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タイヤの摩耗粉がもたらす環境汚染に挑む 真のゼロエミッション車を目指す英スタートアップ

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Scarlett Buckley

自動車がもたらす公害は排気ガスだけではない。走行時に生じるタイヤの摩耗粉も大きな課題だ。英ロンドンに本拠を置くスタートアップ「タイヤコレクティブ(The Tyre Collective)」はタイヤの摩耗を調査し、微粒子を発生源で捕らえる技術を開発している。

自動車がブレーキをかけ、方向転換をし、加速するたびに、地球はダメージを受けている。その要因は化石燃料だけでなく、天然ゴムと合成ゴムから作られているタイヤの摩耗と損傷から生じるマイクロプラスチックの微粒子だ。実はこれらも自動車による深刻な公害の大きな要因になっている。

マイクロプラスチックにはさまざまなものがある。合成繊維に使われているマイクロファイバー、塗料粒子、使い捨てプラスチックに並び、タイヤの粒子はあまり知られていないが、世界最大のマイクロプラスチック汚染物質で、大気中に排出される粒子の5割を占める重大な大気汚染の原因だ。2020年の研究によると、大気や水路には年間610万トンのタイヤカスが流入しているといわれる。

タイヤに起因する環境汚染は世界に広がっている。タイヤが摩耗することで起きるマイクロプラスチック汚染は避けがたい問題で、化学繊維に次ぐ海洋プラスチック汚染の第2の要因となっている。水路に含まれるタイヤ関連の化学物質は、米太平洋岸北西部における銀鮭の大量死にも関連しているとされる。

タイヤコレクティブの共同創業者でCEOのハンソン・チェン氏はサステナブル・ブランドの取材に対し、「タイヤの摩耗と汚染による影響はこれまでに調査されたこともなく、対処されてこなかったものです。タイヤが摩耗することは誰もが知っていることですが、タイヤの粒子がどこに行くかは検討されてきませんでした。タイヤの摩耗の問題は一般的にはあまり知られていませんが、業界では周知されているものです」。

世界が従来のガソリン車から電気自動車へと移行するなか、排ガスの量は減ると予想されている。しかし、追加バッテリーの重量やEVのトルク(加速力)により、タイヤの摩耗がもたらす汚染は悪化すると見られ、規制が敷かれない場合は1000倍悪化するという。そう考えると、未来の自動車による汚染は、排気ガスではなくタイヤから生じることになりそうだ。

タイヤコレクティブは、タイヤ粒子を発生源で捕捉することで、真のゼロエミッション車への移行を促進している。

「ゼロエミッション車への移行においてはこれまで、主にCO2や排ガスに焦点が当てられてきました。排出量をゼロにする『ゼロエミッション』はCO2の排出のみならず粒子状物質(PM)やマイクロプラスチックも含まれます。タイヤの摩耗粉を回収せずに、輸送分野でゼロエミッションを達成すること決してできません」

タイヤコレクティブは、ダイソンの創業者ジェームズ・ダイソン氏の財団が開催する2020年のコンテストで国内最優秀賞と国際賞でも2位を受賞した。受賞した技術は、タイヤが摩耗するさいに、ゴムの粒子中にある帯電した炭素を捕らえるというものだ。静電気を帯びた銅板が組み込まれた装置を使ってこの小さな粒子を捕らえる。装置はタイヤが道路に接触する部分の近くに設置され、回転する車輪のまわりの気流を利用して機能する。タイヤの摩耗粉を発生時に捕らえる車載用装置はこれが初めてだ。

「私たちは、タイヤの粒子が道路との摩擦で帯電することを発見しました。セーターに風船をこすりつけるところから始め、最終的に、タイヤの粒子を捕らえるために車輪のまわりの静電気と気流を用いる装置にたどり着きました」

タイヤの粒子を捕捉したあと、集めた粒子廃棄物がそのまま埋め立てられないようにするのが同社の循環型ソリューションだ。

「捕らえた粒子は微分化したゴムの一種なので、タイヤトレッドやアスファルト、防音材などさまざまなものにアップサイクルできます」

タイヤコレクティブは現在、同じくロンドンに拠点を置くゼロエミッションの物流会社Zheroと3カ月間の実証実験を行なっている。これまでの実験で、タイヤコレクティブの開発した装置によって大気中への排出量が60%削減された。今回のZheroとの実証実験で、実際に装置がどのように機能するかを調べる方針だ。

「装置と制御ユニットの連結・頑健性の試験をし、通常の運転で1日、1週間、1カ月あたりどれだけタイヤの摩耗を捕捉できるかを調べます。実証実験で得られた知見・結果は開発の次の段階に役立つでしょう」

タイヤコレクティブは2024年半ばに、製品のソフトローンチを目指しており、さまざまな自動車への装置の適用や統合を模索しようとしている。そして2027年までには、それを世界的に拡大し、新たな電気自動車に新技術を搭載し、タイヤの摩耗による環境汚染を大幅に軽減したいと考えている。