちがいることを生かしていくことが大事です。保険会社は、例えば自動車会社のように特殊な技術があるわけではなく、商品もすぐに真似ができるので、「人」が大事な資産です。しかし、自分がない人、同じことを考えている人が多くいてもあまり意味はありません。みんなそれぞれの個性があるからこそそれらが意見を戦わせ、イノベーションが起きるのです。

二つ目は、内発的である必要があるからです。パーパスは誰かに決められたものではなく、会社として自らがこうありたいという内発的なものです。ですので、私たち一人ひとりも内発的でないと、モチベーションも湧かないしパワーも出ません。こうあるべきなのでこの仕事をしてください、ではなく、自分がこれをやりたい、だからこれをやっているんだという形にならないといけません。

三つ目は、われわれのパーパスが「あらゆる人が自分らしい人生を」と掲げているので、社員も自分らしくないといけません。人々の「自分らしい」に寄り添えないからです。

こうした理由からMYパーパスを大事にしています。ただ、パーパスをこれまで掲げてきたミッションなどと同じような感じで捉えたり、「会社の方針また変わったんだ」みたいな感じで受け止められると、何の力にもならず、会社も成長しません。

――そうならないように、具体的にはどう取り組みを進めていますか。

トップダウン、ボトムアップ、タテ(組織のライン)、ヨコ(コミュニティ・草の根)から取り組んでいます。

経営トップの発信では、昨年9月から櫻田が参加して「タウンホールミーティング(対話集会)」をZoomで開催しています。これまでに7回開催し、のべ1万人が参加しました。登壇するのは、櫻田と外部のファシリテーター、4人の代表社員です。国内の全グループ会社の人たちが参加しています。そこでは、なぜこういうことをやっているのか、私は何をやりたいんだろう、何をやりたかったのかを考えてもらいます。

これまで開催してきたミーティングでは、会社のパーパスがこうだという話は全く出ず、参加者個人が自らのパーパスの話をしています。櫻田がそれに質問したり、「私の場合は」という話をしています。損害保険事業の人が介護事業の人の話を聞くとまた違う考え方があり、改めて違う刺激を受けて、自分のことを考えるようにもなる。さらに、この人たちみんなSOMPOの人なんだっていうグループの結束感も感じられるイベントになっています。

次にSOMPOのパーパスとどうつなげていくか。そこで上司と部下が1on1で対話をし、仕事を通じて個人のパーパスを達成できる、実現していくにはどうしたらいいか擦り合わせをします。「あなたのモチベーションの源泉は何か」を改めて考えてもらい、それを会社を使ってあなたのやりたいことがもっと大きく実現できるかもしれないとか、そういう風になっていけばという発想で取り組んでいます。

やってみて思うのは、みなさんが仕事を結構狭く捉えがちだということです。そこに上司などが入ることで、あなたのやりたいことはこう実現できるのではないか、こんな風に考えたらこの仕事ってこういう価値があるんじゃないか、ということを考えられたりします。中間管理職の人だったら、新しく出てきたこのプロジェクトはこの人に頼もうという風にアサインメントを変えたりとか。そういうことも含めて、擦り合わせることを手伝ってあげる部分も真ん中の人の重要な役割です。

そして最後に、浸透の進捗を測ります。タウンホールミーティングを開催するごとにアンケートを実施し、エンゲージメントを年2回測定し、定量的にも把握しながら進めていくということを今やっています。1万人のアンケートでは、99%がパーパスに共感したと回答しています。

パーパス浸透は会社を変え、文化を変えること

――パーパスの浸透で難しい点はなんでしょうか。

こうしたことを上手く有機的につなげていかないと、タウンホールミーティングをやってもしばらくすると冷めてしまいます。ですから、現場での取り組みがすごく大事になります。実際に、現場で1on1をやっても、仕事の話になりがちではありますが、なるべくその人自身が何をしたいかを常に自分もまわりも意識をしながらやっていくという意味では、現場がいかにそれをつなげていくかが重要になります。

