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米SB「BRAND-LED CULTURE CHANGE」開催(2) より良い未来のために、消費者の行動をデザインする

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Mara Slade, Hannah Zimmerman
Image credit: Just Salad

米サステナブル・ブランドが5月上旬に開催した「SB Brand-Led Culture Change (ブランドが主導する消費文化の変革)」では3日間にわたり、消費者の行動を自然と良い方向に変化させるための仕掛けや循環型デザインについて、企業の担当者らが知見を共有した。カンファレンスの第1回記事に続き、本記事では抜粋した2つのセッションと、企業が社会正義や気候正義の課題に取り組むために必要な情報や考え方を示す新しい2種類のガイドについて紹介する。(翻訳・編集=茂木澄花)

製品を真にサステナブルなものにするためには、直線型のビジネスモデルから循環型のビジネスモデルへ、デザインの移行が欠かせない。9日午前のブレイクアウト・セッションでは、循環型のユーザー行動を促すデザインの進展について議論が行われた。

循環型ビジネスモデルで再利用を促進する

登壇企業は、コンサルティング会社のビービーエムジー(BBMG)、サラダ専門店のジャスト・サラダ、アウトドア用品のアールイーアイ(REI)、大手小売企業ターゲットだ。これらの企業は、消費者にサステナブルな行動を促すと同時に顧客のロイヤルティーも高めるという、革新的なアプローチの先駆け的な存在だ。率先して再利用可能な容器を採用したり、Eコマースのプラットフォームやアップサイクル製品を開発したりしている。パネリストたちは、廃棄を減らしながら、新規顧客を惹きつけ、既存顧客を巻き込む戦略を共有した。

セッション冒頭、BBMGの創業パートナーであるラファエル・ベンポラッド氏は、循環型デザインに欠かせない要素と原則に言及。持続的な行動の変化を起こすためには、循環型消費を楽しくてとっつきやすいものにすることが重要だと強調した。そして参加者に「全ての人、製品、原材料を生かすデザインとはどのようなものか」を考えるよう促した。

ターゲットからは、自社ブランドイノベーション実践担当シニアディレクターであるジェイソン・ブリーン氏が登壇。2040年までに、デザインによって自社ブランドを100%循環型にするという、同社の目標設定を説明した。

ターゲットは、顧客に喜びとゆとりを提供することを重視しながら、循環型デザインを着実にブランドの品ぞろえに取り入れてきた。これまでには、不要になったチャイルドシートを持ち込むことで値引きが受けられる催事などを実施してきた。使用済みの靴の引き取りといったプログラムも検討しており、同社は着々と目標に近付いている。また「ユニバーサル・スレッド」という衣料品シリーズでは、デジタル製品パスポートを活用してサステナビリティについて顧客を啓発し、使用後の適切な処分を促す。

REIの二次流通担当シニアマネージャーであるローラ・ケリー氏は、同社における循環型ビジネスの変遷を語った。REIは、1962年に「REIガレージセール(現在は“REIリサプライ”として知られる)」を開始して以来、60年以上にわたって中古用品の再販に取り組んでいる。これは、製品を使い続けてもらい、製品寿命を最大限延ばすという同社の中核方針と整合するとともに、捨てられるはずのものを再販することによる経済的利益にもつながっている。

REIは5年前、このビジネスモデルに投資し、需要と供給をつり合わせる双方向的なプラットフォームを作った。これにより顧客は、対面や郵送での引き取りや専用ショップでの再販など、さまざまなチャネルを通じて製品を下取りに出し、ギフトカードなどの特典を受け取れるようになった。二次流通は今やREIにとって欠かせない事業であり、カーボンフットプリント削減の取り組みにも貢献している。排出のかなりの割合が、新品の製造によって発生しているためだ。

Bコープ認定企業であるジャスト・サラダも、顧客が気軽に循環型の消費行動を取り入れられるプロセス作りを目指している。「サステナブルかつリジェネラティブなメニューを作り、顧客が簡単に社会に良い影響を与える活動に参加できるようにすること」。マーケティング担当バイスプレジデントを務めるジェニファー・ラリー氏は、同社のミッションをこう説明する。

同社が運営するカジュアルなチェーン店では、メニューへのカーボンラベルの記載、外部の組織と協働した食品ロス削減など、店舗の内外を問わず改革が行われている。「食べて、洗って、再利用(Eat. Rinse. Repeat.)」モデルでは、顧客が再利用可能なボウルを購入すると、購入日に加え、その後ボウルを持って来店するたびにトッピングが無料になる。このように顧客に動機付けを行うことで、同社は毎年莫大な量の使い捨て容器を削減できているという。

セッションは、ブレインストーミングで締めくくられた。参加者たちは、毎日の暮らしに循環型消費を取り入れることを顧客に促し、より配慮あるライフスタイルへの移行を加速するために、ジャスト・サラダに何ができるかを考えた。

製品の使い方にアプローチすることで、炭素排出を削減する

Image credit: Electrolux

10日午後のワークショップに登場したのは、マーケティングコミュニケーション企業シェルトングループのトップと、消費財のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、スウェーデンの家電メーカーであるエレクトロラックスのサステナビリティ責任者だ。企業がキャンペーンや製品デザインによって、利益を生み出しながら、拡大する気候危機に対応するための行動変革を消費者に促している事例について話し合った。

タイド(P&Gの洗濯用洗剤ブランド)とエレクトロラックスは、消費者に冷水を使用した洗濯を推奨する企業パートナーシップに参画している。両ブランドにおいて、行動の変化を促進することがなぜ重要な焦点となっているのか。シェルトングループの創業者でCEOのスザンヌ・シェルトン氏は、セッション冒頭でパネリストらに問いかけた。

