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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
サステナブル・オフィサーズ 第24回

サステナビリティを「当たり前」に ーー楽天 黒木昭彦 執行役員 コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部 ジェネラルマネージャー

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Interviewee
黒木昭彦 楽天 執行役員 コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部 ジェネラルマネージャー
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」。楽天はこの理念の下で、事業を成長させてきた。「サステナビリティは原点であり、理念に立ち返ることだ」と黒木執行役員は話す。時代を代表するインターネットサービス事業者はサステナビリティにどう取り組んでいるのか。今年1月に「コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部」を設置し、サステナビリティの取り組みを進化させる同社に話を聞いた。

川村:EコマースをはじめFinTechなど70以上のインターネットサービス事業を行っていますね。企業として、サステナビリティをどのように位置付けていらっしゃいますか。

黒木:「サステナビリティ」は、楽天の出発点であり原点です。私たちは元々、インターネットを使い、地方や個人商店が全国展開する企業と同じ土俵で戦えるようにしたいという思いから、最初の事業である「楽天市場」を立ち上げました。

1997年の創業以来、楽天は「人々と社会をエンパワーメントする」ことを大切にしています。これは、楽天の存在意義でもあります。楽天にとって「サステナビリティ」とは、そのために新しく何かを始めるというものではなく、存在意義でもある創業の理念に立ち返ることであり、大きな意味があります。

現在、70を超えるさまざまな事業を手掛けていますが、どうすれば儲かるのかというポートフォリオマネジメントで事業を成長させてきたわけではありません。人々の生活、社会をどうやってエンパワーメントしていくかーー。生活者の視点に立つことで、事業が広がってきました。

一方、これだけのスピードで事業を伸ばしてきた中で、存在意義を見失わないようにすることは大事なことです。社員の中で存在意義が明確になることは、仕事にも生かせますし、人々や社会をエンパワーメントすることをより意識することにもつながります。

川村:つまり、事業を通して、ステークホルダーである生活者のサステナビリティ・価値を高めることを目指しているということですよね。「地方創生」という言葉が昨今注目されていますが、楽天は、地域課題を解決するために始めたビジネスが大きくなってきたということですね。

黒木:「地方から日本を元気に」という思いは創業時から変わらず持ち続けています。例えば、現在、28地域の自治体と包括連携協定を締結し、協働しています。

岐阜県飛騨市の事例を挙げると、10個の協定項目があり、Eコマースで地域を活性化させるというものから環境保全や関係人口の増加など多岐にわたります。

関係人口をどう増加させるかについては、一例として、電子マネー「楽天Edy」の機能を備えたカード型の飛騨市ファンクラブ会員証を発行し、そのカードで買い物すると、買い物金額の0.1%が「企業版ふるさと納税」として飛騨市に還元される仕組みを構築しています。会員になると名刺をつくることができ、観光大使の役割も担ってもらうことができます。会員証を飛騨市内の協力店で提示すると特典もあり、誘客にもつながります。

直近では、4月4日に岩手県釜石市と包括連携協定を結びました。

川村:釜石市では2019年にラグビーワールドカップが開催されますね。

黒木:はい。その時期には、多くの外国人観光客が来ることが想定されています。宿泊施設の手配や、外国では一般的なキャッシュレスな決済の運用を、楽天の持つシステムを使ってサポートしていきたいと考えています。

その他、これまでの10年間に全国約245校で実践的にEコマースを学ぶ「楽天IT学校」というプロボノ・プログラムを実施し、約7000人が受講しています。

川村:ハード面、ソフト面の両方から地方のエンパワーメントをサポートするということですね。

黒木:そうですね。地域の課題に合わせて、70以上ある自社の事業をテーラーメイドし、対応していくということです。

また、イノベーションを加速させるために、社員から絶えずイノベーションのアイデアを出してもらいたいと考えており、そういう機会を年に数回設けています。楽天テクノロジーカンファレンスやラッカソンなどがあります。

