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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第32回

投資家はESGの「G」に注目――西貝昇・三菱地所執行役常務

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Interviewee
西貝昇 三菱地所執行役常務
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー
西貝昇・三菱地所執行役常務(撮影・川畑嘉文)

ESG(環境、社会、ガバナンス)経営への関心が高まる中、三菱地所の西貝昇・執行役常務は「投資家からは『G』(ガバナンス)への関心を強く感じる」と話す。街づくりや施設管理などの本業については、街のブランド価値向上に加え、空港運営事業にも乗り出し、地域活性にも力を入れる。ESGと本業を同軸に捉え、自社の価値向上を目指す戦略を聞いた。

グローバルからの関心高まる

同社はコンプライアンスガイドブックを制作し、グループ全社員に配布しているという

――企業とサステナビリティを巡る環境は、数年前に比べてだいぶ変わってきたのではないでしょうか。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を加速しています。

西貝:ESGという言葉の概念が広がる中で、SDGs(持続可能な開発目標)もパリ協定も世界で急速に浸透し、こうしたムーブメントがますます大きくなってきた印象があります。当社はGPIFの保有銘柄に入っていますが、当社の株主のうち外国人が4割を超え、グローバル規模で注目されているのを実感しています。

――投資家やアナリストの関心はどこに向かっていますか。

西貝:特に投資家は、ESGのうちG(ガバナンス)に注目していると感じます。最近は社外取締役の数を聞かれることが多いですね。当社は取締役15人のうち社外取締役が7人です。日本企業の中では高い比率で、その点でも評価頂いているようです。

環境や社会的な取り組みも、「基本の基」として他社に先駆けて進めてきたという自負があります。環境面ではCO2削減や省エネなど、2030年に向けて、あるいはさらに先を見据えた具体的な数値目標を検討しているところです。ZEH(ゼッチ/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など、個々の取り組みは展開していますが、三菱地所グループ全体としての長期目標をつくっていくということが一番大事だと思います。

――投資家のガバナンスへの関心は国内と海外で違いはありますか。

西貝:どちらかといえば海外の方がガバナンスに対する関心は高いです。ガバナンスはそもそも欧米企業が社外取締役を中心とした客観性の高いシステムとして採用してきた経緯がありますから。

――最近多い質問はありますか。

西貝:海外の投資家からは、人権問題に関する質問が増えています。不動産業界の場合、直接、人権問題にかかわる場面は少ないのですが、グループを挙げてCSR調達ガイドラインを設定し、取引先にも協力して頂いています。この点も投資家から評価されていると思います。

今年4月には「三菱地所グループ人権方針」を策定しました。さらに、同業他社にも声掛けして9月から「人権デュー・デリジェンス勉強会」を始めたところです。当社のほか、NTT都市開発、東急不動産ホールディングス、東京建物、野村不動産ホールディングス、大林組、清水建設、大成建設の8社が参画しています。

――それは三菱地所が働きかけたのでしょうか。

西貝:はい、そうです。SDGsをはじめとしたグローバルな人権意識の高まりを受け、当社グループもきちんと対応しなければならないという思いがありました。

――1社だけではなく業界全体で動くのは画期的ですね。人権のどの部分を重視していますか。

西貝:建築材料のトレーサビリティや、外国人労働者をどういう形で受け入れて、現場でどう働いてもらえるか――などです。海外で事業展開している場合は、児童労働も重要なテーマです。取引先をはじめ、間接的にでも人権問題にかかわっていないかを注視しています。ですから、警備といったサービス業の範疇まで、広くガイドラインの対象としています。

内部階段で上下のコミュニケーションが活発化

柱や壁を取り払った広いフロアには、多様なコミュニケーションスペースが設けられている ©2017 Nacasa & Partners Inc. all rights reserved.

――今年2月に「大手町パークビルディング」に移転されましたが、何か変わりましたか。

西貝:「働きやすいオフィスづくり」ということで、社員が働きやすいだけではなく、顧客に対しても「こんなオフィスはいかがですか」と提案できるオフィスを目指しました。ハード面、ソフト面ともに最先端のものを取り入れています。すでに5000人以上の方に見学に来て頂きました。

デスクを固定しないフリーアドレスやIT化はもちろんですが、最大のポイントは、コミュニケーションの進化です。これを実現するため、フロアから壁も柱も無くしました。

内部階段を設けたことで社内のコミュニケーションが活発化した ©2017 Nacasa & Partners Inc. all rights reserved.

――ぶち抜いたということですか。

西貝:はい。内部に階段を作って、上下のコミュニケーションも良くしました。これで、わざわざエレベーターに乗らなくても、行き来できるようになったのです。ちょっとした会話も増えました。

さらに多様なコミュニケーションスペースを増やし、遊び心を入れながら、交流が生まれるような仕組みや場所づくりを工夫しました。様々なイノベーションが生まれるオフィスを目指しています。

――三菱地所は丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町・常盤橋地区)のまちづくりを一手に担っていますが、建物を造るだけでなく、働き方の提案やクリエーティビティー、イノベーションが求められているのですね。

西貝:おかげさまでもう100年以上、丸の内のまちづくりをさせて頂いています。自らがここで一番良いオフィスをつくり、一番望ましい働き方をしていくことが、ある意味、使命なのです。

――丸の内エリアのまちづくりコンセプトとして「ダイナミックハーモニー」を掲げられていますが、これはどのようなコンセプトですか。

西貝:ダイナミックハーモニーは、オープン、インタラクティブ、ネットワーク、ダイバーシティ、サステナブルをベースにした丸の内の「多様なあり方」を表現したコンセプトです。

