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イケアやドクターマーチン、循環型ファッションがさらに主流に

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Image credit: IKEA

ファッション分野で資源循環の取り組みがますます広がっている。イケアは1月、従業員のユニフォームをリサイクルした素材でつくったコレクションを発表。また3月には、英シューズブランドのドクターマーチンが、定番商品にリサイクルレザーを使用した新コレクションを発売した。(翻訳・編集=小松はるか)

従業員のユニフォームが新コレクションに

イケアはこの数年間、ユニフォームの新デザインを公表する一方で、数百パレット(貨物用の台)分の古いユニフォームを回収してきた。また、先に発注しながらも新デザインへ移行したため、未使用となったユニフォームが過剰在庫として残っていた。同社は、繊維製品の在庫と、H&Mと取り組んだ、繊維リサイクルにおける化学的汚染の除去に関する大規模調査から分かったことを生かし、繊維製品のリサイクル事業に乗り出した。

そうして誕生したのがコレクション「VÄXELBRUK」だ。2020年から2022年にかけて欧州市場で回収した300トンのリサイクルユニフォームを活用したスロー(インテリアカバー)、クッションカバー、カーテン、バッグのコレクションで、欧州で発売する。

ビジネス・イノベーション担当のルカ・クレリッチ氏は「衣類を分解する工程が、今回のコレクションならではの製品を生み出すきっかけになりました。誕生した生地は、カーテンからオフィス用の椅子の生地に至るまで、さまざまな仕様に適していることが分かりました」と話す。

VÄXELBRUKのいくつかの製品は、イケアのトレードマークである黄色と青色が使われているが、イケアカラーを強調することが目的ではない。

Image credit: IKEA

「開発過程でサプライヤーから良いアイデアを多くもらい、異なる生地を作るために工業用繊維の余剰分から他の色を取り入れることにしました。それにより、イケアカラーの黄色は薄い黄色に、青も薄い青色になりました」

色のついた生地、特に多色の生地作りには通常、染色が必要となる。その工程は、資材と店頭に並ぶ最終製品の価格を増大させる。VÄXELBRUKコレクションの製品づくりで重要なのは、希望の色彩効果を出すために、リサイクル繊維の色を組み合わせることで染色プロセスを経ることなく色を調整できるということだ。

しかし、クレリチ氏は、VÄXELBRUKの製品づくりから得られた最も困難で重要な教訓は、製品の開発やデザインと関係なかったと言う。

「イケア内で潜在的廃棄物を管理、再利用するのは初めてのことでした。そのため、必須要件や法律、ロジスティックスに関して、極めて複雑な状況に対処する方法を学ばなければなりませんでした。どのように廃棄物を運び、また、それを引き取り、管理する特別な資格のある運搬者と連携するか。こうしたことを入念に調べました」

そのような複雑さが、試験的プロジェクトの多くで範囲や発売が限定され、また今回の最初のプロジェクトが欧州市場のみで行われた理由だ。これが後々、迅速に発売を拡大するための土台づくりでもあることを、コレクションのなかで唯一、使用済みや未利用のリサイクル素材のみでは作られていないVÄXELBRUKバッグが証明している。

新しいユニフォームの表布の一つが、やけに透けていることが分かったとき、チームはその伸縮性のあるTシャツ素材を別の目的で再利用した。ヴァージンポリエステル製の低融点繊維を加えることで繊維同士がくっつき、バッグに織物素材の手触りを生み出すことができたのだ。

クレリチ氏は、コレクション誕生の背景には諦めない精神とチームの努力があり、今回の取り組みがイケア内での素材のリサイクル・再利用の手本になったと喜びを語った。

「生地にとどまらずとても多くの学際的な学びがありました。サプライチェーンから製品開発、デザインに至るまでのあらゆる場面において人々の役に立つよう、これらをイケア全体で共有したいと思います。このプロジェクトを行ったことで良いことがたくさん起きました」

再生革で生まれ変わった定番商品

Image credit: Dr. Martens

ドクターマーチンは、リサイクルレザーを使った新コレクション「Genix Nappa」を立ち上げた。サステナブル・リサイクル・レザーを生産する英ジェン・フェニックス社の再生革から作られたものだ。ジェン・フェニックスは、埋め立て地に捨てられるはずだった革の切れ端を回収して廃棄物を減らし、それを利用して柔らかく耐久性のある新素材を作り出した。同社は 2007 年以来、埋め立て地から数千トンの革の切れ端を転用している。

ドクターマーチンは、ジェン・フェニックスと連携することでその画期的な技術を活用。廃棄された革を繊維レベルに分解し、再利用水を使って高品質で耐久性のあるリサイクル素材に再生した。ドクターマーチンを象徴する「1460ブーツ」「1461 3 ホール シューズ」「2976 YS チェルシーブーツ」も、「Genix Nappa」で展開されている。

ジェン・フェニックスのジョン・ケネディCEOは「このパートナーシップは、伝統あるブランドが、製品の完全性を変えることなく地球に利益をもたらすサーキュラーモデルを実装できることを証明するものであり、あらゆる人を楽しませるために高品質な靴を責任ある方法で市場に投入するものです」と話す。

耐久性はドクターマーチンの全製品に通じる特徴だ。同社は1960年の創業以来、「Made Strong(強さ)」を体現してきた。ジェン・フェニックスは15年にわたり、航空・鉄道・バス業界向けに、耐久性があり高性能なリサイクル素材のイノベーションを起こし、今ではファッション、シューズ業界にも影響を与える立場にある。

「Genix Nappa」は、従来の革がもつ品質、耐久性、快適さ、強さといった利点をCO2排出量削減という形で実現している。革の切れ端はなめし工場から入手し、ジェン・フェニックス独自の工程で革の繊維を絡み合わせる前に分離させ、再設計したリサイクルレザーを生産し、靴の製造に使用している。「Genix Nappa」の素材には、廃棄革が50%以上含まれている。

ジェン・フェニックスの製造工程は、100%再生可能エネルギーで稼働し、製造に使う水の95%をリサイクルしている。さらに、実際に影響を生み出すのに必要な規模で循環型の素材生産を可能にしている。同社のリサイクルレザーは、コーチが2023年4月に発表した循環型サブブランド「コーチトピア」のバッグや革製品にも使われている。

ドクターマーチンのサステナビリティ部門の責任者を務めるトゥゼ・メキキ氏は、「昨今のサステナビリティの課題は複雑で、サーキュラービジネスモデルはその一つです。ドクターマーチンは、サーキュラービジネスモデルの確立に向けて前進しています。『Genix Nappa』はその良い例です。廃棄物が価値ある資源であり、当社が未来に向けて製品についてどのように違う考え方ができるかを示すものです。お客さまの感想を聞くのが待ち遠しいです」と話す。