サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

森林破壊のない皮革産業を2030年までに実現へ 米NGOや大手ブランドが呼びかけ

  • Twitter
  • Facebook
Sustainable Brands

米国のNGOテキスタイルエクスチェンジと英国のレザーワーキンググループはこのほど、森林破壊を伴わない持続可能な牛革の調達を2030年までに実現することを目指し企業・ブランドに行動を呼びかけるイニシアティブを設立した。イニシアティブ「Deforestation-Free Call to Action for Leather」にはケリングやBMWグループなど16社が署名する。透明性が高く公正なサプライチェーンを構築することで、生態系の保全に取り組んでいく方針だ。今月末にはEUで森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務付け規則が施行するなど、企業には森林破壊の防止に本格的に着手することが求められている。(翻訳・編集=小松はるか)

皮革生産がもたらす森林破壊

畜産は大豆やパーム油と並び、世界の森林破壊の主な要因の一つだ。英紙『ガーディアン』が今月発表した調査によると、アマゾンでは過去6年間で牛肉の生産のために8億本の木が伐採されたという。畜産によって草原やサバンナなどの自然生態系が放牧地へと転換されている。しかし、牛肉の生産と皮革産業は異なる。牛肉の生産は畜産を促進するものだが、皮革産業は変化を促進する可能性があるからだ。

サプライチェーン上で発生する森林破壊や土地の転換への対策は産業によってさまざまだ。皮革を使用するブランドや小売業者には、長く複雑で往々にして不透明なサプライチェーンで発生する問題に直接対処し、問題の発生源で良い変化をもたらすことができるようにサプライチェーンを転換していく役目がある。

イニシアティブはどんな内容か

持続可能な素材の使用を推進するNGOテキスタイルエクスチェンジやレザーワーキンググループ、イニシアティブに賛同するグローバル企業16社は、ファッション産業や小売業者に2030年もしくは、それ以前に使用するすべての牛革は森林破壊を伴わないサプライチェーンから調達するよう求めている。

イニシアティブが提供するガイドラインは、WWF(世界自然保護基金)と全米野生生物連盟、米NGOアカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブの助言の下で制定されたものだ。イニシアティブでは企業・ブランドにツールの提供や助言を行い、目標達成に向けて支援していく。

イニシアティブに最初に署名した16社には、高級ファッションブランドを擁するカプリ・ホールディングス(ヴェルサーチ、ジミーチュウ、マイケルコース)、ケリング(アレキサンダー・マックイーン、イヴ・サンローラン、グッチ、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタ)、タペストリー(コーチ、ケイト・スペード、スチュワート・ワイツマン)をはじめ、BMWグループ、アイスバグ、アディダス、アメリカン イーグル アウトフィッターズ、アレッツォ、オールセインツ、H&Mグループ、プーマ、マークス&スペンサー、マンゴー、革製のカバンを販売するリフォーメーション、ルーツ、レインジ・レボリューション、ブーツを販売するアールエムウィリアムズが名を連ねる。

プーマは「2030年までに当社の製品に使用するすべての牛革を森林破壊に関わりがないと証明されたサプライチェーンから調達することを約束する。当社は牛革(主に牛肉生産のために育てられた畜牛の革)に関連して、野生生物の生息地と生物多様性を保全し、気候変動を緩和すべく炭素を貯蔵するためにも森林破壊を終わらせることを目指す」との声明を発表している。

皮革は署名企業の多くの製品で主要材料として使われている。近年、植物由来の牛革代替品を取り入れる大手アパレルブランドは増えてはいるものの、牛革の国際的な需要を追い抜くほどの速さで増加しているわけではない。

署名企業に関しては、米Yahoo! Financeが指摘する通り、今回のイニシアティブによる呼びかけ以前に、多くの企業がすでにエシカルでサステナブルな皮革の調達を行うための目標を定めている。実際に、レザーワーキンググループが認定する業者から皮革の大半を調達しているという企業は多い。アディダスは革の99%をレザーワーキンググループが認証する業者から調達しており、アメリカンイーグルは100%、カプリは91%、コーチは革製品では70%で靴は99%、アイスバグは100%、マークス&スペンサーは90%、プーマは靴に関しては100%、レインジ・レボリューションは旅行カバンに関しては100%、リフォメーションは100%認証を受けた業者から調達している。

イニシアティブが目指すもの

森林破壊を伴わない「森林破壊フリー(Deforestation-Free)」の皮革を目指して企業・ブランドに呼びかけを行う今回のイニシアティブは、皮革産業を変革し、サステナビリティを推進するための重要な方針を掲げている。

まず、ブランドが連帯して取り組むことで皮革のバリューチェーン全体の変化を促進することだ。各社の取り組みを集結させ、バイイングパワー(企業の購買力)を管理することで、企業・ブランドはより大きな規模で持続可能な取り組みを加速させることに貢献できる。

またイニシアティブは、森林や生態系を保全する上で責任と投資をより公正に分配することが必要だと強調し、ダイベストメントよりもエンゲージメントと投資を奨励する。それにより森林破壊フリーと認定された畜産農場が増加することを期待でき、皮革産業に森林破壊を伴わない皮革の調達源をより大きな規模で提供できるようになるからだ。

長く複雑な繊維製品のサプライチェーンにおいて、より精度の高いトレーサビリティや可視性、改善されたコミュニケーションを実践することは今回のイニシアティブが掲げる方針を後押しするのに不可欠だ。ブランドはより高い透明性を実現すべく取り組むことで、森林破壊や土地の転用と関わりのない取り組みを実践できるようになるだろう。

最後に、イニシアティブは透明性をより高めるために、署名企業がもたらす前向きな変化に注目し、全体的な進捗を報告する重要性を強調している。こうした方針が皮革産業における森林破壊に対処し、サステナビリティを促進するための包括的な取り組みをつくっていく。

今回のイニシアティブの立ち上げは、持続可能で責任ある皮革の調達へのコミットメントに関し、ブランドの説明責任がより一層求められるようになるなかで重要な出来事といえる。より多くの企業・ブランドがイニシアティブに署名し誓約することで全体がもたらす影響は、非常に大きなものになるだろう。森林破壊が行われていないと認定されたサプライチェーンで生産された皮革の供給・需要が増えることは、より持続可能で透明性のある産業への成長につながるほか、協業を発展させ、さらなるイノベーションを生み、深刻化する地球の生態系の健全性を守るのにも役立つだろう。