サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

仏企業がバイオ工学で室内空気をきれいにする観葉植物を開発 浄化力は通常植物の30倍

  • Twitter
  • Facebook
Scarlett Buckley
Image credit:Neoplants

仏企業ネオプランツが通常の植物の30倍という空気浄化力で室内の空気をきれいにする観葉植物を生み出し、注目を集めている。機能性を向上させた細菌を用いて、電力を使わず持続可能な方法で空気を浄化できる植物だ。その開発過程と細菌を生かした仕組み、何かと否定的なイメージがもたれる遺伝子組み換え技術の活用による製品開発も視野に入れた同社のビジョンについて、共同創業者に話を聞いた。(翻訳・編集=遠藤康子)

健康とウェルビーイングに大きな影響を与える室内の空気汚染について、懸念が高まっている。世界保健機関(WHO)によると、大気汚染が原因で早死にする人は世界全体で年間700万人に上る。屋内の空気は屋外の2倍から5倍も汚染されていることが多いとされている。一般家庭でよく使われている家具や洗浄剤、塗料などから発生するベンゼンやホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)は、呼吸器疾患やアレルギー、がんの原因である。

普通の人はおよそ90%を屋内で過ごしており、室内空気質の改善は公衆衛生にとって不可欠である。そんな中、室内の空気汚染に取り組んでいるのが、仏パリで2018年に創業されたネオプランツ(Neoplants)だ。バイオエンジニアリング(生物工学)技術を活用してVOC解毒効果を持たせた観葉植物を開発している。主要製品の「Neo PX」は特製プランターに植えられており、見た目が良く持続可能である上に、インテリアにも溶け込みながら空気を浄化してくれる植物だ。

ネオプランツ共同創業者のパトリック・トーベイ氏は、レバノンで暮らした幼少期から遺伝学に強い関心を抱いていた。とりわけ心を奪われたのは、たった1つのDNA分子に生命体全体を構築・操作するために必要な情報が全て含まれていることだ。好奇心が高じて、後にフランスに渡ると、研究者を養成するエコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)でゲノム編集の博士号を取得。しかし、大手製薬会社や農業分野では、遺伝子組み換え技術の利用が限られていることに不満を覚えるようになり、身に付けた専門知識を日常生活に役立てたいと考えるようになった。その思いに導かれるようにして起業家支援団体「Entrepreneur First」の門を叩き、マーケティングとテクノロジーの専門家で共同創業者となるリオネル・モラ氏に出会った。

トーベイ氏とモラ氏は、30人(20人は各種バイオテクノロジーと室内空気質に関する博士号を持つエンジニア)で構成されたチームを立ち上げると、生物工学を活用して、空気浄化力が普通の植物や従来型の空気清浄機より30倍も優れた植物を新たに作り出した。

「HEPA(高性能微粒子)フィルターを用いた従来型の空気清浄機は、微粒子を捕集することはできても、VOCには効果がありません」。トーベイ氏は米サステナブル・ブランドの取材に対してそう語った。「VOCの発生源は住宅内にあります。そのため、空気清浄機のスイッチを切れば、汚染レベルはあっという間に上昇してしまいます。活性炭などを用いたVOC対策用の空気清浄機もありますが、効果を発揮するのは稼働中だけです」

「空気清浄機はスイッチを入れなければ動きませんし、常時稼働させるのは、エネルギー消費の面でも環境への影響面でも持続可能ではありません。消費者が必要としているのは、背後で絶えず効果を発揮し、慢性的な問題をコンスタントに解決してくれるソリューションなのです」

Neo PXは「恒常的なソリューション」

ネオプランツが開発したプランター入り観葉植物のNeo PXは、自然の力で空気を持続的に浄化し、従来型の空気清浄機のように電力やフィルターに頼らない。Neo PXが活用しているのは細菌だ。「指向性進化」で機能を向上させた細菌の力で、空気中に漂う有害なVOCを中和しているのである。

Neo PXの開発過程ではまず、汚染された環境で自然発生し、VOCを栄養源に進化してきた細菌を特定した。次に、それらの細菌を指向性進化させて改良し、汚染物質の分解効率を最大限まで高めた。この細菌が入った粉末「Power Drops」を水に溶かして土壌に加え、細菌を植物環境へと導入する。すると、細菌は根や葉に移動して繁殖し、微生物の集合体である「マイクロバイオーム」を形成する。このマイクロバイオームが植物と共生して働くと、空気清浄力が高まるという仕組みだ。

