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誤情報や偽情報、ヘイトスピーチに対抗する――国連が取り組み指針を発表、PR業界連盟はSDGs「目標18」の追加を要請

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Image credit: Scott Webb

国連は今年6月「情報の誠実性のための国連グローバル原則(The United Nations Global Principles for Information Integrity)」を発表した。デジタル時代の進展と人工知能(AI)の出現によって、誤った情報やヘイトスピーチがまん延する現状を危惧し、国際社会に対策を求めたものだ。次いで7月には、国際的なPR・コミュニケーション業界連盟(Global Alliance for PR and Communication Management、以下GAPRCM)が国連に対し、「責任あるコミュニケーション」をSDGsの18番目の目標に設定するよう要請した。同連盟は「コミュニケーションは社会の基盤だが、フェイクニュースなどの増加でその基盤が脅かされ、社会的な信頼関係が揺らいでいる」と危機感を示す。(翻訳・編集=茂木澄花)

誤情報や偽情報、ヘイトスピーチなどのまん延によって、社会の対立が助長され、民主主義と人権が脅かされ、公衆衛生や気候変動対策の効果が弱められている。こうした中、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年6月、デジタル・プラットフォームにおける情報の誠実性に関する報告書を発表していた。それから1年を経て国連は、誤情報、偽情報、ヘイトスピーチへの緊急対策を呼びかけるため「情報の誠実性のための国連グローバル原則」を発表した。

世界経済フォーラムが今年1月に発表した「2024年のグローバルリスク」でも、偽情報と社会の分断は、特に重要なリスクとされている。AIテクノロジーが急速に利用可能になったことで、有害な情報の拡散はさらに加速しており、特に子どもなどへの影響が深刻だ。

今回の発表にあたってグテーレス事務総長はこう述べた。「『情報の誠実性のための国連グローバル原則』の目的は、自らの権利を主張するよう人々を後押しすることです。何十億人という人々が間違った話や歪曲やうそにさらされている今、この原則は、表現および意見の自由に対する権利など、人権に強く根差し、今後進むべき確かな道筋を示しています」

グテーレス事務総長は、政府やテック企業、広告主企業、PR業界に対し、有害なコンテンツの拡散や収益化に加担しないという責任を果たすよう強く訴えた。指針として次のような内容が示されている。

「情報の誠実性のための国連グローバル原則」で示された指針

●政府、テック企業、広告主企業、メディアなどは、いかなる理由においても、偽情報やヘイトスピーチの使用、支持、拡散を慎むこと。
●政府は情報をタイムリーに開示し、自由で存続可能で独立した、複数のメディアが存在する環境を保証すること。また、ジャーナリスト、研究者、市民社会を、力強く確実に保護すること。
●テック企業は、全ての製品やサービスで、計画的に安全性とプライバシーを確保すること。国や言語に関わらず、一貫してポリシーを適用し、リソースを振り向けるとともに、インターネット上で標的になりやすい人々のニーズを特に注視すること。また、危機対応力を高め、選挙に関する情報の誠実性を維持する策を講じること。
●テック企業とAI開発企業は、ユーザーのプライバシーを重視しながら、実質的な透明性を確保し、研究者や学者がデータを入手できるようにすること。また公に利用可能な、独立した機関に監査を依頼し、業界における説明責任の枠組みを共同で開発すること。
●政府、テック企業、AI開発企業、広告主企業は、子どもたちを保護・支援する特別な対策を講じること。政府は、親、保護者、教育者にリソースを提供すること。

この国連の呼びかけの直前には、10人の著名な気候研究者が国連に対し、SDGsの見直しを求めていた。SDGsから受ける影響の大きい人々の意見を取り入れ、SDGsが採択された2015年以降に出現した影響要因を考慮すべきだという。気候研究者たちの要請では明言されていないものの、正確で責任ある、誰も疎外しない情報提供も、近年重要な課題となっている。

PR・コミュニケーション業界が提言する、SDGsの「目標18」

国連が「情報の誠実性のための国連グローバル原則」を発表した1カ月後、今度は世界的なPR・コミュニケーション業界の連盟GAPRCMが、この問題について国連に課題を突き付けた。

GAPRCMは、126カ国36万人の実務家、学者、学生の有志による非営利の連盟だ。このほど、世界中の100を超える組織からの支持表明を得て、国連に対し「責任あるコミュニケーション」をSDGsの18番目の目標とすることを改めて求めた。

GAPRCMは「コミュニケーションは人間の交流と社会の発展の基盤だ」と訴えている。コミュニケーションによって共同体が築かれ、意見の交換が促進され、民主的な統治が可能になる。しかし、フェイクニュースや誤情報が増えたことで、そうした基本的な要因が脅かされ、組織や企業、個人への信頼が揺らいでいるという。

デジタル時代の進展やコロナ禍によって、急速な社会変革が進んだり、逆に社会変革が阻害されたりしているが、そうした状況変化にSDGsは対応していない。そのためGAPRCMは、コミュニケーションに焦点を当てたSDGsの新たな目標を設定するよう、2023年9月にグテーレス事務総長に直訴していた。

こうした意見を持っているのはGAPRCMだけではない。この課題について、ジャン・サバズ氏(ユネスコ「持続可能な社会変革のためのコミュニケーション」前議長)とムハンマド・ジャミール・ユシャウ氏(ハーバード・ケネディ・スクール)は、昨年共著を出版した。全2巻の『SDG 18: Communication for All(18番目のSDG:全ての人のためのコミュニケーション)』だ。コミュニケーションが国連の基本的人権のリストに含まれていることを踏まえ、信頼できるコミュニケーションに特化した目標について詳しい主張を展開している。

GAPRCMが提案する「目標18」は、「責任あるコミュニケーションを確保し、信頼、情報に基づく対話、そして社会の団結を促進することで、持続可能な開発を支える」ことだ。この目標の設定によって、次のようなことが期待されるという。

1. 現行のSDGsにおけるコミュニケーションのギャップを埋めること
コミュニケーションは、現行のSDGsの多くの目標に重要な要素だ。特に目標4の「質の高い教育」や目標16の「平和、公正、関連機関の強化」には欠かせない。しかし現状では、持続可能な開発においてコミュニケーションが果たす役割に特化した目標はない。責任あるコミュニケーションに関する新たな目標は、行動につながる枠組みとなるだろう。そして、全てのSDGsの目標達成のためにコミュニケーションが生かされるようになるだろう。

2. 世界の新たな課題に対応すること
デジタル時代において、誤情報の拡散と組織への信頼低下が加速している。こうした問題に対しても「責任あるコミュニケーション」に特化した目標で対応できるだろう。具体的には、倫理的なジャーナリズム、デジタル・リテラシー、コミュニケーション・テクノロジーの責任ある利用を促進することにつながるためだ。

3. 国際的な枠組みや合意と整合すること
今回提案した目標は、意見と表現の自由に関する権利を認めた世界人権宣言や、ユネスコが推進する倫理的なジャーナリズムの原則など、国際的な枠組みと整合している。また、インターネットの統治・管理の取り組みやデジタル社会から誰も疎外しないための取り組みを、世界中で支援することにもなる。