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ブラックロックCEO、脱炭素を推進するも投資引き揚げは行わず 

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image:wellesenterprises

米大手運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは17日、世界の投資先企業のCEOに宛てた手紙を発表した。同氏が毎年発表する手紙は、投資業界の今年の関心事を示すものとして注目されている。手紙のタイトルは「The Power of Capitalism」(資本主義の力)。ステークホルダー資本主義の重要性を説く。しかし、世界経済の脱炭素化は「千載一遇の投資機会」と語り、企業にネットゼロへの移行を推進しながらも、化石燃料からのダイベストメント(投資の引き揚げ)に消極的な姿勢は環境団体から批判を受けている。(翻訳=サステナブル・ブランド ジャパン)

ここ数年の手紙と同様に、フィンク氏は気候危機を含む社会的課題への取り組みにおける企業の役割について論じている。過去の手紙では、石炭排除の方針やブラックロックのCO2排出量を削減するための枠組みを紹介してきたが、今年の手紙ではそのことについて触れていない。

タイトルの「資本主義の力」について、同氏は「みなさまの企業と、その繁栄を支える従業員、顧客、サプライヤー、地域社会が相互利益につながる関係を築くことで実現する資本主義のことだ」と説明している。

「グローバルで相互につながる現代社会において、株主に長期的な価値をもたらすには、企業はすべてのステークホルダーのために価値を創造し、またすべてのステークホルダーからその価値を認められなければならない」

フィンク氏は今回の手紙で、投資先企業のCEOがステークホルダー、特に“従業員”と本物かつ透明性のある関係性を築くことが重要だと強調。また、世界中で従業員が雇用主に対しより柔軟な仕事、意義のある仕事などを求めるようになっていることを、「労働者が雇用主により多くを求めることは効果的な資本主義の本質的特徴だ」としている。

同氏は企業とステークホルダー、ステークホルダー・エンゲージメントと株主価値の関係をさらに探求していくために、調査・対話・議論の場として「ステークホルダー資本主義センター(Center for Stakeholder Capitalism)」を設立する方針も明らかにした。

手紙ではパーパスの重要性にも言及している。

「パーパスをステークホルダーとの関係の基盤と位置付けることが、長期的な成功の鍵となるだろう。従業員には、パーパスを理解し自身と結びつけてもらう必要がある。そうすれば、従業員は貴社の最も信頼すべき擁護者となる。顧客は以前にも増して価値観を共有する企業との取引を志向するようになっており、貴殿にとって価値があると信じるものは何かを知りたいと考えている。また株主は、貴社のビジョンとミッションの根底にある基本的な行動原則を理解する必要がある。貴社の戦略とその背景にあるものを株主が明確に理解していれば、貴社が困難に直面した局面で支えとなってくれるだろう」

一方で、運用ポートフォリオを通じてどのようにして具体的に脱炭素化を進めるかについての新たな戦略、気候変動を加速させている投資先企業が排出する膨大な温室効果ガスを削減する戦略については語らずじまいだ。

その代わり、環境団体が「ブラックロックは石炭やその他の化石燃料からの投資撤退を拒み、気候変動対策に取り組んでいない」と批判を高める声に応えるように、フィンク氏はネットゼロの未来のためにクリーンエネルギーを採用し拡大する必要性を説いている。

フィンク氏は「世界経済の脱炭素化は千載一遇の投資機会になるだろう。業種に関わらず、適応できない企業は取り残されることになる」と主張する。しかし、人々が信頼できる手ごろな価格のエネルギー源を利用し続けられるようにするために、クリーンエネルギーへのゆるやかな移行が重要だと詳細に語る。

「炭化水素燃料の需要を考慮することなく、燃料の供給面のみに制約を設けるような計画では、経済的に最も余裕のない人々が影響を受ける形でエネルギー価格が上昇することになる。さらに気候変動をめぐり世論が二極化し、これまでの進展を損なう結果につながる。特定のセクターからの資本の引き揚げや、炭素集約度の高い資産を上場企業から非上場企業へと単に移すだけではネットゼロを実現することはできない」

環境団体が問題視することとは

こうしたフィンク氏の脱炭素への中途半端な姿勢を環境NGOは問題視する。

「#BlackRocksBigProblem」は、ブラックロックのような資産運用会社に、気候変動対策を推進する世界の実現に向けてビジネスのあり方を迅速に変えていくよう求めるグローバルネットワークだ。日本にも支部のあるFriends of the Earth(FoE)やレインフォレスト・アクションネットワーク・ネットワーク(RAN)などが入っている。

「#BlackRocksBigProblem」の一団体、サンライズ・プロジェクトのシニアストラテジストであるケイシー・ハレル氏はこう語る。

「フィンク氏は手紙の中で、すべての人が求めるすべてのことに応えようとしている。しかし、それは真のリーダーシップではない。もし彼が気候変動懐疑論者に立ち向かわないのであれば、ブラックロックの投資する温室効果ガスの高排出企業の一部が、彼の言葉を借りると、不死鳥ではなくドードー鳥になった時にはどうするのだろうか?(手紙で、エネルギー転換によって業界が変革する時、貴社はドードー鳥のように絶滅の道をたどるか『不死鳥』になるか、と問う一文がある)今回の手紙は、フィンク氏が私たちの求めるリーダーだと思わせるものではなかった。ブラックロックが何をするのかについてより詳しく、具体的な意志を示して欲しい」

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とIEA(国際エネルギー機関)は地球の平均気温の上昇を1.5度に抑えるために、新たな化石燃料インフラへの投資をただちに停止するよう求めている。しかし「#BlackRocksBigProblem」によると、フィンク氏は、サステナブル投資が世界全体で4兆ドル(約460兆円)に達したことを強調する一方で、2021年1月の時点で、石炭への投資だけで世界全体で1兆ドル(約110兆円)を超えていたことには触れなかった。またブラックロックを中心とする投資家グループは2021年末、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと155億ドル(約1兆7000万円)の取引を成立させ、石油・ガスメジャーの天然ガスパイプライン子会社の株式49%を取得している。

運用資産額が10兆ドル(約1100兆円)を突破したウォール街の巨人ブラックロックは現在も、化石燃料や森林破壊を続ける企業の主要投資会社の一社であることに変わりない。

ユニバーサルオーナーの分析によると、ブラックロックが運用するわずか10%の資産が運用ポートフォリオ全体の温室効果ガス排出量の85%を占めると予測されている。それをどのように削減していくのか。「#BlackRocksBigProblem」は、ブラックロックが「ネットゼロコミットメント」で2021年の主要アクションとして掲げ、昨年末までに発表するとみられていた2030年までの中間削減目標が現在まで発表されていないことも指摘している。

フィンク氏は手紙の結びで「多様なステークホルダーの相反する利害に対応することは容易ではない。CEOとして実感するところだ。この二極化した世界では、CEOはある行動を求めるステークホルダーと、まさにそれと正反対の行動を要求する別のステークホルダーに常に対峙することになる。だからこそ、企業と経営陣にとって “パーパス”がこれまで以上に重要になる」と綴っている。

ステークホルダーの利害調整が容易ではないことに異論はない。しかし、石炭火力に投資する銀行との取引をやめる消費者が増えはじめ、同業の米バンガードが気候変動対策の不十分さを指摘され、英金融大手HSBCが石炭関連の融資を段階的にやめることを明言している今、ブラックロックはリーダーから遅れをとることになるだろう。