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サステナブル・オフィサーズ第12回

CSRは企業価値創造の原点―田村 康弘・損保ジャパン日本興亜 常務

Interviewee
田村 康弘・損保ジャパン日本興亜 常務
Interviewer
川村 雅彦・オルタナ総研所長

明治時代に創業した東京火災の「公助の精神」を脈々と受け継いだ損保ジャパン日本興亜は、1992年の地球サミットに参加された当時の社長の指示により、環境問題を先進的に取り組み始めた。時代の変化に合わせて、CSR課題を経営方針に反映させてきた損保ジャパン日本興亜のCSR/CSVの現状と次代の戦略について、CSRを統括する田村康弘 取締役常務執行役員に話を聞いた。

トップダウンで始まった環境への取り組み

川村:私はかつて「2003年は日本のCSR元年」と提唱しましたが、当時から貴社は日本企業のCSR経営をけん引してこられました。特に気候変動の認識が高く、実に多様な取り組みをされています。

田村:1992年当時の後藤康男社長が、リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」に経団連のミッションとして参加したことがきっかけでした。「これからは、環境に対して先進的な企業にならなければならない」と考えたそうです。

川村:グローバル時代に入ろうとする時に、後藤社長が「天の啓示」を受けたわけですね。

田村:環境問題を経営に取り込み、当時珍しかった「地球環境室」を設置しました。しかし、先進的な考え方だったため、社内的にはなかなか理解してもらえなかったようです。今考えれば、早期にCSRを経営に組み込むきっかけになったと言えます。

川村:当時としては非常に先進的な取り組みであり、それが日本企業には少なかったトップダウンで行われたということになります。

田村:初期のメンバーは何をしてよいか分からなかったようで、当時の環境庁などに積極的にヒアリングして取り組んだと聞いています。

川村:その当時、日本の金融業界ではそういう動きはなかったのでしょうか。

田村:ほぼ無かったと思います。当社の原点は江戸の町火消しです。私設消防団としてお揃いの法被を着て、火事の現場に駆け付け、消火活動を行いました。創業は1888 年(明治21 年)、日本で最初の火災保険の会社としてスタートしました。国民や消費者があってこそ、我々の存在がある。そうした「公助の精神」が、当社のCSRの原点であると思います。

サステナブルな観点から、事業と「目指すべき姿」は一致

川村:昨年、CSRマテリアリティを見直しされましたが、その概要を教えて下さい。

田村:まず、グループ全体としてCSRは企業価値を創造する原点であり、持続的な経営基盤として捉えています。5か年の中期経営計画を構築し、CSRの重点課題として「防災・減災への取組み」「健康・福祉への貢献」「地球環境問題への対応」「よりよいコミュニティ・社会づくり」「ダイバーシティの推進・啓発」を設定しました。この5つの課題解決と、サステナブルな社会の実現とグループの成長を連動させています。

川村:「社会的課題の解決」がひとつのキーワードになっている、と理解してよいですか。

田村:そうですね。経営の基礎となるのは、「国内損保事業」「国内生保事業」「介護・ヘルスケア事業」「海外保険事業」の4つです。特に介護・ヘルスケア事業は、一昨年度からM&Aで踏み込んだ分野です。今後、高齢社会が進む日本の重要な社会的課題であり、貢献度は高いと考えています。サービス産業への進化の一環として、あえて挑戦した事業です。この4つの事業で中計を再構築し、CSRの重要課題とリンクさせ、経営の中核に統合しています。

CSRの重点課題はISO26000やSDGsなどのガイドラインで分析し、KPIなどの作業ベースに落とし込んでいます。全てオープンにしていこうと、16の機関・団体のマルチステークホルダーとダイアログを重ね、社内でもエンゲージメントしました。

川村:CSRマテリアリティについて、こんなに詳しく書かれているのは初めて見ました。企業によっては、そこからリスクとオポチュニティに分ける場合がありますが、貴社では完全に統合されているようです。

田村:おっしゃる通りです。中計に連動して、前に申し上げた5つのCSRの重点課題から当社の特徴を生かして目指す姿を抽出しました。そこから3つの重点アプローチを設定しました。「金融機能やデジタル技術などを活かした革新的な商品・サービスの提供」「人材育成を意識したNPO/NGO などをはじめとするさまざまなステークホルダーとの連携」「継続的に支援し、培ってきた文化・芸術を通じた取組み」です。

当社にとって、1つ目のデジタル技術の活用は喫緊の課題です。そこで、東京・シリコンバレーに「SOMPO Digital Lab」を設置し、双方向で最新情報を収集しています。

川村:金融機関ではITシステム化が重要ですが、戦略的に位置づけられていますね。

田村:フィンテックなど実用的なものも含め、これから来たるべき新しい社会では、デジタル、AI、IoTを活用するのは当たり前になります。保険事業だけでなく、経営全体で新しいものを取り込もうと積極的に行っています。特に櫻田謙悟グループCEOが、先進的な発想で推進しています。

