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墓地を森として再生 米企業が提案する、死を生に変える持続可能な樹木葬

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Geoff Nudelman
Photo by Kevin Young on Unsplash

西洋社会で「死」は避けられることの多い話題だ。死そのものが感情的に複雑というだけでなく、死者を見送るための儀式が移送や経済、環境的な観点からも複雑なためだ。ニューヨーク・ブルックリンに本拠を置くトランセンド(Transcend)は、墓地を森として再生する樹木葬サービスを来春から始める。さらに、森林再生を行う非営利団体の協力の下で1件の樹木葬につき1000本の木を世界中に植樹し、気候変動の緩和にも取り組む方針だ。同社は事業を通じて、西洋の死生観にも一石を投じたい考えだ。

西洋では、人が亡くなると主に2つの方法で葬送する。一つは、遺体の防腐処理を行い、棺に納め、購入した墓地で儀式を執り行い埋葬するという伝統的な方法。もう一つは、火葬した後に遺骨を埋めたり、散骨したり、骨壺や墓に納めるというものだ。

従来型の埋葬は、防腐処理をするにしても火葬するにしても高価なことで知られている。どちらであっても長期的に環境への影響がある。

気候危機、とりわけ都市部で懸念される墓地の不足、死に対する考えの世代的な変化などによって、数世紀にわたり続いてきた慣習に新たな代替策が生まれている。トランセンドは、より地球環境に配慮した方法で葬送しようと取り組んでいる企業の一つだ。

「私たちは自然に任せる形で、死者を埋葬しようとしています」。同社の創業者兼CEOのマシュー・コッホマン氏は最近登壇したパネルディスカッションでそう話し、同社が提供するサービス、「世界の森を再生する」というユニークなミッション、従来の遺体の対処にともない生じる幅広い環境課題について説明した。

トランセンドが提案するのは、それぞれの州が持つ保守的な法律や規制の範囲内で行える埋葬方法で、遺体を分解して土壌に戻すというカーボンネガティブな方法だ。コッホマン氏は「トランセンドを立ち上げたのは、人々が死を恐れすぎないようにすることで、“生”について前向きになれるよう手助けをするため」としている。死を森の再生、ひいては地球の再生につなげることで、新たな視点から自らの死を見つめることを支援したいという。

トランセンドのウェブサイト

トランセンドが行う埋葬方法を紹介しよう。まず、亡くなった人の体を有機素材で生分解性の亜麻布で覆う。次に、予約した区画に掘った穴に、土中で最適な酸素レベルを維持できるようにウッドチップを敷き、その上に遺体を安置する。その後、遺体の分解を促すために菌や土壌、ウッドチップを混ぜ合わせたものを被せる。最後に、あらかじめ選んだ木を植えて土を被せていく。木の種類は、埋葬する森の生態系に合う7〜10種類の在来種の中から選ぶことができるという。理論としては、木が新鮮な土壌に根を張り、土の栄養素と分解されていく遺体によって成長していくというものだ。

人間の樹木葬については2023年春から予約の受け付けが始まる。ペットの樹木葬はすでに受け付けを開始している。ペットの場合、オンラインから注文し950ドル(約12万6000円)を支払うと、樹木葬に使う木とは別に、25本の木が植林を行う非営利団体「One Tree Planted」を通して世界各地に植えられるという。

トランセンドによると、同社の樹木葬は火葬するよりも576%持続可能な方法であり、死者の生涯のCO2排出量を100%削減できるそうだ。さらに、樹木葬1件につき1000本の木を植樹する。もし世界の7人に1人がこの方法で樹木葬を選ぶと、1兆2000億本の木を世界中に植えることができる。この数は、科学者らが気候変動の最も有害な影響を相殺できるとしている数に等しい。

樹木葬の費用は8500ドル(約113万円)で、現時点では従来の葬儀費用とほとんど変わらない。葬儀産業には予想外の出費や表に出ていない費用がつきものだが、トランセンドによると、公表している価格はすべての費用を含んだものだとしている。支払いについては、生前に分割して支払うことも可能で、年250ドル(約3万3000円)以上から分割払いが可能だという。同社は、分割払いを選択することで、残された家族が突然の大きな支払いに悩むこともなくなるとしている。

同社の担当者によると、樹木葬の場所はいくつかの大都市から2時間程度の距離にある美しく管理された森林で行われる。最初にどの地域で行われるかなど具体的な地名はまだ明かされていない。

トランセンドが始めようとしている環境に配慮した樹木葬は、長きにわたり避けられてきた死についての会話を前進させる可能性もある。

同社の諮問委員会には、映画『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』などの監督で環境保護主義者のダーレン・アロノフスキー氏が名を連ねている。同氏は火葬のCO2排出量に注目が集まれば、気候変動に関心の高い消費者が樹木葬に関心を持つと考えている。

コッホマン氏は、次世代が買い物や暮らしのあらゆる決定において気候変動に配慮する時代になれば、最後の眠りについた後の環境負荷をどう減らせるかについても思いをめぐらすようになり、話すようになるのではないかと考えている。「私たちが提供する樹木葬は、地球上のすべての人に影響をもたらすものです」と語っている。