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企業の政治的責任(CPR:Corporate Political Responsibility)とは? ESG戦略に欠かせないポイント

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Erb Institute (翻訳=フェリックス清香)
tadamichi

持続可能な社会を構築するためには、さまざまな分野での横断的な変革が求められる。現代のように既存の国際秩序が不安定で、さらに政治への信頼が低下している時代において、企業が社会に果たす役割、企業への期待は大きくなっている。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

一方で、ロビー活動など公共政策にもたらす企業の影響にも注目が集まる。企業の掲げるサステナビリティの宣言・目標と行動は一致しているのか。変化を本当に起こそうとしているのか。

そこで、企業に必要とされるのがCPR(Corporate Political Responsibility:企業の政治的責任)気候変動政策などへのロビー活動をはじめとする企業の政治活動の透明性を高め、政治活動やその目的を開示すること、サステナビリティ目標と政治活動を一致させること、サステナビリティを実現するための政策を競争上不利にならずに後押しすることなど、政治・政府との責任ある関わり方がCPRとされる。

日本ではまだ馴染みのない言葉だが、数年前からメディアやアカデミック分野の刊行物などで見かけられるようになった。2019年には、カリフォルニア大学が発行する『カリフォルニア・マネジメント・レビュー』の最優秀論文に“CSR Needs CPR: Corporate Sustainability and Politics” (CSRにはCPRが必要:企業のサステナビリティと政治)が選ばれている。

今回は、昨年、米サステナブル・ブランドにミシガン大学Erb研究所が寄稿したCPRに関する記事を紹介する。同研究所は、ビジネスの力によって、社会・環境・経済的に持続可能な世界をつくり出すことを目的に設立された。

多くの企業に見られる、公表しているサステナビリティへの野心と非公表のロビー活動の努力の間にあるズレは、もはや言い訳できるものではない。ミシガン大学Erb研究所の「企業の政治的責任」に関するタスクフォースは、企業の点と点をつなげるための活動を支援している。

2021年1月6日に起きた米国会議事堂での襲撃事件は、企業の政治献金の役割を浮き彫りにした。1週間のうちに、多くの企業がPAC(政治活動委員会。企業・組合などが候補者を議会に送り込むために資金集めをする機関)への献金を停止または廃止した。しかしこれは目新しい問題ではない。

ミシガン大学のErb研究所では社会的・環境的影響に関する課題を指摘している。つまり、社会的・環境的影響に関して、企業の公にしているサステナビリティへの野心と、非公開のロビー活動の努力との間にはしばしばズレが見られるのだ。

Erb研究所が最近招集した「企業の政治的責任に関するタスクフォース(Corporate Political Responsibility Taskforce、CPRT)」は、ステークホルダーの関与、マネジメントツール、および基礎研究段階でのコラボレーションを通じて、ビジネスリーダーとその企業がこの核心にあるズレに対応するのを支援することを目指している。

Erb研究所のマネージングディレクター、テリー・ネリドフ(Terry Nelidov )氏は、CPRTのディレクターであるエリザベス・ドティ(Elizabeth Doty)氏と、気候変動対策に取り組む非営利団体クライメートボイス(ClimateVoice)のビル・ウィール(Bill Weihl)氏と鼎談し、企業の持続可能性に向けた取り組みと政策との間にあるズレを克服する方法と、なぜ今「気候変動のための決定的な10年」と呼ばれる時代に入っているといわれるほど、かつてなく緊急を要する事態になっているかの理由について、二人の意見を聞いた。

言葉と行動を一致させるには

ーー人はよく「企業はあることを主張しながら、一方で違うことのために行動したりロビー活動をしたりする」と言います。企業のサステナビリティの取り組みに関して、懸念されている重大な食い違いとは何でしょうか。

ビル・ウィール:企業は、たとえば気候、人種的平等、不平等など特定の問題に関する重要な事柄について話す一方で、これらの問題に関連する公共政策の議論では沈黙を保つか、現状維持を支持することがあります。また、事業者団体は会員企業が発表する目標と対立する立場を頻繁にとります。企業は難しい構造的な問題について話しますが、その問題を解決するための公共政策の議論に生産的に関与することには失敗しています。

