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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第25回

「1-1-1」モデルで非営利セクターを後押し――セールスフォース・ドットコム 伊藤孝 専務執⾏役員 経営企画・営業戦略担当

Interviewee
伊藤孝 セールスフォース・ドットコム専務執⾏役員 経営企画・営業戦略担当
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー

CRM(顧客管理)システム大手の米セールスフォース・ドットコムは1999年の創業以来、製品・株式・就業時間の1%を社会貢献に充てる「1-1-1」モデルと呼ばれる取り組みを展開してきた。NPOなど社会課題の解決に取り組む団体をIT技術で後押しするだけではなく、1-1-1モデルをムーブメントとして広げていこうとする「Pledge 1%」プログラムを主導、製品・株式・就業時間いずれかの1%を社会に還元する取り組みに参加する企業は5000社を超えた。日本法人の社会貢献活動の責任者である伊藤孝専務執行役員に、同社のCSR戦略を聞いた。

――1-1-1モデルで、製品を提供した団体数は3万4000を超えました。非営利団体への助成総額は世界で2億ドルに及び、日本法人の社員は年間平均約20時間(2017年度)のボランティア活動を行っています。1-1-1モデルはどのようにして生まれたのでしょうか。

創業者のマーク・ベニオフは、ビジネスの本質は世の中を良くすることにあると捉え、社会貢献もビジネスの一つとして考えています。

社会貢献を企業文化として根付かせるためには、利益が出てから社会貢献活動を展開するのではなく、経営戦略のDNAの一つとして組み込むべきと考えました。そうして、経営と社会貢献が統合した1-1-1モデルが生まれたのです。

マークは15歳でゲームソフトの製作・販売を行う会社リバティー・ソフトウェアを立ち上げました。自身が若い頃に起業した経験から、社会は若者が動かすものだと強く考えています。

こうした考えから、子ども向けのプログラミング教室や高校生を対象にした起業家育成プログラムなど、若者支援には力を入れてきました。

――セールスフォース・ドットコムの日本法人では、年間一人当たり20時間のボランティア活動を行っています。社内でどのようにして浸透させていますか。

社員のボランティアをサポートする仕組みをいくつか持っています。一つ目は、ボランティアを企画し、社内で参加を呼び掛ける社会貢献委員会です。興味はあるが、どんな活動に参加していいのか分からないという社員へ情報発信をしています。

ボランティア情報だけでなく、NPOの方を講師として招き、取り組んでいる社会的課題について話してもらうイベントも企画しています。委員会は自主的に集まった50人程度で構成しており、私も委員の一人です。

人事制度として、有給休暇とは別に年間56時間のボランティア休暇を設けています。新卒・中途にかかわらず、新入社員研修の冒頭2時間ほど社会貢献活動への考え方を説明します。研修の2日目には実際にボランティア活動に行ってもらいます。

グループ全体で集まる会議や社員旅行などの機会にも、アクティビティの一つとして必ずボランティア活動を組み込みます。こうした過程で社員は「ボランティアをしながら働くことが当たり前だ」と自覚するようになるのです。

伊藤氏もボランティアに積極的に参加。写真は熊野古道での清掃活動時

グローバル全体で年間のボランティア時間が100位以内に入ると、その社員が選んだ団体へ会社から1万ドル寄付できる権利が与えられ、会社主催のイベントへも優先的に招待します。これも、ボランティアへの参加意識を高めるための施策です。

もちろん、ボランティアは強制ではありません。給与の査定や昇進への評価基準にはないのですが、各社員が年間のボランティア時間の目標を立てています。

例えば、私は経営企画・営業戦略担当ですが、社会貢献活動に加えて、インサイドセールス(内勤営業)を管理しています。 当社では、人材育成の一環で、新人はまずインサイドセールスに配置するのです。