パーパスの浸透は、会社を変え、文化を変えていくことです。人が資産の保険会社においては、人をいかにいい意味で進化させていくかが大事です。保険会社にはオペレーショナルな部分が多いです。そうした業務を間違えずに正しくやることも大事ですが、データやデジタル、新たなサービスを自分の事業とつなげながら、いかにアップグレードしていくか。そういうところはやはり人からしか出てこない。そうなると、そういう人をいかに多くつくるかが重要になります。

しかし、人に関わる文化に関することは一朝一夕ではできません。継続していかなければならないです。すぐに結果が出るものではないけれど、ある程度そういう風にして火がついた人が別の人に影響を与えるというようなことをしながら、一人でも多くそういう仲間を増やしていくということをやり続けることです。そうして、文化を変え、実際にイノベーションが起きる、成長する組織にしていかないといけません。

違う視点・感覚を生かし、前例のないことへの挑戦を楽しむ

―― 下川CSuOはゴールドマン・サックス証券、カーライル・グループ、日本マクドナルドを経て、2016年にSOMPOひまわり生命に入られ、昨年8月にCSuOに抜擢されました。社外出身の方が役員になるというのは、SOMPOの経営においてどのような意味があるのでしょうか。

ダイバーシティ&インクルージョンを重視する中で、性別、出身会社、途中入社にかかわらず、これからはさまざまな人がSOMPOホールディングスの役員となる可能性がある。そういう大きな意味があるだろうと思っています。

社歴は浅いですが、チームの人たちがさまざまなことを分かっています。こうしたことは元々、チーム制で取り組むものです。前職でも初めは知らないことが多かったです。でもそれは当たり前のこと。いかにそこにいる人たちと一緒にやっていくかというときに、その人たちと違うものは何だろうかと考えます。違うところでの経験を、あるいはここにいると当たり前だけど外から見ると違うものとか、その逆もあります。その視点をいかに持ってきて、どう翻訳していくか、そういう話だと思います。それは社内もそうだし、社外も、対外国人でもそうです。そういう違う視点、違う感覚と、この会社にある強みをマッチさせていかないといけない。それが私の役割だと思っています。

――サステナビリティを推進する上で、大事にされているリーダーシップや信条はありますか。

強いていうなら、「サーバントリーダーシップ(奉仕型リーダーシップ)」です。でも別にそうしようとしているわけではなくて、そうすることが本当に一番自然だからです。皆さんと一緒にやらないとどうにもならないです。

個人としていつも思っているのは、いかに仕事を楽しくやるのかということです。やはり仕事をする時間は長いです。そこが楽しくないと辛いですね。別にただ楽しいわけではないかもしれないけど、いかにそれを楽しく捉え、そう位置づけてやっていくか。あるいはそこに楽しみを見出すか。どうせやるなら仕事は楽しくやる。何かあったとしても、新しいチャレンジがやってきたとか、ラスボスが来たみたいな感覚でいかにやっていくかが大事かなと思います。

これまでも新規事業の開発・展開を手がけ、新しい、まだ誰もやっていないことをやってきました。今回もまだ必ずしも誰もやりきっていないことです。チャレンジすることを大事にして、面白いなと思って邁進しています。

写真:原啓之

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下川亮子 (しもかわ・りょうこ)
下川亮子 (しもかわ・りょうこ)

SOMPOホールディングス
グループCSuO (Group Chief Sustainability Officer) 執行役
2021年8月SOMPOグループ全体のサステナブル経営推進責任者であるグループCSuOに就任。SOMPOのパーパス実現に向け、グループ全体のサステナビリティ推進・パーパスの社内浸透・対外的コミュニケーションのためのパーパスをベースとしたブランド戦略などをミッションとして、SOMPOの企業価値の向上に取り組む。ゴールドマン・サックス証券の東京・NYにてアドバイザリー業務、不動産投資に従事。世界最大級の投資会社であるカーライル・グループの日本拠点創設メンバーとしてバイアウト投資及び複数投資先企業の事業価値向上に携わる。その後事業会社に転じ、日本マクドナルドにて、経営戦略や店舗開発に加えて上席部長としてBrand Extension(新規事業開発・展開)を牽引。2016年SOMPOひまわり生命入社。執行役員人財開発部長として人事制度改革や働き方改革、健康経営を推進。2020年にはSOMPOホールディングスのヘルスケア事業開発部の立ち上げに参画。東京大学経済学部卒。