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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

地域課題の視点から生まれる観光 旅先を深く知り、楽しむ世界のツーリズム

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JoAnna Haugen

観光に求めるものが変化し、世界では、地域社会の少数派や周縁にいる人たちの視点から、その土地を深く知るツアーが行われ注目を集めている。

ロンドンで暮らしていたデイビッド氏は20年ほど前、いくつかの出来事が重なり、住む場所をなくし、一時的に路上で他の人たちと暮らす「隠れホームレス」となった。時が経ち、デイビッド氏はアンシーン・ツアーズ(Unseen Tours)の旅行ガイドとなり、ロンドン橋周辺で、その地域の貧困やホームレス、社会的排除の歴史について語り伝え、長年暮らしている人も驚くようなスポットを観光客に案内する仕事をしている。(翻訳・編集=小松はるか)

ロンドンと聞いて、こうした課題が最初に思い浮かぶことはない。その点で、アンシーン・ツアーズは典型的な旅行会社とは異なる。非営利の社会的企業で、ホームレスを経験したことのあるガイドが案内する街歩きツアーや体験を提供している。

同組織が手がけるツアーは、貧困地区をめぐる貧困・スラムツーリズムとは異なる。どちらかというと、これまでのロンドン観光には含まれていなかった視点からロンドンを案内するものだ。

アンシーン・ツアーズのジェイニ・グドゥカCEOは、「ホームレスを経験した人々は、多くの人が知る以上にその街のことを知っていると思います。隠された物語や奇妙な真実など、ガイドブックでは決して知ることのできないことを知っているのです」と言う。

デイビッド氏も同意する。「私のツアーに参加するお客さんたちは、ありきたりではなく、ツアーガイドがより個人的なことを話す、人にあまり知られていないツアーを楽しんでいると言ってくれています」

旅行者は、他にはない、地域特有の体験をますます求めるようになった。グドゥカ氏は、「表面的なことにしか触れない見栄えのいいツアーではなく、その場所のありのままのストーリー、本当の姿により興味を抱いています」と言った。

変化が求められる観光業

歴史的に見て、観光業は、旅行先の地域に影響を与えている“現実世界”の問題に対し、旅行者が“知らぬが仏”の状態で旅することを受け入れ、それを後押しすることさえあった。また主要な旅行の目的地は、旅行の理想的な姿に当てはまらず人々を不快にさせてしまうような、長らく社会の中心から阻害されたコミュニティに沈黙し、排除してきた。

しかし、気候危機やオーバーツーリズム、“本物”の体験への関心、観光業の生き残りと繁栄をかけた抜本的な変化が必要だという業界内の認識が相まって、こうした考えは変わり始めている。旅行業に力をいれる社会的企業や組織はいま、旅先の負の側面を旅行者に隠すかわりに、複雑な側面を紹介することに取り組んで世間の注目を集めている。

これには、数え切れないくらいの良い波及効果がある。こうした体験は、支援する者と支援される者がいるという救世主主義的な取り組みとは異なる。技術訓練、意義のあるキャリア、資金援助を提供し、地域住民の総体的なウェルビーイングの向上を目指すもので、やがて地域社会にも還元される。これまで表に出ることも、耳を傾けられることもなかった人々が、自らのストーリーを伝えるための力や機会を手にするようになったのだ。

このような体験は、オーバーツーリズムに対処できなくなっている観光地にとって、人気のある観光地以外の場所に旅行者を分散するという解決策を提供する。また、地域や人に重点を置くこうした取り組みは、これまで観光業から排除されてきたコミュニティの支援方法を示してくれる。

カナダの非営利組織「プラネテラ(Planeterra)」のトリシア・シャーズ氏は、「社会の主流から取り残された人々が参加する地域組織を支援し、連携する理由はいくつかあります。まず、そうした人々は最も支援を必要としている人だということです」と話す。同組織は、観光旅行を通じて地域社会にお金を落とし、利益をもたらす「コミュニティツーリズム」を支援・強化するために各地のパートナーと連携している。

パートナーの1社、インドのピンク・シティ・リクシャー(Pink City Rickshaw Co)は、低所得家庭の女性が運転する三輪自動車に乗ってインド・ジャイプールを巡るツアーを提供している。また、ベトナムのNGOストリート・インターナショナル(STREETS International)は、旅行者にツアーと料理教室を提供するプログラム「ウードルズ・オブ・ヌードルズ(Oodles of Noodles)」を実施。また、非行や虐待の危険にさらされている若者に料理やホスピタリティ、英語を身に付けることのできる14カ月のトレーニングを無償提供しており、プログラムではその若者たちが街を案内し、一緒に料理をする。

