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日本企業のSBT認定・コミットが1000社超える――日経平均構成銘柄の半数が取得、セクターによって取り組みに差も

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Photo by Jason Blackeye on Unsplash

1.5度目標の達成に向け、2030年、そして2050年の中長期的な視点で科学に基づいた脱炭素化の目標を掲げ、推進していくことの重要性が増すなか、SBT(Science-based Target、科学的根拠に基づく目標)の認定を取得、または取得することにコミットした日本企業が、今年3月までに1000社を超え、加速度的に増えている。背景には、パリ協定に整合した排出量の削減行動を取っていないと、グローバルなサプライチェーンから外されてしまうといった危機感があると考えられるが、運営機関の一つである世界自然保護基金(WWF)ジャパンによると、排出量が多く、脱炭素が難しいとされる鉄鋼や化学セクター、環境フットプリントが大きい大手商社などの参加はまだ少ない。取り組みが進むセクターとそうでないセクターで差が開きつつあるのも現状だ。(廣末智子)

SBTiのロゴ

SBTとは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が科学に基づいて設定する温室効果ガス削減目標。2015年にWWFと企業の環境影響に関する情報開示を進める非営利組織であるCDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバルコンパクトによって設立された国際イニシアチブ「SBTi」が、認定を取得した企業やコミットした企業を公開している。

1年足らずで2倍、認定企業数は日本が世界1位に

WWFジャパンによると、SBT認定を取得、または取得することにコミットした日本企業は2024年3月に1000社を超えた。直近の4月1日時点では1082社で、2023年5月に500社を超えてから1年足らずで2倍になった。世界全体では7915社で、国別で見ると、日本は、1位の英国(1155社)に次ぐ2位(3位は米国の970社)。すでに認定を取得した企業数では世界全体が5101社で日本は999社と、米国(549社)、英国(828社)を上回って1位だ。

日本のSBT認定・コミット企業のうち約290社は、SBTi区分による大企業で、東証プライム上場企業も多く含まれる。さらにこの1年の大きな伸びを支えたのは中小企業で、2023年1月時点で214社だった中小企業のSBT取得数は4月1日には791社と3倍以上に増えている。

SBTi区分による業種セクター別では電子機器や機械セクター、建設・エンジニアリングセクター、医薬品・バイオテクノロジーセクターなどが多い。一方で金融機関では1社がコミットしているのみで、排出量が多く、脱炭素が難しいとされる鉄鋼や化学セクター、環境フットプリントが大きい大手商社の参加もまだまだ少ない状況だ。

日経平均株価構成銘柄企業225社中110社が認定・コミット

こうしたSBTにおける日本企業の躍進を踏まえ、WWFジャパンは、日経平均株価構成銘柄に選定されている225社を対象に独自の調査を実施。その結果、3月15日時点で約半数の110社がSBTの認定を取得、または取得することにコミットしていることが明らかになった。

これは2022年末時点での同様の数字に比べて約9%多く、同銘柄での業種セクター別の内訳は、通信や電気機器、自動車、精密機器などからなる「技術」(約75%)と「資本財その他」(約60%)が全体の取り組みをけん引する一方、水産、食品、小売り、サービスからなる「消費」(約44%)、鉄鋼や化学、商社などからなる「素材」(約36%)、「運輸交通」(約33%)、「金融」(約5%)のセクターは低水準にとどまることも分かったという。

金融セクターのSBT取得が特に少ない理由を、WWFジャパンは「日本の金融各社はGFANZと呼ばれる金融機関の脱炭素実現のための国際連合の方法論をベースにして目標を設定する場合が多いことが考えられる」と分析。ただし、「GFANZの方法論とSBTiの金融機関向けガイダンスは相互補完的」であるため、今後は「金融機関のSBTの認定・コミットが期待される」という。また素材セクターの低さについては、「鉄鋼や化学といった脱炭素が難しい業種を含むため」と考察する。実際に鉄鋼メーカーへのヒアリングでは高炉から電炉への移行のシナリオなど「SBTの求める水準にまで持っていくことが難しい」という声が聞かれたという。

サービスなど排出量が相対的に多くないセクターの取り組み遅れも

これらの調査結果について、WWFジャパンの気候・エネルギーグループの羽賀秋彦氏は、「取り組みが遅れているセクターの中には金融や、一般に多排出で脱炭素化が難しいとされる企業群だけでなく、サービスといった必ずしも多排出な産業構造ではないセクターも含まれていた。これは、排出量が相対的に多くないが故に脱炭素へのプレッシャーが少なく、当事者意識や課題感が低くとどまっている可能性を示唆している」と指摘。さらに日経平均構成銘柄企業の残る115社はSBT未取得でコミットもしていない現状に対し、「日本を代表する大企業としての社会的責任やインパクトを踏まえ、排出量の多寡にかかわらず、すべての企業が野心的な目標を科学に沿って設定することが社会全体での脱炭素を実現するために重要だ」として、SBTの取得・コミットを促している。

WWFジャパンでは、日経平均構成銘柄企業225社の脱炭素化を後押しする意味合いから、その取り組み状況を「日本企業脱炭素本気度ウォッチ」と題して今後も継続的にモニタリングしていく方針だ。

「SBTネットゼロ基準」は33社、世界6位にとどまる

なお、バリューチェーン全体で2050年までに90%以上の温室効果ガスの削減を、残りの10%は大気中からの炭素除去を求めるなど、SBTの中でも認定基準の厳しい「SBTネットゼロ基準」を満たした企業は、4月1日現在、世界で795社のうち日本企業は33社で、世界6位にとどまる。今後、さらにSBT認定を取得、またはコミットする日本企業が増え続けることが想定されるなか、それぞれの企業がいかに高い水準を掲げ、実際に排出量削減を推進していくかが日本の脱炭素社会実現の鍵を握っている、と言えよう。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。