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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

気候危機の時代に、消費者に勇気を与えられるブランドになるには

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India Doyle
kurosuke

地球環境の危機がもたらす不安を「ソラスタルジア(solastalgia)」と呼ぶ。気候危機の影響が急速に拡大している今、企業は気候危機対策を率いる立場であると同時に、人々にポジティブな選択を促す役割を担うべきだ。(翻訳=井上美羽)

2021年の夏は、約束されていたような「ホット・ヴァックス・サマー(Hot Vax Summer:ワクチン接種を受けた人が、自由に外に遊びにいくことができることを期待した2021年の夏のこと)」ではなかった。それどころか、気候非常事態の影響でわれわれに残された時間がないことを実感する夏となった。

ドイツの洪水、ギリシャの荒れ狂う森林火災、米国西部を襲った気温上昇と山火事、パキスタンの記録的な湿球温度など、気候変動による壊滅的な災害をリアルタイムで目の当たりにし、「新常態(ニューノーマル)」が実際にどのようなものなのかを知ることとなった。

世界経済フォーラムによると、パンデミックの間、人々は自然とのつながりを強め、地元で生活することを受け入れていたため、パンデミック後に86%の人々がより持続可能な言葉を求めているという事実も驚く結果ではないだろう。

ソラスタルジアの時代には、企業・ブランドはより慎重なアプローチが求められる。気候科学者で作家のケイト・マーベル氏は、2018年にこう述べていた。

「私たちに必要なのは、希望ではなく勇気です。悲しみは、結局のところ、生きていることの代償です。私たちは皆、悲しみに満ちた人生を送ることを運命づけられており、その悲しみがあるために人生の価値が下がることはありません。勇気とは、ハッピーエンドが保証されていなくてもうまくやっていこうという決意です」(The On Being Project)

環境への不安や気候危機への悲しみが増すにつれ、人々は継続的なサポートを探し求めている。では、企業はどうすれば世の中の人に勇気を与えることができるのか。気候危機に対する不安や絶望感が高まる中、企業は口約束ではなく、変化のための意味のある戦略を打ち出す必要がある。

消費者との信頼関係を再構築する

持続可能な行動を促すための重要なポイントは、企業がいかにして理想と実際の行動のギャップを埋めるかということだ。2020年に行われたピュー・リサーチ・センターの調査によると、米国人の64%が環境保護を政府の最優先事項とすべきだと考えている。気候変動を否定する少数派も存在するが、地球の温暖化は、もはや議論を巻き起こす文化的問題ではない。

しかし残念なことに、気候変動に関する国民のコンセンサスがあっても、環境に配慮した行動をすぐに実行できるわけではない。人々がより環境配慮を意識した習慣を身につけるためには、価格、利用のしやすさ、利便性といったいくつかの障壁を乗り越えなければならないのだ。

消費者の行動を促すためには、企業はまず消費者と信頼を築くことが必要だ。最近の調査では、Z世代の73%が持続可能な製品に対してより多くのお金を支払っても良いと考えていることがわかっており、これは注目すべき点だ。しかし、より多くの投資をするということは、企業がその価値を得るために信頼を得る必要があり、有言実行を約束しなければいけない。

持続可能性(サステナビリティ)という言葉だけが先行し、誤解してしまう消費者もいるため、それを避けるためにもまずは消費者との信頼関係を築く必要がある。メッセージはよりシンプルに、そして透明性を優先することが重要だ。

例えば、高級ライフスタイルブランドのESGに関する取り組みなどを評価するポジティブ・ラグジュアリー(Positive Luxury)が運営するバタフライマーク認証は、持続可能な取り組みの信頼のある指標として、企業と提携して各社の生産方法を保証するために作られた。認証ラベルのようなシンプルなものは、雑音を除き必要な情報だけを取り入れる上ではかなり効果的だ。2万3000人のヴィーガンを対象にした調査では、91%の人が、ヴィーガン認証を取得している商品につけられる「Vスタンプ」を確認した上で購入していると答えている。持続可能性についてもヴィーガン認証と同様のチャンスがあるだろう。

