サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ニューヨーク、気候変動対策に変革をもたらす「コンブ法案」

  • Twitter
  • Facebook
Scarlett Buckley
Plateresca

米ニューヨークで今年6月、コンブの養殖が合法となった。コンブ養殖は、炭素や窒素の固定化、土壌改善、河川の浄化、雇用の創出など、気候変動問題を解決するためにいくつものメリットを提供できる新たな環境エンジニアリング事業だ。(翻訳=井上美羽)

「海の熱帯雨林」とも呼ばれる海藻の一種であるコンブは、気候変動に対抗するための強力な武器となる可能性を秘めている。それにもかかわらず、ニューヨーク州ロングアイランドでのコンブの商業的な養殖は、これまで長い間、違法とされてきた。

コンブは多くの栄養価を持つスーパーフードである上に、海洋生態系における重要な役割を担っており、驚異的な成長速度と炭素吸収能力(1エーカーあたり、陸上の森林の20倍ものCO2を吸収する)を持つことなどから、リジェネラティブ(再生可能)で気候変動に強い最先端の農業分野として大いに期待されている。

コンブには気候変動を緩和する強力な効果があるにもかかわらず、ロングアイランドの法律では、ニューヨークの海岸線でコンブを養殖することはできなかった。しかし今年、ペコニック湾とガーディナーズ湾での貝類養殖を許可するという既存の法律に海藻を追加した「コンブ法案 (The Kelp Bill)」によって、状況は一変した。

ロングアイランドの海藻を原料に、健全な肥料や近年、欧州などで注目されている新しい農業資材「バイオスティミュラント」を製造しているモントーク・シーウィード・サプライ(Montauk Seaweed Supply Company)の創設者であるシーン・バレット氏は、この新しい法律がニューヨークのコンブ養殖の将来にとってどのような意味を持つのか、語ってくれた。

「これは革命的な進歩」とバレット氏は言う。「この法案により、商業的なコンブの養殖が初めて可能になり、海洋資源を守りながら持続可能な経済循環を目指す『ブルーエコノミー』をニューヨークにおいてさらに発展させる重要なきっかけとなります。改正された法案によって、地元のコンブ農家とその周辺地域の経済も豊かになります」。

さらに、コンブの養殖は、地域の経済活性化だけでなく、炭素や窒素の固定化や、土壌改善、河川の有害物質を植物の働きを利用して除去する環境再生技術「ファイトレメディテーション」、雇用の創出など、科学的根拠に裏付けられた有効な環境課題の解決策でもあり、自然を利用した気候変動対策の武器になると説明する。

では、コンブの養殖が合法化されるまでに、なぜこれほど時間がかかったのだろうか。バレット氏によると、社会における関心の低さ、経済的な実現可能性への懸念、海の景観が損なわれることを恐れて沿岸部の住宅所有者が海洋養殖に抵抗していることなど、いくつもの障壁が次々と現れ、行く手を阻んでいたのだという。しかしこのような阻害要因にもかかわらず、バレット氏と彼の研究チームは、規制の壁を取り除き、長期にわたる研究要件をクリアするために尽力した。

「こうしてさまざまな障壁を一つひとつ対処していかなければならなかったため、スピード感を維持できず、実現に至るまでに時間がかかっていました。しかし今ではありがたいことに、そうした要因はもう昔の話です」

モントーク・シーウィード・サプライは、規制の問題が過去のものとなったことで、地元の農家にこの産業への参加を促し、窒素固定や炭素吸収の働きを持つコンブの養殖を開始することができるようになった。コンブの養殖が地域の生態系だけでなく世界的にも切実に必要とされていることは言うまでもない。

化学肥料は、最終的には環境を悪化させるものだ。すぐに土壌に栄養分を放出するため即効性はあるが、害虫や病気が発生しやすくなり、さらに肥料が必要になるという壊滅的なサイクルを生み、結果的に環境を疲弊させる。また、河川を汚染する主な原因の一つでもある。化学肥料の流出は、河川に過剰な栄養素(リンや窒素)をもたらし、藻類の発生や水中の生態系バランスを崩し、その結果、酸素濃度を低下させ魚や水生生物を死に至らしめる。

養殖したコンブや野生の海藻を有機肥料に

水中の生態系を回復させるためには、化学肥料を排除することが不可欠だ。コンブを原料とした肥料は、有機・無害・再生可能な素材であり、化学肥料による生態系の破壊を食い止めることができる。

化学肥料をやめて有機肥料に切り替えることは、土壌の健全性や生物多様性に加えて、二酸化炭素排出量の削減を目指す企業にとっても大きな意味を持つ。

「ビジネス業界が一斉に、そして積極的かつ長期的に取り組まなければ、二酸化炭素排出量の削減目標を達成することはできません。世界中の人々が自分のお金をどこに使うかを慎重に決めることで、変化への投票を始めることができるのです」(バレット氏)

近年、コンブの養殖が合法化されたことで、バレット氏と彼のチームは、農家やその周辺地域に向けて、より大規模に海藻肥料を使用することを働きかけることができる。商業用の海藻市場は、2027年には950億ドル(約10兆円)を超えると予想されており、将来の需要予測を確実に満たすためには、インフラの整備が必要だ。

「コンブや海藻は、国際社会が切実に必要としている貴重な物質の再生型の供給を可能にし、世界中の人々に無限に近い資源を提供することができるだけのポテンシャルを持っていると信じています。私たちは、世界的な需要の高まりに合わせて、今後数年間でコンブ養殖業が飛躍的に成長することを期待しています」とバレット氏は語った。