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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

自社のサステナビリティ・コミュニケーション、ターゲット層は適切か

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Eileen Chen
Photo by MART PRODUCTION from Pexels

企業・ブランドが発信するサステナビリティに関するメッセージは、適切なターゲット層に届いているのだろうか。Z世代や女性といったよくあるターゲット層に絞ってメッセージを発信することで、潜在的にターゲットになり得る人々を排除することにつながっているかもしれない。取引先にプレゼンテーションをしたり、事業プランを組み立てる際には、改めてサステナブル・コンシューマー(サステナブルな消費者)とはどんな人たちなのかを考えてみてほしい。英クリエイティブ・コンサルティング企業「Radley Yeldar」のサステナビリティ・コンサルタント、アイリーン・チェン氏が解説する。(翻訳=井上美羽)

私の理想的な休日の過ごし方は、5ドルのオーツミルクラテを飲み、ファーマーズマーケットに行くことだ。こうした社会的意識の高い若い女性をサステナビリティに関する広告のターゲットにする企業は多いだろう。

この場合、企業はサステナビリティのターゲット層に関する固定観念を裏付けるようなデータを参照している。例えば、ファースト・インサイト社とペンシルバニア大学ウォートンスクールの調査によると、Z世代はブランド名よりもサステナビリティ(持続可能性)を優先することが最も多い世代であることがわかる。また、デロイトの「2021年ミレニアル世代とZ世代に関するグローバル調査」では、Z世代の最大の関心事は環境問題だという結果も出ている。

しかしここで問題なのは、ターゲットとなる人々を絞り込むことで、企業のブランドストーリーに最も刺さる可能性のある多くの人々を排除していることだ。このやり方は、商業的な観点からは(時に)合理的かもしれないが、社会の移行という広い意味でのニーズには応えていない。

人は、キャンペーンや広告から何度も無視されたと感じると、自らをその企業や商品、サービスの対象者ではないと捉えてしまう。サステナビリティの問題は、年齢や性別に関係なく、この地球上のすべての生きものに関わる問題であるからこそ、誰かを無視するべきではない。それは、視野を広げる必要があるという道徳的な理由に加えて、いくつかの研究データが示すように、現実はもっとあいまいなものだからだ。

年齢

若い世代が先導し、消極的な高齢者層を引っ張っていくというのは神話にすぎない。気候変動対策に関しては、まったく逆のことがいえる。英国の科学誌『ニュー・サイエンティスト』とキングス・カレッジ・ロンドンの政策研究所による最近の研究では、英国と米国の18歳から34歳の若者が、実は最も敗北主義的な世界観を持っており、そのため自分の行動を変えづらいという結果が出ている。

他の環境行動についても同じことがいえる。気候変動や持続可能な資源の利用に取り組んでいる英国の非営利団体WRAPとの取り組みでは、ベビーブーム世代(1946〜1964年までに生まれた世代)が最もリサイクルに長けていることがわかった。英アヴィヴァの調査によると「55歳以上の人々は、他のどの年齢層よりもゴミをリサイクルし(84%)、使い捨てプラスチックを避け、季節の果物や野菜だけを買う(47%)傾向がある」ことがわかった。

このような環境に配慮した個人の行動は、ベビーブーム世代にとっては自然な流れかもしれない。彼ら彼女らは家で過ごす時間が長い上に、可処分所得が多く、そして人生のこの段階までに多くの知恵を蓄えている。キングス・カレッジ・ロンドンの政策研究所のボビー・ダフィー教授は、「親や祖父母は、子どもや孫に残す遺産(家や宝石だけでなく、地球の状態)について深く考えている」と指摘している。

ベビーブーム世代がいまだに経済の財布の紐を握っていることも忘れてはいけない。米国では、ミレニアル世代の富はわずか5%であるのに対し、ベビーブーム世代はなんと53%も握っている。一方、英国ではベビーブーム世代が家計の富を最も増大させている。広告のエイジズム(年齢差別)問題(高齢者に対する誤った描写、人口割合が大きいにも関わらずメディアへの登場率が低く軽視されているなど)も相まって、これまでサステナビリティのターゲティング戦略では無視されてきた、経済力と影響力があり、意欲的で行動的な市民という巨大なターゲットグループを形成することも可能だ。

ジェンダー

多くの調査で指摘される「エコ・ジェンダー・ギャップ」。ある世界的な調査によると、リサイクルをし、地産地消をし、買い控えや肉の消費を減らすなど、気候変動と戦うために習慣を変えた人は、男性よりも女性の方が多いことがわかった。家庭での購買の決定権は依然として女性が握っているため、企業が女性をターゲットにサステナビリティのメッセージを発信することは当然ともいえる。

サステナビリティに関する語彙が本質的に女性的であると感じられるのは仕方のないことだ。地球への「思いやり」、「母なる」地球といった表現、利他的なメッセージは、いまだに多くの広告で使われている。

その結果、一部の男性は、男性的な自己イメージにそぐわないとして、無意識のうちに環境保護行動を避けてしまう。米国と中国の2000人以上の参加者を対象にした実験では、従来の「グリーン」な持続可能性のイメージよりも、より男性的なロゴの環境NPOに寄付をする傾向が見られた。(これはこれで問題があるが、それはまた別の機会に)

もうお分かりだと思うが、企業が女性をターゲットにすればするほど、男性は排除されたと感じるようになり、ジェンダーニュートラルであるべきという議題からますます遠ざかっていく。サステナビリティをめぐるコミュニケーションと美学は、この包摂的なビジョンを反映する必要がある。

そして、触れないわけにはいかないのが、世界の富と権力のほとんどを支配しているのが男性だということだ。米フォーチュン誌が毎年発表する米国企業上位500社のリスト「フォーチュン500」のCEOのうち女性はわずか8%。ロンドン証券取引所の株式指数FTSE350企業でも女性のCEOは全体のわずか5%だった。

また、世界の富豪22人の富はアフリカの全女性の富に等しい。この他にも根拠となるデータはまだある。これらの数字は変化しつつあるが(私は自分が生きている間にジェンダー平等が実現することを心から願っている)、現状の社会でこうした事実を無視するわけにはいかない。サステナビリティに関するシステム変化を起こすには、男性の全面的な参加が必要不可欠だ。

誰に語りかけるかを考えよう

好む、好まざるにかかわらず、企業が文化に影響を与えることは否定できない。今後、取引先にプレゼンテーションをしたり、事業プランを書いたり、消費者データを調べたりするときには、サステナブルな消費者とは誰かを考え直し、ターゲットに対する先入観を見直すきっかけになることを願っている。

今こそ、飽き飽きするような従来の流れに歯止めをかけ、私たち全員が求める、より前向きで包括的な変革者の姿を実現していく時だ。あえて、ベビーブーム世代をサステナビリティのヒーローとして宣伝したり、タトゥーだらけのトラック運転手がリユースカップを愛用している姿を映し出したりすることで、常識を覆すことができる。まずはこうしたキャンペーンを行い、固定観念を打ち破ろう。

Eileen Chen
Sustainability Consultant
Radley Yeldar