「4年に渡る指向性進化を経て、細菌を土壌に加えて空気清浄力を大幅に向上させるというシステムが完成しました」とトーベイ氏は話す。「この空気浄化法なら自律して働くので、電力や物理的なフィルターに頼らず、VOCレベルを継続して低減できます」

植物を管理する際によく生じる水のやり過ぎや不足といった問題で困らないよう、Neo PXのプランターには貯水タンクが内蔵されている。タンクの水量計が下がったときに水を足すだけでいいので、世話が簡単で手間がかからない。空気清浄力が最大限に発揮されるよう、細菌は毎月補充する必要がある。「粉末状のPower Dropsを溶かした水を土にやると、マイクロバイオームが活性して浄化力が維持されます」

遺伝子組み換え生物(GMO)の誤解を解く

Neo PXは今のところ、遺伝子が組み換えられた植物ではない。しかしトーベイ氏は、自身の専門分野である遺伝子組み換え技術を用いた植物を、いずれは製品に取り入れ、さらなる空気浄化力の向上を図っていくつもりだと話す。遺伝子組み換え生物(GMO)には一般に否定的なイメージが付きまとっており、懐疑的な消費者が多い。しかし、GMOの利点をさまざまな状況に当てはめて説明すると、期待感を持ってもらえるようになることにトーベイ氏は気がついた。それだけの価値があるのであれば、GMOの植物を家に置いてもいいと考えるようになるという。

「GMOについては、消費者に情報を包み隠さず伝える方針をとっています。どのように遺伝子を組み換えて製品を作っているのか、今後開発していく植物と細菌(新しい遺伝子)に有害なVOCを除去する力をもたせる上でGMOがいかに有益か、詳細をわかりやすく説明するようにしています」。ネオプランツのR&D(研究開発)責任者ドーナ・スレイマン氏は米サステナブル・ブランドの取材に対してそう語った。「また、安全性と環境問題にも配慮しています。当社が開発中の遺伝子組み換え植物は、花が咲かず、種もできません。自力で野生化することはないのです。遺伝子組み換え技術を使っているからと言って、ネオプランツの植物が天然の植物より生存上、有利になることはありません」

同社はさらに、自社技術によるインパクトの拡大で気候変動問題に立ち向かおうとしている。描いているのは、合成生物学を生かして温室効果ガスの吸収力に優れた遺伝子組み換え植物を工学的に作り出し、気候ソリューションに貢献するという未来図だ。

バイオエンジニアリングで作り出された植物には、害虫駆除と病気予防に役立つ可能性も秘められている。例えば、蚊を寄せ付けない特性を持つレモンの香りを発する植物を開発すれば、サハラ砂漠以南のアフリカなどでマラリア発生率を低下させることができる。遺伝子組み換えによって、異なる種の特性を組み合わせることも可能となり、環境問題に立ち向かう植物を、新しい方法で設計できるチャンスが生まれる。

過去5年で開発してきた基礎技術を基にすれば、こうしたイノベーションを急激に進歩させ、ひいては製品開発工程と市場参入を早めることができると、ネオプランツは考えている。室内の空気質から害虫駆除に至る幅広い問題に取り組むための解決策を編み出すのは容易ではないだろう。しかし、ネオプランツは良い目的のために自社の力を役立てようと全力を注いでいる。既存製品の販売で得た利益を研究開発に再投資しているのは、広範かつ持続可能なインパクトの実現に尽力している証拠だ。

「ネオプランツの未来は、人々に愛され、彼らの日常生活の役に立つ製品を創造することにあります。環境メリットの大きい植物を提供したい、そして、一般的な植物ではなく、ネオプランツ製の植物を当然のように選んでもらえるようになりたい、と考えています」とトーベイ氏は力説する。「今はまだ、自然を理解する入り口に立ってこうした製品を作れるようになったばかりです。しかしいずれは、室内の空気質と気候変動の両方に拡張可能な影響を与えられるようになると信じています」