具体的なアウトプットへのこだわり

川村:それでは、マテリアリティについてはどうでしょうか。

黒木:楽天そして主なステークホルダーにとって何が大事か。両方が大事だと思うことが鍵だと考えています。楽天では、マテリアリティの特定を行うにあたり、主要なビジネスパートナーである約100の店舗と1000人のエンドユーザー、国内外の社員約1300人に対してリサーチしました。

サステナビリティに関するマテリアリティは大きく4つあります。「ソーシャルイノベーションを加速」「サステナブルな消費を促進」「地域コミュニティを持続可能に」「災害・人道支援への対応」です。「サステナブルな消費の促進」については、今後、さらに取り組みに力を入れていくつもりです。

マテリアリティに本格的に着手し、社員にもこれをやっていこうと掲げたのは、2017年の夏からです。それぞれのマテリアリティに対応する具体的なプロジェクトがあり、同時に、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも対応しています。

川村:具体的なプロジェクトがあるということは良いことですね。

黒木:私たちは、具体的な成果としてのアウトプットにとてもこだわっています。やはり世の中にインパクトを与えないとエンパワーメントではありません。そこまでいかなければ、「あの会社は何かやろうとして旗を振っている」というところで終わってしまいます。実際にプロジェクトにして、アウトプットすることでSDGsの達成に貢献できると考えています。

川村:企業にそうした枠組みもしくは思考軸があるかないかで、SDGsを達成するレベルが違ってきます。高いレベルで目標が達成されると、経営そのものとしても議論できますし、ESG投資にも関わってきますね。

社外の人々との協働が、イノベーション文化を進化させる

黒木:マテリアリティを実行していくためには、組織として「仕組み化」する必要があります。楽天では、ビジネスレベルとコーポレートレベルの2つのレベルで行っています。

ビジネスレベルの取り組みの例が、この3月から始めたプロジェクト「楽天ソーシャルアクセラレーター」です。社会起業家と参画を希望する楽天社員がプロジェクトチームをつくり、半年間、テクノロジーを活用して社会課題の解決に取り組むものです。

社会起業家を対象に行った説明会には約200人が参加した

社会起業家の中には、すでに形にはなっているけれども、さらにスケールを大きくさせるにはどうすれば良いか悩んでいる方がいます。知識や予算の不足などの問題を抱えている方もいます。

楽天には70以上のビジネスがあり、それぞれの分野の人材やテクノロジー、知識、ノウハウ、資金面でも協力ができます。EコマースやFinTechなど幅広い分野の社員が参加を希望しています。社員にとっては、自分の仕事の知識を使いながら、社会起業家の方たちと共に社会をエンパワーメントすることができる機会です。

プロジェクトに参加する社会起業家の募集は5月15日まで行っており、つい先日、説明会を開催したばかりです。説明会には、予想を遥かに上回る数の約200人の方々が参加してくださいました。子どもの貧困問題や環境問題に取り組む方、大学関係など幅広い方々に集まっていただき、予定していた終了時間が過ぎても終わらないほど白熱した説明会になりました。

社員には、社外の人たちともっと関わりを持って欲しいと思っています。楽天はインターネットサービスの会社ですから、社内だけで仕事をすることもできます。しかし、社外の人たちにインスパイアされることで、イノベーションの文化をより深いものにしてもらいたいです。

楽天が「楽天ソーシャルアクセラレーター」プロジェクトで提供する価値
https://corp.rakuten.co.jp/csr/social-accelerator/

川村:SDGsの具体的な実践例と言えますね。コーポレートレベルについてはいかがでしょうか。

黒木:会社として正式にSDGsやマテリアリティに焦点を当て、本格的に取り組んでいくために、「コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部」を2018年1月に設置しました。

