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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ第29回

環境問題と経済・社会的課題の同時解決へ――中井徳太郎・環境省総合環境政策統括官

Interviewee
中井 徳太郎 環境省総合環境政策統括官
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー

環境省が、環境問題と経済・社会的課題の同時解決に向けて大きく舵を切った。SDGs(持続可能な開発目標)や「パリ協定」に向けたパラダイムシフトが世界規模で始まった中、環境省はビジネスによるイノベーションの創出など、これまでにない積極策を「第五次環境基本計画」で打ち出した。その真意を中井徳太郎・環境省総合環境政策統括官に聞いた。

日本のシステムを世界のモデルに

――サステナブル・ブランド国際会議では、2016年から「グッド・ライフ」を世界共通のテーマに掲げています。2013年に始まった環境省の「グッドライフアワード」と偶然にも同じネーミングです。しかし、「これは単なる偶然ではない」と感じています。

中井:「グッドライフアワード」は、環境大臣賞として、環境や社会をより良くする取り組みを顕彰することで、さらにその輪を広げていきたいというコンセプトでスタートしました。

私たちはいま経済、社会の仕組みが大きく変わる転換点にいます。経済や社会が持続可能な形に変化していくことが求められていますし、多くの人がその方向性を実感していると思います。

環境、経済、社会の課題はそれぞれ関連し、複雑化しています。持続可能な社会を実現するには、それらを「統合的」に向上させることが必要なのです。

ライフスタイル、技術、社会経済システムのどれが先か――ではなく、一緒に取り組むべきです。生活者の価値観が明確になり、それを可能にするような商品やサービス、技術が生まれ、経済の仕組みや政策が変わっていく。すべて同時なのです。

「グッドライフアワード」は環境省の職員が侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をした結果、生まれたものです。名前もみんなで考えました。

ライフスタイルという個人の志向に政府が口を出して良いのか、という議論もありました。しかし、私たちが持続可能な社会を実現するためには、本当の意味での自然との調和や「脱炭素化」が必要であると考え、ライフスタイルに焦点を当てることになりました。

――日本人のライフスタイルや行動規範を変えていきたいということですね。日本人も日本企業も、もともと環境に対する意識が高いと言われます。ただ、本当に脱炭素社会を実現するには、よく言う「乾いた雑巾を絞る」手法はもはや通用せず、イノベーションが必要です。

中井:これは大変な作業です。しかし、今回の「第五次環境基本計画」でも強調していますが、私には「日本だからこそ可能だ」という強い思いがあります。世界のモデルになれるはずです。

日本人の持っている精神性や生真面目さ、すべての生きとし生けるものを大切だと感じる感性、江戸時代の循環型社会――。日本が開国した時、外国人もこれに驚いたわけです。産業革命以降、大量生産・大量消費が進み、日本も物質文明になりました。

しかし、2015年に採択されたパリ協定は、21世紀中に温室効果ガス排出を実質ゼロにするという合意です。新たな文明社会に向かってパラダイムシフトが起きているのです。

何もない白地に絵を描くのではなく、すでに日本には技術や匠の技、感性があります。石炭火力発電の問題などで、「日本は本気で温暖化対策に取り組んでいるのか」といった疑問の声もありますが、私の肌感覚では、「システム」として世界に発信できるのは日本だと確信しています。

バックキャスティングで「脱炭素化」へ

――環境・社会・経済の問題を同時に解決し、ブレークスルーを起こすには、「あるべき姿」を描く「バックキャスティング」が必要です。

中井:その通りです。第五次環境基本計画が閣議決定に至るまでの関係各所との調整ごとでもありました。経済界は「2030年度までに2013年度比26%削減」にコミットしていますが、その先はまだ白地です。

環境省は当然「2050年80%削減」を前提に、バックキャスティングで環境基本計画の戦略をつくりました。

――日本企業には根強く「できない目標を掲げるのは無責任だ」という意見や、できることを積み重ねていく「フォアキャスティング」という考え方もあります。

中井:パリ協定とSDGsを経営トップがどう咀嚼(そしゃく)するか、です。パリ協定は、CO2を出さないという「脱炭素」が前提です。世界は環境・経済・社会課題の同時解決にコミットしています。

すぐには変えられないかもしれませんが、「21世紀中」という長い時間軸での大きなシフトであり、人類が始まって以来のパラダイムシフトです。現在の延長線上を進むのではなく、長期目標を明確にするものでなければいけません。第五次環境基本計画は、閣議決定文書であり、日本政府が変わっていくというメッセージなのです。

――第五次環境基本計画では、環境・経済・社会の統合的向上を目指し、分野横断的な戦略が掲げられています。日本は「縦割り行政」とも言われますが、こうした横串を刺すような戦略に、否定的な意見は出なかったのでしょうか。

中井:それこそ以前は、環境省は「環境」というエリアだけやっていれば良いという考え方もありました。やはり新しい概念に抵抗を示すものもいます。しかし、一歩踏み込みたかった。さらに、SDGsやパリ協定など、世界的な流れもありました。

バックキャスティングで目指す社会を描き、「目標が達成できたら国民が幸せになる」という明確なイメージを共有しました。ですから、それに対して大きな抵抗はありませんでした。

――以前、森本英香・環境事務次官とお話した時に、「環境ビジネス」という言葉を盛んに使われていました。これまでは環境とビジネスの関連が薄かったと思うのですが、いかがでしょうか。