エリザベス・ドティ:一番の問題は、企業が自然と縦割りになりがちだということだと思います。企業はすでにブランドの保持と通常の業務において「一つの企業」として行動することに苦労しています。持続可能性や不平等、社会的正義や教育などに関するより複雑な問題についての合意形成はさらに難しいものです。そこでは、CSOやブランドマネジメント、DEI(多様性・公平性・包摂性)、そして政治活動に関する部門が、全く異なる仮説、優先順位、戦略で取り組みを始めるので連携がさらに困難になります。これらの見解を調整する、積極的で原則的な方法がなければ、企業の言動は一致しなくなります。

一貫性は、信用に足りるかどうかを人々が知る、最も基本的な方法の一つです。そして人々が不信感を抱いているような今日の環境下では、言動の不一致は意図的なグリーンウォッシングや偽善だとみなされ、企業の評判と影響力の両方にとって非常に悪いものとなります。

ーーそうですね。しかし、それに関心を寄せる人はいるのでしょうか。率直な意見で申し訳ないですが、サステナビリティと企業方針のズレは理論的には理解していたとしても、実際問題としてはみんな不思議に思っています。「サステナビリティに取り組む上で、もっと緊急の問題はないんですか。気候変動、人種的平等、不平等、人権についてはどうなるんですか。それらは内部調整というややこしい議論よりも重要なんじゃないんですか」って。

ビル・ウィール:このズレは、そういった緊急の問題の根本に深く関係しているのです。 私は現在、気候変動に注目していますが、気候変動への取り組みは、人種的正義、不平等、人権、その他の問題とも密接に関係しています。こういった問題を解決するには構造を変える必要があり、それには、現状を打破する必要があります。

気候変動問題の場合、企業は現状を維持できるように、直接的にも、業界団体を通じても、広範な影響力を行使したくなる強い動機・利害があります。そして影響力のある企業が議論に関して沈黙している時、企業の強力な動機が議論を支配し、しばしば議論で勝ってしまうのです。

エリザベス・ドティ:このズレこそが、問題の多くの根本原因です。多くの場合、文化的な側面もあります。「私たちにとって大規模で緊急性が高く構造的なこれらの問題を進展させる能力を制限しているものは何か」と自問してみましょう。

ほとんどの場合、持続可能性や社会正義、機会、人権、教育、そしてほかの問題に対してイノベーションを起こしたり、促進したりする企業が、不利になることなく報われると保証されるような、透明性が高くて予測可能なルールがないことが原因です

こういったルールがない場合、企業は時折あちこちで差別化を試みるくらいで、出る杭を叩き続けます。結局、機能不全に陥ったマーケット・インセンティブが、短期的に行動し、公共財を弱体化させ、社会コストを外部化することを受け入れるような企業に利する一方で、変化は非常にゆっくりとしか起きません。

気候変動だけでなく社会・環境・政治的システムにとっても「決定的な10年」に

ーーなるほど。しかし、なぜそれを今考えなければいけないのですか。この「企業内の根幹にあるズレ」に関しては、何年も前から話されています。企業がサステナビリティ部門を創設し、サステナビリティ目標を発表して以来、グローバルな官僚制のなかで政策やロビー活動の目標とぶつかるようになり、もはや企業活動の一部となっています。それを今、なぜそんなに急ぐのですか。率直に言って、時間とリソースはもっと緊急の問題に集中させて、その根幹のズレに関しては、後回しにすべきではないでしょうか。

エリザベス・ドティ:これは企業、システム、価値観の3つのレベルで緊急だからです。

企業レベルのリスクの高まり:企業の政治活動の増加が、企業内の縦割り問題や、第三者の業界団体、政治的非営利団体、ロビー活動企業へのアドボカシー(政策への提言)の委託と組み合わさることで、企業に対する従業員、顧客、投資家、事業を行うコミュニティからのレピュテーション・リスクは深刻化します。このリスクは若い世代の間でさらに強くなります。若い世代は、企業が政治的影響力を社会が直面している構造的な脅威に対処するために使うことをもはや求めてはいません。しかし、期待はしているのです。

システムレベルのリスク:気候、社会正義、教育、医療、インフラ、その他の多くのシステムは転換点に急速に近づいています。現在の企業のマテリアリティ(重要課題)・モデルは、自社や業界に直接影響をもたらす時にのみ、企業が政治に関与するように導くものです。しかし、この一方通行のモデルは、企業の社会への影響と、システム全体の健全性に対する企業の責任について考慮していません。企業が「双方向」のマテリアリティと、市場が依存する社会・環境・政治的システムを持続可能なものにするための自社の責任を検討するまで、サステナビリティを促進するどんな努力も十分ではないのです。