「洗濯の温度と製品の使い方にアプローチすることで、自社の業務に対して実施しているどの取り組みよりも、はるかに大きな炭素排出削減効果が得られることが分かっています」。P&Gのサステナビリティ担当シニアディレクター、トッド・クライン氏はこう話す。ライフサイクルアセスメントによって、タイドのカーボンフットプリントの約70%は商品の使用段階で発生していることが分かっているのだ。

タイドがブランドとして目指すのは、2030年までに洗濯全体の75%以上が冷水で行われるようにすることだ。「科学的見地から見て、これは当ブランドが成し得る最大のインパクトです」とクライン氏は言う。

エレクトロラックスの長期的な目標は、2050年までにバリューチェーン全体をネットゼロにすることだ。ライフサイクルアセスメントによって、エレクトロラックスの洗濯機と乾燥機によるエネルギー利用が、同社が気候に与える影響の約85%を占めることが分かっている。そのため、製品のエネルギー効率の目標を達成することが、最もフットプリントを低減させることにつながると言える。

「当社の責任は、環境への影響を半減させながら、衣類を2倍長持ちさせることです」。エレクトロラックスで北米サステナビリティ担当ディレクターを務めるタラ・ヘルムズ氏はこう話した。「衣類の寿命を延ばし、消費者が家庭でのエネルギー利用を減らせるようにしたいと考えています」

消費者調査によると、洗濯の習慣は世代ごとに分かれるという。「多くの人は教わったとおりに洗濯しているのです」とヘルムズ氏は指摘した。「これが非常に重要なのですが、80%の人がほとんどの場合『通常』設定を使っています」

ヘルムズ氏は、望ましい消費者の行動を促すために、エレクトロラックスの製品デザインに採用されている視覚的な仕掛けを紹介した。「通常」設定で洗濯すると冷水が使用され、エネルギーを節約する設定を選択すると葉っぱのアイコンが表示されるようになっている。洗濯のエネルギー効率が上がるほど、表示される葉っぱのアイコンの数は増える。

またヘルムズ氏は、もっとサステナブルな選択をすることを訴えた、最近のブランドキャンペーンも紹介した。同社の「長持ちさせよう(Make it Last)」キャンペーンでは、消費者に「もっとサステナブルな未来のために、自分の服の寿命を延ばそう」と促す。また「パターンを破ろう(Break the Pattern)」キャンペーンでは、繊維産業の無駄の多さと、チリのアタカマ砂漠など「衣類の墓場」に焦点を当てる。

議論の中でシェルトン氏は、多くの人は努力して行動を変えたいとは思わない、と参加者に注意を促した。「人々や政府、そして企業が変化を起こすために本格的に取り組まなければ、気候変動に対抗することはできません」とも語った。

社会正義と気候正義に取り組むための指針が示される

Image credit: Wes Warren

ますます混迷が深まる現代において、企業が社会正義と気候正義の課題に本格的に取り組まなければならないことが、今までになく明白になっている。企業がこの複雑な問題に着手するにあたっては、「どこから始めるべきか」「どのように意味のある役割を果たし、どうしたら確実な対応が取れるか」といった疑問が生じる。シェルトングループのESGインパクト&価値創造担当パートナーであるアニー・ロングスワース氏が司会を務めた最終日のセッションでは、こうした疑問を持つ企業に指針を示す、2つの画期的なガイドが発表された。

まず、NPO法人フォーラム・フォー・ザ・フューチャーでシニア・プリンシパル・チェンジ・デザイナーを務めるクスィーニア・ベニファンド氏が、「Business Guide to Advancing Climate Justice(気候正義を前進させるためのビジネスガイド)」を発表した。同ガイドは、組織が効果的かつ全体論的に、気候正義と社会正義の課題に取り組めるようにすることを目指してBラボと協働で制作されたもの。同分野で生きた経験を持つ100を超える組織、活動家、個人との対話から得た知見を基にしている。気候変動によって最も影響を受けるコミュニティの経験に根差した原則を基に、気候正義を理解し、取り組むにあたって企業が直面する課題に焦点を当てる。同ガイドでは、仕組みとマインドセットを変革する取り組みが推奨され、企業がその支配力と影響力の範囲を認識することが強く求められている。特に説明責任、利益の共有、気候変動の影響を受けやすいコミュニティに対する支援の重要性が強調されている。

次に、サステナビリティ専門コンサルティング会社BSRでビジネス&社会正義センターの共同ディレクターを務めるジェン・スターク氏が、同社の「Social Justice Guide for Business(企業のための社会正義ガイド)」を紹介した。このガイドも、変化する情勢の中で、米国企業が進むべき道を見出すのに役立つよう開発されたものだ。同ガイドは、社会正義は人種関連の問題にとどまらないということを強調する。また、これまで多くの企業が社会正義の問題に対して、過剰な対応を取っていたか、不十分な成果しかあげられていなかったことも指摘する。主な対象は、米国に拠点を置く中規模の企業だ。分かり切ったことを解説するのではなく、人権や社会正義などの主要な概念の意味を整理して考えることを、実務家たちに促すことを目指している。

スターク氏は、こうしたアプローチの目的を、ビジネスの意義を明確にすることだけではないと語る。将来にわたって通用する事業を築き、社会的・政治的な情勢の急速な変化に備えてスキルを高め、盲点を認識することも目指しているという。「企業は、自社と社会情勢について360度分析を行う必要があります」とスターク氏。「企業がどのように存在感を示し得るか、その理由と影響を考えましょう」

これらのガイドは、取り組みの緊急性を強調するにとどまらず、企業が社会正義と気候正義を事業に組み込むための現実的なステップを示している。企業が前向きな変化の担い手となるための指針になりそうだ。