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宇宙産業は人類を救うのか?――急激な民間参入による環境への影響と「宇宙太陽光発電」の可能性

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Roberto Guerra
Image credit:NASA

民間投資の拡大によって、空前の成長を遂げている宇宙産業。一方でCO2排出や大気汚染など、環境への悪影響も無視できなくなっている。しかし、こうした悪影響を相殺し、それを超える利益を人類と地球にもたらす可能性のある技術が注目されている。その一つが、宇宙で太陽光発電をして地球に送る「宇宙太陽光発電」だ。こうした画期的な技術の実用化には、官民の協働が欠かせない。(翻訳・編集=茂木澄花)

1957年10月4日、ソ連が世界初の人工衛星を宇宙空間に打ち上げた。以来、人間が作った装置を宇宙という広大な空間に打ち上げるという試みに、世界中が想像力をかきたてられてきた。1968年にアポロ11号、1972年にアポロ17号によって人類の月面歩行が実現すると、宇宙への挑戦はますます人々の心を奪っていった。

宇宙経済が「飛び立つ」

1982年に欧州の「アリアンスペース」が、打ち上げサービスを提供する初の民間企業となり、1984年には米国のロナルド・レーガン大統領が「商業宇宙打上げ法」に署名した。この法律は、宇宙飛行の民営化を促進することをNASA(米国航空宇宙局)に義務づけ、米国における民間宇宙飛行の規制当局として「商業宇宙輸送オフィス」を認可するものだった。

その後、2008年9月、スペースXによる「ファルコン1」ロケットの打ち上げとともに、民間宇宙産業はまさに「飛び立った」。以降、地球の軌道上やさらにその先への物体(人工衛星、探測機、着陸機、有人宇宙船、宇宙ステーションの構成要素)の打ち上げは劇的に増えている。「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」によれば、2010年に宇宙に打ち上げられた物体の数は120個だったが、2023年には2664個になったという。実に2120%の増加である。

この急増の主な要因となっているのが、宇宙飛行の民営化だ。2022年から2023年の間に、民間企業による打ち上げ活動は50%増加し、現在では「宇宙経済」と呼ばれるまでになっている。人工衛星の数は2030年までにさらに700%増えると見込まれている。

大量のエネルギーを使い、大量の煙が発生する

しかし問題なのは、物体や人間を宇宙に打ち上げるたび、強い重力に抗うために途方もないエネルギーを使わなければならないことだ。発射の様子を見たことがある人なら、打ち上げに必要な推進力を生み出すために、ものすごい量の煙が発生することを知っているはずだ。全体から見れば、宇宙産業が排出するCO2は人間活動のわずかな部分にすぎない。しかし、産業が成長すれば、大気中に排出するガスの量も増えるだろう。

「スペース.com」によると、宇宙に打ち上げられるロケットの乗客1人当たりのCO2排出量は、民間航空機の100倍だという。今後、宇宙産業が航空産業と同じくらい一般的になった場合、環境への影響がどれほどのものになるのか想像してみてほしい。

宇宙船による環境汚染には、工場、自動車、航空機など、地上に近い排出源とは異なる点もある。ロケットは、地上から外気圏に至るまで有害なガスを放出し続けるということだ。そして汚染の度合いが高ければ高いほど、地球の大気中に残る期間も長くなる。

地球の環境に対する宇宙産業特有の影響は他にもある。宇宙に発射されたロケットは最終的に重力によって引き戻され、燃えながら地球に戻ってくる。これにより、さらに大気に汚染物質を放出するが、その影響は研究者たちも完全には把握できていない。

課題解決のために協働する

すでに人間の工業的な活動によって過剰な汚染物質にさらされている地球に、宇宙産業がますます負荷をかけていることは間違いない。しかし、だからといって宇宙産業を悪者扱いすべきだと言いたいわけではない。

ここ何十年か、宇宙開発は気候科学の研究に寄与してきた。また、現代の衛星通信を使えば、気候変動への対抗策や、世界の気温上昇に適応する方法のヒントが得られる可能性がある。とはいえ、産業の民営化によって、異常な規模の投資と空前の成長がすでに始まっており、宇宙産業に関連して空気中に放出される汚染物質の量は、もはや無視できないほど増加している。

2022年、英国のデータ通信企業インマルサットは、「宇宙サステナビリティレポート」を発表した。このレポートを通じて同社は、宇宙産業のリーダーたちや政府、規制当局に対し、協働して5つの原則に基づいた課題解決に取り組むよう呼びかけている。例えば、世界規模で事業者間の公平な競争環境を確保すること、強制力の高い新たな規制枠組みを構築すること、サステナビリティを国家安全保障問題と分離すること、目的を開示せずに人工衛星の位置情報を共有できるようにすることなどが提言されている。

宇宙から再生可能エネルギーを調達する

このような環境への悪影響やその対策の一方で、宇宙分野にはエネルギーの観点から注目すべき技術がある。2023年1月、カリフォルニア工科大学の宇宙太陽光発電プロジェクトが、地球周回軌道上への打ち上げを行った。プロジェクトのミッションは、宇宙に太陽光発電施設を設置して、太陽光エネルギーを地表に送るというものだ。

ミッションは成功し、宇宙空間にある物体を通じて太陽からエネルギーを得られるということが証明された。宇宙から得る太陽エネルギーは、夜間や雲、悪天候などに左右されることのない、ほぼ無限のエネルギー源だ。

宇宙に太陽光発電施設を建設するには、莫大な費用がかかるだろう。しかし、ストラスクライド大学(スコットランド)先進宇宙コンセプト研究所の研究員であるアンドリュー・ウィルソン氏は、スペース.comに次のように語った。「宇宙太陽光発電施設は一度建設すれば、地球上のどんな再生可能発電技術よりも早くその建設費用を回収できるだろう。また、地球上の太陽光発電パネルより8倍多く太陽光エネルギーを取り込める可能性がある」

NASAの技術・政策・戦略局(OTPS)が最近発表した報告書によれば、NASAは現在「間接的に宇宙太陽光発電に資する」技術を開発中だという。こうしたソリューションによって、宇宙産業が地球の大気圏の気候変動に与える影響は大幅にオフセットされるだろう。

成長を続ける宇宙産業において、サステナブルな技術革新の将来性は測り知れない。宇宙産業自体の悪影響を減らすだけでなく、今後長い年月にわたって地球と人類の健康に恩恵を与える可能性もある。それを実現するためには、時間と資金とエネルギーを投じる必要がある。地球と宇宙における人類の繁栄と、プラネタリーヘルスの名のもとに、今こそ公的機関と民間企業が団結するときだ。