道徳上の要請:単純に、ますます多くのビジネスリーダーが良心の呵責を感じており、そのために企業の政治活動が、市場と民主主義、社会が依存しているシステムそのものにいかに影響しているかを再考するようになっています。

ビル・ウィール:気候変動については、排出量を半減するのに約10年かかることを付け加えておきます。さらにこの先数年の間、不適切な処置をしてしまえば、事態は壊滅的なものになる可能性があります。そのため、私たちは気候変動対策のためにありとあらゆる影響力を動員する必要があります。企業は、気候政策に関して沈黙するか、もしくは現状維持の提言を積極的に選択しています。これらの選択は社会に最悪の結果をもたらします。その現状を変えるために、私たちは今、行動する必要があるのです。

アクションは多くの場合、従業員とともに内部から始まる

ーーズレの解決は緊急かつ重要です。では、企業は何をすべきなのでしょうか。企業とは人である、ということを考えると、従業員や内部の変化の要因になる人々は、指導者の地位にいる人に行動を起こさせるために何ができるでしょうか。

ビル・ウィール:企業は従業員の考えていること、そして将来の従業員となる学生が考えていることを気にします。投資家や顧客は言うまでもありません。従業員や学生は特に声をあげ、企業にとってたとえいくらかリスクがあろうとも、企業がこれらの重要な問題に対して強い立場をとってほしいと明らかにすることができます。ClimateVoiceは、こうした課題解決のための活動を促進するために、各企業の従業員の教育や関与、動員に取り組んでいます。

エリザベス・ドティ:ビルの指摘に加えて、企業は、気候変動や不平等、社会正義に関する企業のロビー活動の協議事項について、従業員や従業員予備軍に何を期待しているか、優先順位を尋ねることもできると言い添えたいと思います。

Erb研究所としては、企業が「企業の政治的責任」を、ESG戦略のGの重要な部分として含めて考える必要があると考えています。

最初のステップは、1)透明性、2)説明責任、3)あらゆる政治的関与のための責任を確かなものにする内部方針を、採択し伝達することです。これはつまり、1)企業のパーパスとバリューと政治活動の方向性を一致させること、2)他者の資本を使用したり従業員を関与させる時には同意を得ること、3)政治的影響力が市場、社会、生活が依存するシステムを確実に支えるように、ロビー活動のガイドラインを採用することといった、政治活動の開示をすることを意味します。

企業の政治的責任に対する大学の役割

ーーお二人に最後の質問です。まずは、Erb研究所の「企業の政治的責任に関するタスクフォース(Corporate Political Responsibility Taskforce、CPRT)」のディレクターであるエリザベスに最初に聞きたいのですが、ビジネスの問題はビジネスが解決すべきではないでしょうか。つまり大学の研究所がビジネスと、政策と、社会に意味のある変化をもたらすためにできる、ユニークな貢献とは何でしょうか。

エリザベス・ドティ:Erbのような機関は、ミシガン大学全体からの進歩的な研究とリアルタイムでのビジネスへの関与により、上席のビジネスリーダーを支援できる特別な立場にあります。フレームワークやフォーラム、専門知識を提供することで、私たちはリーダーが広範な持続可能性に関する問題と、必要とされる緊急の構造的変革を行う力を制限するものについて、より体系的に考えることをサポートできます。

このサポートは、企業の政治的責任に関わるため、CPRTはビジネスリーダーと企業が新たな問題に迅速に対応し、ステークホルダー、従業員や将来の才能ある従業員予備軍の視点を理解する支援をすることにもなります。私たちはネットワーキング、フレームワーク、マネージメントツールを提供して、リーダーが最も差し迫った自社の問題に対して、戦略を立てる手助けをします。

ビル・ウィール:この種の変化は、リーダーが自分の役割をどう考えるかについての変化や、あらゆる人々が企業の責任についてどう考えるかの変化も同時に引き起こします。大学は将来のリーダーを教育し、彼らにこういった複雑なシステムの問題を考える方法、つまり社会的課題の解決を支援する企業の責任についてどう考えるかを教える必要があります。もしビジネスが本当に全てのステークホルダーのために価値を創造するものならば、ビジネスは単にビジネスに影響を与えるだけではなく、私たち全員に影響を与える公共政策をつくる上で建設的な役割を果たすことによって、これらの複雑な構造上の問題に取り組むという重要な役割を担っているのです。