コーポレートカルチャーディビジョンを率いるのは、創業メンバーの一人で、常務執行役員兼CPO(Chief People Officer)の小林正忠です。CPOは人を巻き込み、エンパワーし、幸せにする役割を担っています。

しかし、サステナビリティ推進部だけでマテリアリティを実行していくことは難しい。ですから、社内で「ソーシャルエンパワーメントネットワーク」というものをつくり、関心のある人たちにボランティアでも業務としてでも良いので参加してもらうよう呼び掛けました。これも予想以上に参加を希望する社員がいて、200人ほどが社内説明会に集まりました。パッションのある社員が多いと感じました。

川村:つまり、サステナビリティ経営のための体系づけが進み、実行のための組織づくりができてきたのですね。楽天の特徴は、具体的なアプローチの方法があることだと思います。理念と概念、実践そしてアプローチ方法があるから、事業が成長してきたのでしょうね。

黒木:そこは「楽天ソーシャルアクセラレーター」でもこだわっています。起業家の方たちにも、このプログラムはアウトプットし、インパクトを生むことを目的にしていて、戦略策定のための分析やディスカッションをすることが目的ではないと伝えています。「良いことを聞いたよね」「良い勉強したよね」ではなく、インパクトを出すために一緒にやりましょうと話しており、そのために私たちが具体的に提供できる価値を事前に伝えています。

ゼロを1にするのではなく、1を100にすることのお助けができると考えています。

川村:共感できます。根底に、そういう社風があるということを感じます。

黒木:そうですね。グループ企業も増えてきていますし、中途入社の人たちも多いので、もともとの企業文化に新しい文化が合わさって、今があります。

企業のカルチャーや風土は、日々の仕組みや行動の積み重ねによってつくられるものです。サステナビリティについても同じことが言えます。

最近、私たちは「Believe in the Future」というコーポレートスローガンを掲げています。イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントするというのはどういうことかーー。それは、このような取り組みを持続していくことで、明るい未来があるということを心から信じることです。より良い明日を、みなさんと一緒につくっていくことです。

サステナビリティを当たり前のことにしければならない

川村:最後になりますが、「Believe in the Future」を実現する上で、現時点で考える課題などはありますか。

黒木:私個人の考えですが、今の状況というのは、昨年の夏にマテリアリティを特定し、社員も手を挙げて参画してくれて、とても勢いがある状況です。その勢いを大事にしたいと思います。しかし、勢いは継続して、実績を上げ、日々の当たり前のものにしていかないと、打ち上げ花火になってしまいます。

これが特別なことであってはいけないと思っています。社員も役員も、これは当たり前のことで、日々の業務と切っても切れないことなんだという意識を持ち、日々の仕事、行動において実践していくことが大事です。

これに取り組み続けることはものすごいエネルギーがいることだと思います。なぜなら、2030年を視野に入れSDGsの達成に取り組むということは、これまでKPI(重要業績評価指標)でまわしてきたビジネスとは違うやり方が求められるからです。

社員それぞれが「自分ごと化」して、日々の業務を通して実践していくには、教育を含め、お手本を見せて一緒にやっていかなければできないし、そうすることが大事だと思っています。

川村:そうすることで、楽天のカルチャーや風土がさらに堅ろうになっていくことが期待されますね。本日はありがとうございました。

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黒木昭彦 楽天株式会社 執行役員 コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部 ジェネラルマネージャー
黒木昭彦 楽天株式会社 執行役員 コーポレートカルチャーディビジョン サステナビリティ推進部 ジェネラルマネージャー

東京大学工学部物理工学科卒。日本IBMに勤務後、米国デューク大学MBA留学を経て、P&Gに入社。17年1月に楽天に入社、ECカンパニーのCSR、PR、マーケティングを管掌。同年7月に執行役員に就任。2018年1月からはCSR/サステナビリティ活動をより包括的に推進するため新設されたコーポレートカルチャーディビジョンのサステナビリティ推進部ジェネラルマネージャーも兼任。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。