美容情報誌『アルーア(Allure)』は透明性を高めるために別の角度からアプローチしている。雑誌内で誤ったエコ用語を使用しないことを約束し、グリーンウォッシュに対抗している。『アルーア』は、リサイクル、グリーン、コンポスト可能、生分解性などの用語の定義を曖昧にして誤解を生まないよう、誌面上で持続可能性にまつわる言葉を使う際に、明確な定義を定めている。例えば、どんなプラスチック素材に対してもリサイクル可能という言葉は使わない、グリーンは「緑」という色を表現する際にのみ使う、また、家庭内で90日以内に堆肥になるものに対してのみ「コンポスト可能」という言葉を使う、などだ。編集部はこう説明する。

「私たちには、美を追求する裏側で無駄になっている現実問題を理解し対応するためにすべきことがあります。まず自分たちのスタンスを示すことは始めの第一歩であり、必要なことです」

この危機に対応する新たな言葉が求められている

実際、気候危機という新しいパラダイムに対応する中で、人々が直面している課題に意味を与える新しい言葉が必要とされている。例えば、科学者のブルース・エリクソン氏は、最後の一匹となった動物を意味する「エンドリング(endling)」という言葉を作った。名前をつけることの意義について、エリクソンは次のように語っている。「われわれは、無視するべきものに対しては名前をつけません。名前をつけることで、これまで存在しなかった意味が生まれるのです」。気候危機によってもたらされる悲しみに対応するために使う言葉は、否定する言葉と同じくらい重要だ。

われわれは、パンデミックの経験から、人々は世界的な危機の際には企業に頼ることが分かった。昨年3月に行われた調査では、78%の人がパンデミックの際に企業が日常生活を支援すべきだと感じていた。

企業の偽りの約束には大きなリスクが伴う。グリーンウォッシュは、環境保護への取り組みに対する自信を失わせ、消費者の前向きな意思を打ち砕き、不満や無力感、混乱を与えてしまう。

一方で、時間をかけて自社のサプライチェーンを調査し、その過程を詳細に把握している企業は、信頼を勝ち取ることができる。例えば、ボディーソープを製造販売する米企業、プラス(Plus)では、「無駄をなくし、マジックを引き起こそう(Less Waste, More Magic)」というスローガンを掲げ、パッケージが堆肥化されるプロセスや輸送に関する情報まで、商品のサプライチェーンの全ての情報をウェブサイト上で丁寧に説明している。さらに、こうしたブランドの商品ができ上がるまでの過程を見せることで、透明性の高さを確保するだけでなく、環境に配慮した行動を消費者が簡単に行えるようになる。

しかし、環境は単独で存在するものではない。企業が真の意味で力を発揮し、変化の中で重要な役割を果たすためには、インターセクショナリティ(差別や周縁化は、人種や民族性や性別などの差別の要因が複雑に交差(インターセクト)して生じているとする考え)の観点から環境活動を追求する必要がある。

人種差別や貧困といった問題は、有毒な空気や汚染された水にさらされる危険性と直接的な相関関係がある。また、世界が温暖化するにつれ、1.5〜2℃の温暖化による影響を受けるのは南半球の人々であるという調査結果も出ている。つまり、意味のある戦略とは、気候危機に内在する不平等性を認識し、それに対処する多面的なアプローチをとることなのだ。

ガールフレンド・コレクティブ(Girlfriend Collective)は企業が先導的な役割を果たしている良い例だ。ガールフレンド・コレクティブは、リサイクルされた漁網や、天然素材を原料に作られている再生繊維であるキュプラを使用してスポーツウェアを製造し、収益の一部をブラック・ライブズ・マター(アフリカ系米国人に対する警察の残虐行為をきっかけに始まった人種差別抗議運動)を支援する団体に寄付することで、インターセクショナリティへの配慮を示している。また、パタゴニアのフットプリント・クロニクル(Footprint Chronicles)では、パタゴニアが製造する製品が環境と地域社会の両方に与える影響を可視化している。

持続可能な循環型の容器再利用サービス、ループ(Loop)のEコマース兼マーケティング責任者のヘザー・クロフォード氏は、「本質的なパーパス(存在意義)と動機を持った活動的な企業は増えてきており、人々が社会に貢献していると感じることはとても重要なことだ」と述べている。危機に直面したときの勇気を育むためには、透明性を意識した取り組みや、インターセクショナルな活動による信頼、そして繰り返し改善するという不断の努力が、困難な時代に希望と力を与えてくれるのだ。