ほかにも参考になる事例は世界中にある。英国の「マイグレイトフル(Migrateful)」は、移民や難民、亡命希望者に対し社会参加するためのトレーニングを提供し、そうした人たちが料理を教えてくれる教室を運営している。コロンビアの「ゲットアップ・アンド・ゴー・コロンビア(Get Up and Go Colombia)」は複数のツアーを行っており、コロンビアの武力紛争で最も影響を受けたコミュニティを支援する事業に投資する。ケニアの「ナイ・ナミ(Nai Nami)」では、ストリートチルドレンだった人たちが自らの体験を語り伝えながら、ナイロビの街を3時間にわたって案内してくれる。

シャーズ氏は、「長年にわたり目にしてきたことは、観光業で働くことが、女性たちに家庭の外で初めて仕事をしようという意欲を起こさせ、コミュニティのなかで指導的役割に就き、子どもたちに教育を受けさせ、若者たちが長期的な仕事を見つけるのに役立つスキルを身につける助けとなってきたことです」と振り返る。

「私たちの地域パートナーたちも、とりわけ、自らのコミュニティの環境や健康、教育を大事にするためにインフラや新たな取り組みに投資し、観光業を通じて未来を切り開こうとしています」

社会参加の機会をつくる

旅行者は、社会の周縁に置かれた人たちが運営するサービスを利用したり、体験を申し込むことによって、訪れた場所に暮らしているそうした人々の社会参加を支援することができる。例えば、バルセロナのインアウトホステル(INOUT Hostel)ではスタッフの9割が障がいのある人たちだ。

同ホステルのイサスクン・キレス・アルスエイガ氏は、「このホステルは、観光業における障がい者のインクルージョンを示す一例です。また、障がい者就業センターが成功し、同業他社と対等に競争できるという証拠でもあります」と話す。ホステルは、障がいのある人たちの社会、職業上のインクルージョンの実現をミッションに掲げるスペインの非営利団体「イカリア・ソーシャル・イニシアティブ(Icaria Social Initiatives)」が運営する。

ホステルの収入はスタッフへの支払い、トレーニング、福利厚生に充てられるほか、ホテルが位置するコルセロラ国立公園の保全にも使われている。アルスエイガ氏は「私たちは、自然に囲まれたこの場所で働くのが本当に好きです。だからこそ、チーム全体が公園の清潔さや防火を非常に意識しています。こうしたすべてを、私たちと共に滞在する旅行者の方々に伝えることに取り組んでいます」と説明する。

観光業は、ますます社会的取り組みを支援する手段として用いられるようになってきている。グドゥカ氏は、「旅行者がその土地ならではの体験を求める一方で、過去に観光業から排除されてきた人々が搾取されないことが不可欠です」と指摘する。

「そのためには、周縁化されたコミュニティが、そのコミュニティを支援・紹介しようと取り組む観光に関する意思決定の場やそのほかのイニシアティブに、主導的立場でなくても、参加することが最も重要だと思っています」

例えば、冒頭のアンシーン・ツアーズでは、ガイドは自らの経験や興味に沿ったツアーを組み立てることができるようなトレーニングを受け、担当するツアーの全所有権が与えられている。

観光業は長らく世の中の役に立つ力になれる可能性があると主張してきた。観光業が、以前は耳を傾けられることのなかった人たちの声を拡大し、旅行者が訪れた土地に思いやりのある方法で関与するよう促し、旅行業を超えてコミュニティを支援するための手段として活用されるようになった時初めて、その可能性の実現により近づくだろう。

シャーズ氏は、「私たちの開発の手法は観光セクターに特化しています。しかし、ツーリズムは目的を達成するための手段に過ぎません。私たちは、地域で連携するパートナーが自らに最も恩恵をもたらす道を選ぶよう勧めています」と話す。

「人はいつまでも旅をしようとします。少なくとも、ぜひ地域社会が、観光旅行から恩恵を受けられるように力になりましょう。なぜなら、私たちの経験では、みなさんが地域社会を支援すると、地域の人は収入を得て、それを近隣の人たちに再投資するからです。そういう場面をこの目で見てきました。ごく少数の人ではなく、多くの人の生活の向上に役立つのです」