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自然界の仕組みを模倣する「バイオミミクリー」技術で衣類廃棄物の削減目指す

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生物学者ジャニン・ベニュス氏が率いる米バイオミミクリー・インスティチュートは、生物や自然の仕組みを模倣する「バイオミミクリー(生物模倣)」を教育や文化、産業に取り入れることによって社会的課題の解決に取り組む研究所だ。このほど、有機物が自然界において分解される仕組みを取り入れた設計「分解するデザイン(Design for Decomposition)」によって、年間9200万トン発生しているというアパレル産業からの廃棄物削減を実現し、さらに世界中に拡大できるような新しい解決策を確立すべく実証実験に乗り出した。(翻訳=井上美羽)

ジャニン・ベニュス:行動するバイオミミクリー

バイオミミクリー・インスティチュートが2020年に発表した報告書『ファッションの本質(The Nature of Fashion)』では、「分解」をこの分野の持続可能性におけるミッシングリンク(失われた環:生物の進化の過程で化石や痕跡が見つかっていない、連続性が失われた部分・間隙)であると指摘していた。今回のプロジェクトは『ファッションの本質』に続く重要なプロジェクトとなる。

バイオミミクリー・インスティチュートは、ローデス財団(Laudes Foundation)、香港繊維アパレル研究センター(HKRITA:Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel)、イェール大学のグリーンケミストリー・グリーンエンジニアリング・センター(Yale Center for Green Chemistry and Green Engineering)、メタボリック研究所(Metabolic Institute)、オア財団(The OR Foundation)、セレリーデザイン事務所(Celery Design)とともに、新しい技術の実証実験をする予定だ。これに伴い、バイオミミクリー・インスティチュートはスイスのローデス財団から250万ユーロ(約3億円)の助成を受けている。

実現を目指す今回の技術によって、廃棄された衣類や繊維製品を環境に有害な影響を与えることのない生体適合性のある性質に転換することができる。この複数年にわたる取り組みを広範囲に拡大させるには時間がかかるが、まずは、分解技術が商業的に実現可能かどうかを欧州とガーナでパイロット実験を行い検証する。

バングラデッシュの廃棄された繊維の山 (bdspn)

今回の取り組みでは、まず自然分解のさまざまな種類と環境に関する生物学的調査を進め、それらの方法を既知の数百の分解技術と照らし合わせて、どれが最も自然に近いモデルかを導き出す。パイロット実験の段階では、毎週約1500万着の使用済み衣類を受け入れているガーナのアクラや、アムステルダムやベルリンなど廃棄物マネジメントのインフラが整備された都市で、これらの方法を検証する予定だ。同時に、イェール大学の研究者たちが、何がどのように分解されるのか、という実態を明らかにする研究を行う。

イェール大学グリーンケミストリー&グリーンエンジニアリングセンター長のポール・アナスタス博士は、「そうした環境中での分子の分解の割合や速度を調べることは、私たち自身の健康や環境の健全性に対するリスクを考える上で非常に重要です。現在は化学物質の生分解性を評価する試験法が開発され、日常的に使われていますが、これらにはいくつかの限界があり、実際の環境における化学物質や物質の末路を予測することは困難です」と説明する。「目標は、その不足を埋めることです」。

欧州では一人あたり年間約11キロの衣類を廃棄

78億人の人口に対して毎年1000億着の衣服を生産するグローバル産業による悪影響を少しでも防ぐために、ファッション業界には新しいアプローチが必要だ。過去25年間、EUでは価格の急落に伴い、一人当たりの衣料品購入量が40%増加していた。

欧州では一人あたり年間で平均約11キロの衣類を廃棄しているとされる。古着はガーナのアクラなどの街に海外輸送されるが、約87パーセントは焼却または埋め立てられている。焼却か埋め立て処分された衣服の中には、次の持ち主がいることを期待して寄付された衣類も含まれている。

しかし現状、埋立地は閉鎖され、新しい埋立地を設けるにはコストがかかりすぎ、焼却炉は二酸化炭素排出の問題で注視されているため、この問題を解決するための新しい選択肢、あるいは非常に古い選択肢がますます必要になってきている。

リジェネラティブなファッション産業を実現するには

自然界の分解者「きのこ」( Olli Kilpi )

「自然界には一次生産者、消費者、分解者がいて、常に分散、拡散を繰り返しています。この3つが揃わなければ、生命のリズムは生まれません」と、バイオミミクリー研究所のエグゼクティブ・ディレクターであるベス・ラットナー氏は語る。

「ファッション産業が地球にとって良い存在になろうとするなら、同じように自然の法則に従わなければなりません。目指すべき北極星は、新しいシャツになるシャツをつくることではなく、再生型の(リジェネラティブな)ファッションのシステムを成り立たせるシャツなのです」

さらに、マイクロプラスチック汚染のうち3分の1以上は毎年衣類が原因で、量にして年間約50万トンに及ぶマイクロプラスチックが海洋に流出している。レザーやナイロンなどの植物由来の代替素材が人気を集めている一方で、衣料品の60%以上は依然としてプラスチック由来(ポリエステル、ナイロン、アクリル、フリース、スパンデックスなど)で、ほぼすべての衣料品が有害な加工、染料、コーティングが施され製造されている。

ファッションや繊維廃棄物に対する循環型のソリューションも普及し、少なくとも素材の耐用年数は延びているが、この取り組みが目指すのは「分解」だ。今回の取り組みは「消費者の出す廃棄物は、有害でないものに分解されるのか?」という問いに応えようとしている。幸いにも、カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所、ガーナ大学、イェール大学の毒物学に関する専門家パートナーのおかげで、すべての分解技術はこの観点から精査される。

メタボリック研究所のサバンナ・ブラウン・ウィルキンソン氏は「製品寿命を終えた廃棄物の管理は、生物圏と技術圏の接点に位置する壮大かつ複雑な問題です。私たちは、消耗品に含まれる無数の天然・合成物質を処理するための代替手段を見つけなければなりません。これは、産業トランスフォーメーション(転換)に関する現在の議論で、重要ながらも十分に説明されていない部分であり、リジェネラティブで包括的、かつ循環型のバイオエコノミー(生物経済)をいかに設計していくかにおいて重要な役割を果たすでしょう」と語る。

ローデス財団は、ファッション・繊維業界に大きな影響を与える優れた革新的取り組みを支援しており、その取り組みをさらに後押しするために、カタリスト(触媒)投資(相場を大きく動かす端緒となる最初の投資)を行った。

同財団の素材部門長であるアニタ・チェスター氏は「分解によって衣服を自然の資源循環サイクルに戻すことができると実証することは、ファッションとその関連業界にとって強力な証明となり、業界がこれまで行ってきた環境破壊を覆すための大胆な一歩となる。今回のパイロット実験で、ファッション産業全体に生体適合性の高いソリューションを広げていくための足掛かりとなるような革新的な実証実験の結果が出ることを期待しています」と話す。

本プロジェクトを推進するパートナー企業は、高度な分解技術が一定の地域で利用可能であることを証明し、将来的には、そのパイロットモデルを拡大し、世界的に既存の構造を変えることが可能だということを証明するという次のステップにも踏み出す予定だ。香港繊維アパレル研究センターのCEOであるエドウィン・ケー氏は、これだけ壮大なスケールの構想と、この膨大な量の廃棄物に対処する目標について「これほど野心的なことはない」と言う。

今回のプロジェクトでは、消費者が使用した後のファッション産業による廃棄物の処理に取り組むパートナー、技術、実験場所、資金提供者を募集している。
d4d.biomimicry.org