• 公開日:2024.04.03
素材の環境負荷は「永遠のコスト」――繊維製品のマイクロプラスチックに関する新ISO規格が誕生
  • Tiziano Battistini

Image credit: Soren Funk

繊維製品からのマイクロプラスチック流出が世界的に問題視されている。しかし、製品ライフサイクルを通じた流出量の定量化は難しく、対策は進んでいない。そんな中、イタリアの企業、研究機関らが協働して繊維製品のマイクロプラスチック流出量を算出する手法を開発し、流出を減らす素材選びの指針を示した。この手法はISO規格として制定され、今後の企業による活用が期待される。(翻訳・編集=茂木澄花)

製品の素材を選ぶ際、素材にかかるコストとして金銭的な費用だけを考慮していないだろうか。企業は素材コストの計算方法を根本的に見直すべきときに来ている。

企業は金銭的な費用に加えて、環境面のコスト、つまり環境にかかる負担を考慮すべきだ。環境面のコストは、資源の採取から製造、使用、メンテナンス、そして耐用年数経過後の廃棄まで、素材のライフサイクル全体で発生している。

この間接的で可視化しにくいコストを十分に考慮できていないせいで、枯渇しつつある化石資源が際限なく使い続けられたり、資源の入手が困難になったりしている。そして、大気汚染や水質汚染、マイクロプラスチックの流出による環境への影響につながっているのだ。

循環型の製品を作りたいと考えている企業もあるだろう。循環型の製品とは、リサイクル素材を使用しているだけではなく、使用後にリサイクルできる製品だ。製品としての寿命を伸ばすにとどまらず、素材にほとんど永遠の命を与えるということになる。このような循環型の製品を作るためにも、素材選択の際には環境面のコストを重視しなければならない。

環境に配慮した製品デザインのための素材選び

循環を意識した素材選びのためには、次のような問いを通じて、製品の寿命と環境への影響を考慮すべきだ。

1) 耐久性があるか?
2) 修理が可能か?
3) 再利用できるか?
4) 分解とリサイクルが容易か?
5) マイクロプラスチックが過剰に流出しないか?

上記の5番目に挙げたマイクロプラスチックの流出は、素材コストという観点では比較的新しい考慮事項だ。製品をデザインする際には、マイクロプラスチックの環境への影響を理解しているだけでは十分でない。使用する素材と製造工程が、どのようにマイクロプラスチック流出に影響するのかも把握する必要がある。

繊維からのマイクロプラスチック流出を定量化する新規格

マイクロプラスチックは微細なプラスチックの粒子で、多くの場合、比較的大きなプラスチックが崩壊したものだ。非常に細かい粒子なので、流出すると人間の健康と環境全体に重大な影響を及ぼし得る。人間の血流や身体組織、細胞にまで入り込む可能性がある。

ISOはこのほど、繊維製品からのマイクロプラスチック流出に関する新たな規格「ISO 4484-2:2023」を策定した。この規格の策定には、イタリアの繊維企業「アクアフィル」、同国立の生産技術研究機関「STIIMA」、同国の標準化団体「UNI」の繊維委員会「UNI CT 046」が関わっている。三者が協働で、繊維業界から流出するマイクロプラスチックを測定する標準手法を開発したのだ。この手法を使うことで、繊維からのマイクロプラスチック流出に影響するさまざまな要素を特定、定量化しやすくなる。

ISO 4484-2では、マイクロプラスチック流出量の測定方法に加えて、耐久性と強度が比較的高く、マイクロプラスチックの流出を少なくできる可能性のある素材も示されている。

繊維業界におけるマイクロプラスチックの流出には、次のような要素が関係している。

繊維の種類:
短い繊維を機械でより合わせて作られる繊維「ステープルファイバー」は、構造的に長い繊維よりすり減りやすく、微粒子が流出しやすい。
繊維の素材:
繊維の化学的な特徴や物理的な特徴が大きく影響する。一部の繊維は丈夫で刺激に強く、摩耗が少ない。
繊維の構成:
一般的に、複数の種類の糸を使っている製品に比べて、単一の素材で作られた製品のほうが成分の流出が少ない。
製品のメンテナンスへの反応:
製品ライフサイクル全体を通じて、洗濯などのメンテナンス時に発生する物理的な刺激に比較的強い繊維と弱い繊維がある。
製品の摩耗と経年変化:
劣化を促進し、プラスチックが微粒子に分解されやすい使用状況や特定の化学的、環境的要因がある。

「低コスト」な素材を選択すること

どんな素材を使うかという単純な選択一つで、地球環境への「永遠のコスト」を減らせる可能性がある。今回の新規格のような定量化を通じて、素材の耐久性やリサイクル可能性、生産工程などを見直し「低コスト」な素材を選ぶことが、循環型経済への一歩になる。

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