中井:まさしく今おっしゃったようなことを明確にしたのが「第五次環境基本計画」です。もともと環境省は1971年、水俣病など公害問題をきっかけに発足しました(当時は環境庁)。その後、気候変動など地球規模の課題での国際交渉を手掛けるようになりました。

「第五次環境基本計画」は、人間の営み自体が、地球、生命、生態系と調和する方向に進むことこそが、民間経済活動の目指すものであるし、世界全体が目指すものだという考え方です。

大量生産、大量消費、化石燃料依存型の社会から、IT革命も進み、スマートな社会になっていく。この移行自体が、民間活動であり、政策であり、個人の行動様式の移行です。

こうした大きな移行自体が、経済として見れば成長であり、企業にとっては本業なのです。環境はコストやおまけのような発想ではなく、サステナブルに移行する活動が、本業というステージになったということです。

日本の場合、世界に逆行して人口が減っていくので、経済のパイは小さくなるとの懸念がありますが、環境問題を解決していく中で、経済やビジネスの付加価値が増えれば、金銭ベースのパイも広がるわけです。

金銭的な価値だけではなく、「質」の高さを目指すことも成長と言って良いでしょう。質量両面から新たなステージに立ったということです。

「地域循環共生圏」が目指す姿

――第五次環境基本計画の中で目指すべき社会の姿が「地域循環共生圏」ですね。この中で日本として「あるべき姿」や目標はありますか。

中井:「環境・生命文明社会」という新しい概念を出すことにこだわって、政府内調整を行いました。

サステナビリティが世界で求められていますが、何が究極のサステナビリティなのか、というところまではまだ行きついていません。

欧州連合(EU)は「サーキュラー・エコノミー」(循環型経済)を打ち出しましたが、日本だからこそ言える、地球人類が目指す姿を「循環」と「共生」という言葉に託しています。これを、究極その文明が転換するというところまでいっているので、環境・生命文明社会と言っています。

命、生命、生態系のシステムが、体で見ると血流の循環系であり、食べて出す消化系も、空気を吸って吐く呼吸も、全て循環共生システムです。

そのことが「究極の持続可能社会」であることを環境政策の観点から言い切っているのです。

これは概念設定として非常に尖っていると思いますし、21世紀を通じて耐えられるものだと思っています。これをうまく英語に変えるというのが今、課題です。

――確かに英訳は難しそうですね。

中井:英訳をして、腹をくくって世界に打って出たいのです。「サステナブルというのはこうだ」と日本から世界に発信していきます。

では、地域循環共生圏とは何か。生態系ベースで森里川海の流域系であるとか、都市の中での循環系とか、地域の中でも市町村単位、あるいは市町村が組むとか、いくつかいろいろなレイヤーがあります。この概念を具現化していくということを精力的にやっていきたい。

ただ、概念だけでは分かりづらいので、再生可能エネルギーの導入やエコツーリズムなど、各地域で起こっている事例を白書「地域循環共生圏の創出による持続可能な地域づくり」にまとめました。

次の第六次環境基本計画をこれから検討していきますので、この5年間は死にものぐるいで取り組もうと考えています。

「カーボンプライシング」は政策のシグナル

――中央環境審議会をはじめ、「炭素税」「排出量取引」など、カーボンプライシング(炭素の価格付け)について議論されています。

中井:今のままで明日、明後日が続くという発想では、おそらく経済活動のパラダイムシフトはうまくいきません。

脱炭素というチャレンジングなことに対して、経済界も安心してついて来られる政策メッセージとしては、やはりカーボンプライシングは有効だと思います。6月のG7首脳会合(カナダ・シャルルボワ)でのコミュニケにも入ったように、世界でも導入が進んでいます。

第五次環境基本計画が目指す社会を具現化していくには、やはり日本でカーボンプライシングを一番良い形にすることが求められていると思います。

――グリーンボンド(環境用途の債券)にも期待が集まっています。

中井:環境省はグリーンボンド市場をつくるべく、促進施策を打っています。金融機関や投資家、企業といったお金を出す方と受ける両方に、ESGという文脈でお金が流れるようにするには、その情報の整備が必要です。

――ESGも含めて、環境省と金融庁の連携が大事ですね。「なでしこ銘柄」のように環境銘柄ももっと伸ばしていけたら良いです。

中井:「環境促進銘柄」といった案もあります。カーボンプライシングが仮に税であったり、排出量取引であったりしても、単純な国民負担ではなく、新たな成長ドライブのメカニズムに変えるための仕掛けだということを訴えたいです。

そのボタンを掛け違えないように、広くみなさんに理解していただくことが一番大事だと思っています。

カーボンプライシングの議論は、国の収支が悪いので穴埋めしようというものではなく、経済システムを移行するための仕組みです。本当にパラダイムシフトが進み、CO2が排出されなくなれば、地球温暖化対策税なども不要になります。

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中井 徳太郎(なかい・とくたろう)
中井 徳太郎(なかい・とくたろう)

環境省総合環境政策統括官
東京大学法学部卒業。大蔵省入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向。日本海学の確立・普及に携わる。その後、財務省理財局計画 官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)などを経て、東日本大震災後の2011年7月の異動で環境省に。総合環境政策局総務課長、大臣官 房会計課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長を経て、2017年7月より現職。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。