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EV用超急速充電バッテリーを開発、イスラエルのスタートアップ「ストアドット」CEOに聞く

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Scarlett Buckley

イスラエルのスタートアップ「ストアドット(StoreDot)」は、電気自動車(EV)の普及に向けて超急速充電バッテリー技術の開発を行う。同社はすでにEVを5分間で充電できるバッテリーを開発。2024年までに5分間の充電で約160kmの航続距離を実現するバッテリーの量産を目指し、2028年までに充電時間を3分間に短縮することを目標とする。今年4月には、2030年までに販売する全ての車をEVにすることを掲げるボルボが同社への出資を明らかにした。米サステナブル・ブランドがストアドットCEOのドロン・マイヤースドルフ氏に話を聞いた。

交通・輸送分野が気候変動の最大の要因であることは周知の事実だ。この分野は、全世界の二酸化炭素排出量の20%を占め、その大部分は道路交通・輸送部門から排出されている。一方で、米国では自動車の所有率が2015年の90.82%から2020年には91.5%に上昇するなど、自動車の利用は拡大傾向にある。交通・輸送分野の持続可能な未来を実現するには、従来のガソリンエンジン車に依存できないことは明らかだ。

ボルボ・カーUSAなどの調査によると、米国の74%のドライバーはEVが将来の移動手段になるという認識があるが、大半の人は慣れ親しんだ内燃機関車を好みEVへの移行の準備がまだ整っていないことがわかっている。

EVの購入を阻害する最大の障壁の一つが「航続距離への不安」。電力がなくなり、充電スタンドが見つからないのではないかという懸念だ。各自動車メーカーはEV用電池の製造と性能向上に積極的に取り組んでいるが、ボルボの調査では、EVに乗ったことのないドライバーの58%にとって航続距離への不安が依然として最大の障壁であることがわかっている。

そうしたなか、ストアドットは超急速充電(XFC)バッテリーの可能性を世の中に示し、市場に破壊的イノベーションをもたらそうとしている。

ストアドットの超急速充電バッテリーは、従来のリチウムイオン電池の黒鉛(グラファイト)負極を活物質シリコンナノ粒子に置き換えたものだ。シリコン負極は吸収性があり、黒鉛よりも多くのリチウムイオンを吸収できるため、充電速度が速まり、より多く充電ができ、電池寿命もより長くなる。

ストアドットのドロン・マイヤースドルフCEO兼共同創業者は「リチウムイオンが入り込むシリコンの3D構造の表面積はかなり大きい。表面積が大きければ、イオンを安全かつ速く自由に流すことができる」と話す。

開発のブレークスルーは、イスラエル・テルアビブ大学でのアルツハイマー病に関する研究に触発されたことだという。同大学は、脳機能の低下に関連する脳の神経網「アミロイド線維」に含まれるペプチドを研究しており、さまざまな分子を人工的に合成することによってナノスケール構造でのエネルギー貯蔵に有機分子が利用できる可能性を示した。

マイヤースドルフ氏は「EVを普及させる上での最大の課題は充電スピードだ。私は超急速充電がゲームチェンジになると考えた。エネルギーを貯蔵するのに効果的な有機物質や低分子を特定し、リチウムイオン電池に組み込むことのできる最も有効な材料を特定するために大規模な実験を行った」と語る。

最終的に、異なる学問分野の科学者からなる学際的チームが知恵を出し合うことで、ストアドットは突破口を見出したのだった。

「科学においてすでに分かっていることの限界を突破する最善の方法は、異なる分野・領域を組み合わせることだ。そうすることで、多くの先進的な手法・素材を新たなバッテリーの設計に相乗的に統合でき、ブレイクスルーが可能になる」

有機分子と無機分子を組み合わせるイノベーションは、長期間を有する工程になる可能性がある。ストアドットも2012年の創設後、バッテリーと材料の構造を具現化するのに10年近くかかった。

「従来の黒鉛をベースとした負極では、充電スピードが大幅に限定されていた。ストアドットは、有機添加剤とコーティングを使って保護しながら、黒鉛をシリコンに置き換えた。シリコンには黒鉛の5倍のエネルギー容量があるが、膨張を抑える必要がある」(マイヤースドルフ氏)

ストアドットの評価額は16億ドル(約2170億円)。ベトナムのEVメーカー「ビンファスト」、ダイムラー、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)のロマン・アブラモヴィッチ、フランスの大富豪でシャネルの共同オーナーのヴェルテメール兄弟、英大手石油会社BP、サムスン・ベンチャーズ、エレクトロニクス大手TDK、ボルボなど幅広い投資家が名を連ねる。全個体電池市場は、年平均成長率18%で2030年までに世界全体で34億ドル(約4600億円)に達すると推定される。こうした投資は、将来の市場需要に対応するために必要な研究開発を促進するのに非常に重要だ。

ストアドットは現在、急速充電バッテリーのみならず、バッテリーの長寿命化にも取り組んでいる。同社は、1700回充電した後であっても本来の容量の70%を維持できるように「自己修復型」バッテリーセル(単電池)の開発を進めているところだ。