新人は、製品の機能を覚えて電話営業や外勤営業へ渡すための資料の作成を行います。ここで一定の成績を上げた社員から外勤営業に異動させます。外部から優秀なビジネスパーソンを集めるのではなく、新人を育て上げていくことからスペインのサッカークラブ「FCバルセロナ」に似ていると言われます。バルセロナも下部組織「カンテラ」から主力選手をたくさん出しているのです。

内勤営業に配置された社員も平均で年20時間はボランティアをしており、さらに高い数値目標を設定しようと話し合っています。

――経営と社会貢献を統合した1-1-1モデルの成果は、本業にも出ていますか。

うちの強みは全社員参加型で取り組んでいることなので、会社の規模が拡大するほど、ボランティア活動の時間が増えていき、社会へのインパクトも増しています。米フォーチュン誌による「社会貢献に熱心な企業ランキング」では2017、2018年2年連続で1位に選出され、Pledge 1%という1-1-1モデルに参加している企業数は5000を超えました。このネットワークの広がりが社会で認められてきたことを証明していると思っています。

成績優秀者ほど社会貢献に熱心な傾向にあります。仕事だけに没頭するのではなく、相手への思いやりを持った視野の広い人のほうがビジネスチャンスを得るのは当然です。

リクルーティングやリテンション(優秀な社員の社外流出の防止)としても効果が出ています。当社の社員がヘッドハンティングされても転職する人が少ないのは、「ボランティアをしながら働けなくなるから」という声をよく聞きます。新卒採用を始めて4年になるのですが、離職率はかなり低いです。

――日本の非営利団体も年々、セールスフォースのサービスを導入する事例が増えているようです。最近、御社のサービスを活用して業務に良い変化が出た事例はありますか。

四半期に1度、当社のサービスを導入していただいているNPOが情報交換をする分科会が開催されています。その中で、社員がプロボノとして講師になり、サービスの使い方をレクチャーすることもあります。研修を受けた新入社員にトレーニングの一環として、講師を任せて勉強会を実施することもあります。

NPOといっても、事業型や寄付型、スタッフの数などさまざまなので、伝える内容もその団体に応じて違います。アフリカのエイズ孤児支援を行う国際NGO PLAS(プラス)は寄付者を管理する時間を年間で240時間も削減できました。事務効率が上がったことで本業に集中できるようになりました。

――経営と社会貢献の統合を進めていくにあたり、NPOとの向き合い方を変えていくこともカギです。

NPOとの垣根を取るためには、直接会って、話しを聞くことに限ります。潜在的に関心は持っているが、活動に参加する機会がないだけという人は多いと思います。そのような人は、声をかけてくれることを待っています。私もそうです。ボランティアで汗を流した後、みんなで一緒に食事をしたりすることもあり、懇親を深めることも楽しみになっています。

――2018年度通期の売上高は前年比25%増の104億8000万ドルでした。1兆円を超えましたが、今後のサステナビリティに関する中長期戦略を教えてください。

マークが創業から言っていることですが、企業は数字を追うのではなく、「世の中を良く」することが役割です。あえて、社会貢献を取り上げるのではなく、経営と社会貢献の統合をメッセージとして社会へ発信していきたいと考えています。

1-1-1モデルでサービスを提供した団体数はグローバル全体で3万4000あります。それぞれが社会課題の解決へ動いており、その取り組みをテクノロジーで後押ししていきたいです。

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伊藤孝 専務執⾏役員経営企画・営業戦略担当
伊藤孝 専務執⾏役員経営企画・営業戦略担当

1985年4月日本アイ・ビー・エム入社、主計に配属される。88年税務。99年5月米ニューヨーク州アーモンク本社出向、アジアパシフィック担当。2000年5月ニューヨーク州ソマーズ事業所、サービス事業担当。01年4月アジアパシフィック本社(東京)。05年、理事に就任。09年1月、同社退職後、2月日本ヒューレット・パッカード入社。取締役常務執行役員管理統括(CFO)を14年2月まで務めたのち14年3月にセールスフォース・ドットコムに入社。常務執行役員、経営企画、営業戦略担当に就任。18年2月に専務執行役員 経営企画、営業戦略担当に就任。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。