人は企業の宝です。2つ目の「人材育成を意識したNPO/NGO などをはじめとするさまざまなステークホルダーとの連携」では、意識してNPO/NGOなどのステークホルダーと連携していくことを掲げました。3つ目は美術館に代表されるような文化・芸術を通じた取り組みを継続的に行い、うまく活用して新たなCSRを構築していこうと考えています。

川村:CSRの重点課題に挙げているダイバーシティについては、日本企業の主要な取り組みとしては女性管理職登用が挙げられやすいのですが、貴社は「基本的人権」と書いていますね。

田村:男女の性別に関係なく登用するなど、人事制度の改革を行いました。実力ある人材を育てるのは当たり前ですが、あえて内外に宣言したわけです。LGBTなども社会的課題であり、社員教育を含めて具体的に足元から始めている状況です。

川村:あえて申し上げると、今回の見直しでは、前回のCSR重点領域からよりビジネスサイドにウェイトが移った印象があります。

田村:そのように見えるかも知れませんが、実業と目指す姿は一致させるようにしています。サステナブルな観点からも別物であってはいけない。理想は、それぞれの部署で取り組んでいることがCSRとして一致することです。

川村:私はCSR/CSVという表現を使っていますが、社会的課題とビジネスは表裏一体、つまり、社会のサステナビリティと経営のサステナブルグロースは一致させていくべきと考えています。この1年でSDGsを取り入れる日本企業が増えて来ました。貴社では上手くリンク付けはできていますか。

田村:SDGsの17目標からマテリアリティを出せるようになりました。各部署が、何に関係し何を取り組んだらよいか、理解しやすくなりました。投資家に対するESG情報発信なども、CSR部署として整理しやすく環境が整ってきたと思います。

介護事業はデジタル技術で人への負担を軽減

川村:新しい重点課題の内容について、もう少しお聞かせください

田村:「防災・減災への取り組み」のひとつである「スマイリングロード」では、デジタル技術、IoT技術を活用して、ドライバーの事故特性を把握してお客さまの事故削減や安全運転を支援しています。

川村:それはビックデータの解析をしている、ということでしょうか。

田村:その通りです。通信機能付きドライブレコーダーから、日々の走行データを収集・解析をしています。これはB to B事業ですが、多くの企業に採用していただき、事故削減効果が前年比平均20%減になりました。つまり、保険料軽減につながるわけです。

他方、介護ヘルスケア事業は3Kに陥りやすいと言われますが、そこから脱却させたいと考えています。そのためにはデジタル技術の活用が必須で、「人が担う部分」と「機械が補える部分」をきちんと分けることが重要です。

川村:中国は日本の10倍の人口を持ちますが、今後は急速な高齢化が見込まれています。市場としてどう捉えていますか。また、欧米での展開はありますか。

田村:将来的に海外展開はありえますが、まず日本国内で取り組みたいと思います。日本は、社会課題先進国と言われますが、介護事業と単純に考えるのでなく、得られる知見やデジタル技術を発展させるという目論見は、もちろんあります。

時代の変化にフレキシブルに対応

川村:CSRの目指す姿やKPIはバックキャスティングで策定されていますが、CO2排出量の数値目標を除いて、全体的に目標年次がいまひとつはっきりしないように見受けられます。

田村:ひとつひとつのゴールを何年までにします、という細かいKPIは今後の課題です。 次にチャレンジすべきポイントだと認識しています。

川村:社会のメガトレンドが構造的にどう変化していくか理解するには、目標年次を明示して、2050年に備え、ソリューションプロバイダーとして内外に周知することが必要です。

田村:まさに、時代をどう読むかがポイントです。中期計画5年の区切りである2020年頃から恐らく時代が大きく変化しているはずです。フレキシブルに対応し、強靭なレジリエンスを発揮することが重要です。

この数年が、「次をどうするか」を見定める期間だと考えています。大きなドメインを決めて、立ち向かうべき事柄を判断し徹底していくつもりです。ただおっしゃるとおり、どんな社会が来るのか、それを想定することが必要だと思います。

川村:常に時代をウォッチしながら、2020年の次にどうするかがとても重要です。考えながら形にされていくということですね。

田村:SDGsやESGは企業の非財務要因として、経営全体の課題でもあります。さらに深堀して内外に示すことが当面の課題であり、CSR部署の役割だと考えています。

川村:引き続き、日本と世界のCSR、サステナビリティをけん引してほしいと思います。本日はありがとうございました。

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田村 康弘(たむら・やすひろ)
田村 康弘(たむら・やすひろ)

1981年安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン日本興亜株式会社)入社。営業企画室 企画課長、自動車業務部 商品開発課長、セゾン自動車火災保険株式会社 執行役員商品業務部長、高松支店長を歴任。2008年コーポレートコミュニケーション企画部長となり、広報・CSRを統括した後、常務執行役員 神奈川本部長、中部本部長を経て、2015年より現職。広報、CSR、リテール商品業務等を統括している。グループCSR推進本部長。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。