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18カ国調査:役員の半数、サステナビリティへの取り組みは未来への投資ではなくコスト

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フランスに本拠を置くコンサルティング企業「キャップジェミニ」は、日本を含む18カ国の役員2004人を対象にサステナビリティの取り組みについて調査した報告書を公表した。報告書によると、自社がサステナビリティに取り組む根拠や投資価値を明白だと考える役員はわずか5人に1人(21%)で、回答者の半数以上(53%)がサステナビリティの取り組みについて利益よりもコストが上回ると捉えていることが明らかになった。報告書は、企業が往々にしてサステナビリティの取り組みを義務的で利益を生まないものと見なしており、サステナビリティが自社の収益を守りながら真の変化に影響をもたらすチャンスだと認識できていないと指摘する。

サステナビリティに関する初のグローバル調査

キャップジェミニの研究所は、企業が環境のサステナビリティに関する喫緊の課題を十分に真剣に受け止めているかどうかを調べ、長年にわたる取り組みの進捗状況を評価するために、初めてとなるグローバル調査を実施した。報告書「A World in Balance - Why sustainability ambition is not translating to action (不安定な世界――なぜサステナビリティの目標は行動に移されないのか) 」の調査対象になったのは世界12カ国(米国、英国、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ、スウェーデン、スペイン、ドイツ、日本、フランス)の主要産業の大手668社に所属する役員2004人。役員の半数はコーポレート部門(戦略、サステナビリティ、セールス・マーケティング、会計・財務、IT、オペレーション)で、残りはバリューチェーン部門(イノベーション、研究開発、製品の設計・開発、調達・購買、サプライチェーン・物流、製造・生産)。調査対象の産業は、航空宇宙・防衛、自動車、消費財・小売、金融サービス、ヘルスケア・ライフサイエンス、工業生産、電気通信、公益事業、公共部門・政府などだ。調査は、サステナビリティの中でも環境に関する取り組みに焦点を当てたもので、社会的なサステナビリティは含まれていない。

報告書によると、サステナビリティのビジョンは事業戦略の再構築に組み込まれており、およそ3人に2人(64%)の役員はサステナビリティを各役員が検討すべき課題だと回答しているものの、気候変動の目標と具体的な行動には隔たりがある。この先3年間の新たな取り組みの計画を立てていると答えたのは49%だったが、経営モデルを再設計したと回答したのは37%に過ぎなかった。売上高200億ドル(約2兆8000億円)を超える規模の企業のサステナビリティへの投資水準は平均で総売上高のわずか0.41%、売上高10〜50億ドル(約1400億円〜約7000億円)規模の企業の投資水準はそれを上回る平均2.81%だった。これに対して、米S&P500種指数の構成銘柄が研究開発に投資する水準(2020年)は平均4%だ。

サステナビリティで共通のビジョンと協調が不足

報告書は、多くの組織において、サステナビリティの取り組みに対する共通のビジョンと協調が不足しており、さまざまな部門が縦割りで取り組んでいると指摘。例えば、サステナビリティに関するデータが組織全体で共有されていると答えたのは43%だった。また、人材に関する課題が全社的な連携を妨げていることも明らかになった。サステナビリティに関するスキルを有する人材の採用やスキル向上は、大半の人事部門にとって優先事項ではない。サステナビリティに関して優れたスキルを有する新たな人材を積極的に採用していると回答したのは半数以下の47%だった。同様に、サステナブルな製品や製造に取り組んでいると答えた割合も半数以下だった。

こうして全社を挙げてサステナビリティに取り組めていないことにより、気候変動がもたらす大惨事を回避するのに十分な変化を起こせると思えない人が増えている。昨年10月に調査・コンサルティング企業グローブスキャンなどが発表した調査からもその影響が見てとれる。サステナビリティ課題の分野で働く70カ国を超える500人以上のサステナビリティの専門家の70%が気候変動による大きな被害を回避できる可能性は少ない、もしくは大きな被害はすでに起きていると回答している。

サステナビリティの取り組みの主な動機は「従業員からの要請」と「規制」

企業がサステナビリティに取り組む主な理由は、「将来世代のため」(63%)、「既存の従業員と未来の従業員からの要請に応えるため」(60%)、「将来の規制強化に先手を打つため」(57%)だった。一方、「将来の収益増加のため」と答えた回答者の割合は52%だった。多くの企業は、コストへの短期的影響を恐れてサステナビリティに取り組むことをためらう傾向にある。報告書は、半数以上の役員が動機に挙げた、将来の規制による支出を下げるために今コストを支払うことについて、必要最小限のことしか考えておらず収益を生み出さないリスク回避の手法であり、こうした考え方ではサステナビリティの取り組みを強化するために必要な内部資金やサポートを引き出すことは難しいとしている。

サステナビリティは、特に新型コロナウイルス感染症の流行、地政学的緊張、それに伴う生活費危機などの世界のマクロ経済を背景に、企業価値を向上するものというよりもコストを増やすものと見なされている。サステナビリティに取り組む根拠・投資価値が明白だと回答した役員はわずか21%で、53%は「サステナビリティへの取り組みはビジネスを行う上で負わなければならない財政的な負担である」「サステナビリティへの取り組みを追求するのにかかるコストは潜在的利益を上回る」と答えた。

しかし、報告書はサステナビリティを優先する組織はそうでない組織よりも高い業績を上げていることも明かしている。サステナビリティの取り組みが大きく進展している「フロントランナー層」の企業は、2020年から2021年にかけて、従業員1人あたりの売上高が平均よりも83%高かったという。サステナビリティに取り組み始めたばかりの「ビギナー層」の企業は平均よりも13%低かった。

サステナビリティが遅れている企業はビジネスモデルが陳腐化へ

キャップジェミニ・インベントのCEO兼同グループの役員でもあるシリル・ガルシア氏は、「多くの企業はサステナビリティの重要性を理解しています。組織は、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を超えずに暮らす社会を実現するための明確な戦略、具体的な成果をもたらす短期的目標を設定する必要があります。地球の温度上昇を1.5度に抑えるには今しかありません。経営トップから変化を起こすことが必要です。我々は、サステナブルな製品やサービスを生み出すために、企業が事業モデルを転換することが必要だと考えています。これは未来への投資です。規制の強化や市民社会からのプレッシャーが高まり、消費者や投資家の監視の目が厳しくなる中、サステナビリティ実現のための取り組みが遅れている企業は、現在のビジネスモデルが今後数年のうちに陳腐化し、不適性になるリスクが高まります。持続不可能な企業を経営したいと誰が思うでしょう」と警鐘を鳴らしている。