――具現化されたプロジェクトはありますか。

西貝:ダイナミックハーモニーのコンセプトを集約するのが、2027年に完成予定の東京駅前常盤橋プロジェクトです。ダイナミックハーモニーのコンセプトを具現化するべく取り組んでいます。

――日本で最も高い390メートルの超高層ビルの建設計画ですね。2007年に開業した新丸の内ビルディングでは「東京21cクラブ」という起業家向けの会員制組織が生まれました。私も2007年以来、入会しています。

西貝:それがまさに、オープンでありインタラクティブなネットワークです。

――防災やBCP(事業継続計画)の観点では、どのような取り組みをされていますか。

西貝:当社は大正時代から毎年9月1日に、全社を挙げた防災訓練を行っています。大手町パークビルは、バックアップ電源の設備もありますし、隣の「グランキューブ」は丸の内エリアの防災拠点として、最先端の防災設備が整っています。聖路加国際病院と連携した「聖路加メディローカス」という大規模な医療施設もあります。大きな災害が起きた時、そこが救護に当たるようになっています。

空港運営事業で地方の活性化へ

写真手前は、都市と農山村をつなぐ「空と土プロジェクト」で生まれた「純米酒『丸の内』」と「純米焼酎『大手町』」

――ところで、三菱グループ全体では、組織風土のあり方といった議論はするのでしょうか。

西貝:今の三菱グループのつながりは緩やかですが、やはり「三綱領」(所期奉公・処事光明・立業貿易)は大事にしています。

――最近、CSRやサステナビリティ経営を論じる時に、企業理念を中核に置くことが問われます。私も三綱領を作った岩崎小彌太(4代目社長)を経営者としてとても尊敬しています。

西貝:そうですね。三綱領はグループ共通の経営理念です。さらに当社は「私たちはまちづくりを通じて社会に貢献します」という基本使命を大事にしています。

――地方では人口減少や過疎が深刻です。御社はこの社会課題にどう向き合いますか。

西貝:いま、空港運営事業を進めています。国や県の空港運営権を民間に譲渡することを「空港コンセッション」というのですが、その第1弾が香川県の高松空港です。当社をはじめ6社による高松空港株式会社が今年4月に運営を開始しました。

第2弾はコンセッションではないのですが、沖縄県宮古島市の下地島空港です。2019年3月30日に開業予定です。第3弾は富士山静岡空港(静岡県牧之原市)。東急電鉄とともに事業を推進しており、2019年4月から運営を開始予定です。いずれも自治体や地元の商工会議所などと協力しながら、旅客数を増やし、地域を活性化することを目指しています。

――東急電鉄とは珍しい組み合わせです。オープンイノベーションの一種ですね。空港運営のノウハウはどうされたのですか。

西貝:当社は元々空港運営のノウハウを持っていたわけではないのですが、商業施設をはじめ建物の運営管理のノウハウは豊富です。それを生かしてこの「空港コンセッション」を新しい事業の基本分野の一つにしていきたいのです。

三菱地所は民間事業者として初めて皇居の濠(ほり)由来の希少な水草や生き物などの保全を行う 「濠プロジェクト」を開始。濠で採取した⿂類・⽔草等の⽣物は、⼤⼿町のオフィスビル敷地内の公開緑地「ホトリア広場」に移植した

――「コンパクトシティ」についてはどのようにお考えでしょうか。

西貝:大きなトレンドとしては、コンパクトシティ化が進んでいくと思います。当社の支店があるような札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡といった中核都市では特にそうでしょうね。インバウンドの受け入れも含めた形で将来に向けた都市づくりが進むでしょう。その一翼を当社でも担えればと思います。

――ビルの在り方も変わりますね。

西貝:建て替えるのか、リノベーションするのか。 隣の大手町ビルは、もう築60年ですが、100年ビルにしようということで、リノベーションを選択しました。名古屋でも、昭和元年竣工の建物に保存・改修工事を施し、結婚式場・レストランとしてまるまる賃貸しました。

スクラップアンドビルドだけではなく、良いものは生かしていく、リノベーションしていく。「まさにそれがサステナブルだ」というビルを用意していきたいのです。ユニバーサルデザインにも最大限取り組んでいきたいです。

――その辺りが、社会課題を起点にしたビジネスの創出、つまりSDGsでいう「アウトサイドイン」につながっていくのでしょうね。

西貝:まさに、社会課題の解決とビジネスに一体的に取り込んでいくということです。今夏のトップマネジメント経営セミナーには、社長も会長も参加しましたが、「イノベーティブな取り組みをしていくことが企業としてのサステナビリティである」「サステナブルな企業としてこれから社会とともに生きていく」という考えで一致しました。

――イノベーションを通じてサステナビリティを実現する。今までの延長線上で「少しずつ」ではなく、高い目標を立て、イノベーションを起こしてそれを実現するのが大切ですね。

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西貝昇(にしがい・のぼる)
西貝昇(にしがい・のぼる)

三菱地所執行役常務
1983年4月、三菱地所に入社。2009年4月にCSR推進部長に就任。その後、三菱地所ホーム 取締役社長、三菱地所 執行役員総務部長などを歴任。2017年4月から執行役常務(人事部、総務部、法務・コンプライアンス部、環境・CSR推進部、コンプライアンス、リスクマネジメント、環境・防災担当)。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。