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循環型ファッションの課題は「地理的な制約」の克服――英米の研究者が報告書で指摘

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Image credit: VEJA(© Antoine Huot)

衣類の大量消費が環境に負荷をかけているという認識が広まり、循環型ファッションを求める消費者が増える中で、修繕、回収、再販、リサイクルなどに取り組む企業も増えている。しかし新たな報告書によって、こうした取り組みの地理的な制約が課題として指摘された。「製品は世界中に供給するが、循環のための方策は地域限定」という現状の打開が求められている。(翻訳・編集=茂木澄花)

アパレル企業による循環の取り組みが機能するかどうかは、その企業や顧客の所在地に左右されている。

近年の調査によれば、ファッション業界が環境と社会に及ぼす悪影響に対する消費者の認識は高まっている。それに伴い、配慮のある消費や買い物習慣を取り入れる流れも加速している。しかし、リサイクル、修繕、回収などの仕組みによって衣類の寿命を延ばすことに興味を示す消費者が増えてはいても、顧客の所在地によっては、実行に移すのが難しい場合がある。今回発表された新たな調査は、顧客がどこに住んでいるかがそうした仕組みの実効性に多大な影響を及ぼすことを示している。

衣料品業界は、環境汚染に加担する世界最大級の業界だ。安価なファストファッションの衣類は1、2回着ただけで捨てられ、埋め立て地行きとなっている。2020年の欧州議会のデータによると、使用済み衣類のうち、再利用やリサイクルのために回収されるものは半分に満たず、新たな衣服にリサイクルされるのはたった1%だという。

衣料品業界の環境への影響を減らす取り組みとして、循環型経済の手法を実践して廃棄を減らそうとするアパレル企業が増えている。例えば、衣類の寿命を延ばす取り組み(修繕・再販)や、顧客から過去の購入品を下取りした上で、アップサイクルやリサイクル、再販や寄付を行う取り組みがある。

今回の調査は、英国のバーミンガム大学とブリストル大学、米国のジョージア大学とニューヨーク州立大学バッファロー校によるもので、地域・経済・社会に関する英国の学術誌『Cambridge Journal of Regions, Economy and Society』に掲載された。17のアパレルブランドとスポーツウェアブランドの使用済み製品に関する方策を調査し、その実効性に「地理」が及ぼす影響を検証した。

バーミンガム・ビジネス・スクールで企業・経済地理学を教えるジョン・ブライソン教授は次のように話す。「この調査では、欧州と米国を拠点とする(アパレル)企業で、使用済み製品を循環させる方策を採っていて、環境に優しいと言われる17社を調べました。衣類を回収して修繕したり、ストアクレジット(そのブランドだけで使える金券)を渡したり、リサイクルや寄付に回したりといった方策を採っている企業です。私たちは、地域ごと、国ごと、あるいは国際的に構築されているこうした『廃棄削減ネットワーク(waste-reduction networks)』に、地理的な事情がどのように影響しているのか調べたいと考えました」

調査では、企業がさまざまな廃棄削減ネットワークを用いて、製品の埋め立て地行きを防いでいることが分かった。例えば、米国企業のエクリプスガールフレンド・コレクティブは、顧客が古い衣類を返却することで、ストアクレジットか次回購入時の割引を受けられるプログラムを実施している。

しかし、調査によって次のことも分かった。製品を引き取って再利用やアップサイクルに回す仕組みがある企業(フィリッパ・コー、ガールフレンド・コレクティブ、グローブ・ホープメイト・ザ・ラベルパクトファウデヴェジャなど)においては、購入者の物理的な位置が重要な役割を果たしている。これらの企業の多くがオンライン店舗や実店舗を通じて世界中に製品を販売しているにもかかわらずだ。スウェーデンのブランド、フィリッパ・コーとフディーニも、多くのブランドと同様、使用済みの衣類を中古市場で再販しているが、このサービスを利用できるのはスウェーデン国内の顧客のみだ。

「エクリプス、フィリッパ・コー、ガールフレンド・コレクティブの回収の取り組みは各社のサステナビリティ方針に沿ったものです。しかし、世界中に商品を発送する企業であっても、回収の仕組みの対象は国内の顧客に限られている場合が多いのです」。ニューヨーク州立大学バッファロー校のヴィーダ・バンチャン教授はこう話す。「エクリプスの顧客は、コロラド州の本社まで衣類を返却することを求められます。またフィリッパ・コーの中古市場はスウェーデン国内向け限定です。ガールフレンド・コレクティブの取り組みも、米国内でしか利用できません。同ブランドは、カナダ、英国、豪州など世界各地に商品を発送しているにもかかわらずです」

「英国にいる顧客が、はるばるコロラドまでの配送料を払うとは考えにくいですし、配送自体の環境への影響もあります。こうした廃棄削減ネットワークは、それを利用しやすい地域にいる人にしか意味を成しません」

修繕サービスを提供しているアパレルブランドにおいても、状況はさほど変わらない。修繕サービスもたいていは特定の地域でのみ利用可能だからだ。例えばフランスの靴ブランドであるヴェジャは「サステナブルな靴」を50カ国3000店舗で販売しているが、靴の修理職人を配置しているのはフランス国内の2店舗のみだ。

調査では、国をまたいで実施できる他の廃棄削減策も取り上げられている。「ウェブサイトで修繕の手引きを提供する」といったことだ。

「今回調べた企業全てが、環境への影響を改善し、廃棄を減らすための対策を講じていました。これは賞賛すべきことです」。ブライソン教授はこう指摘する。「しかし、これらの企業が提供する消費者向けの廃棄削減ネットワークは、地域が非常に限定されています。これらの企業の多くが国を越えて製品を販売しているにもかかわらず、廃棄削減ネットワークは地域レベル、せいぜい国レベルでしか機能していません」

研究者たちは、環境に配慮したい消費者がこのギャップを埋められるよう企業が手助けする方法の1つとして、オンライン再販業者(ディポップイーベイスレッドアップヴィンテッドなど)との提携を挙げる。それでもなお、循環型のサービスの利用可能範囲を広げるために必要なリソースを投じる責任はアパレル企業にある。そして、より広範囲の消費者が衣類の寿命を延ばせるようにし、企業自身の廃棄削減目標を達成することも求められる。

「衣類の大半を埋め立て地行きにせず、確実にリサイクルできる廃棄管理システムに投資することで、企業が主導する使用済み製品の取り組みを補完していく必要があります。これには政府の支援も必要でしょう」。ブライソン教授はこう断言する。「企業による現在の取り組みは喜ばしいものですが、衣類の廃棄によって引き起こされている環境問題の規模に見合うよう、利用可能な範囲を広げなければなりません」

この調査は、エレンマッカーサー財団が最近発表した報告書の結論とも共鳴する。同報告書は、全ての廃棄衣類を回収、分別、リサイクル、再利用するための十分な資金を提供する、繊維製品の世界的な拡大生産者責任エコシステムの構築を提唱したものだ。このエコシステムは、現在のように高い市場価値のある一部だけに集中するのではなく、「企業が市場に出す量と比例してインフラを支援する」ものだという。

繰り返しになるが、「廃棄削減ネットワークは、それを利用しやすい地域にいる人にしか意味を成さない」という指摘は、改めて噛み締めなければならない。国や地域を越えた衣類の回収やリサイクルの課題は、単独の企業だけでは解決できないインフラの課題でもある。アパレル業界には、現在行われている循環型ファッションの取り組みの対象地域を拡大するとともに、企業間の連携やインフラへの支援も求められている。