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スペイン・セビリア:街路樹の廃棄オレンジから電力をつくる

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Scarlett Buckley
セビリア (Mateusz Plinta)

スペインのアンダルシア地方にある都市セビリアでは、春になるとオレンジの花とリモネン(柑橘系の皮に含まれる成分)の甘い香りがする。しかし冬の時期は、そんなに甘いものではない。570万キロもの行き場がない果物が街中で散らばっている。4万8000本の街路樹のオレンジの木から出たオレンジは食べるには苦すぎるため、セビリアの人たちにとって混乱と不便のもととなっている。オレンジの一部はイギリスに運ばれ、グランマニエ、コアントロー、マーマレードに加工され、皮はビターズに使われる。しかし、あまりの量の多さに、セビリア市は大量に残ったオレンジを処理する方法を模索している。(翻訳=梅原洋陽)

市の環境部門の責任者であるベニグノ・ロペス氏は、「果物は落ちても、廃棄物になるべきではありません。適切な計画と管理があれば、オレンジは環境への影響を最小限に抑えながら、セビリア市に大きな価値を与えてくれるはずです」と言う。

そしれまさにこれこそが、市営の水道会社エマセサ(Emasesa)が実現していることだ。下水処理場のテクノロジーを活用しながら、同社は不要なオレンジを回収し、共消化や共嫌気性処理と呼ばれる過程を通じ、グリーンエネルギー(グリーン電力)に作り替える試験的プロジェクトを開始した。

ロペス氏は「オレンジを絞った果汁は下水処理場の消化槽に送られます。そして、消化槽内に存在するバクテリアによって有機物が分解される、生物学的プロセスを通過します。このプロセスは基本的には、酸素の不足によって引き起こされます」と説明する。

セビリア (Jacek Ulinski)

オレンジの皮に含まれるリモネンは抗菌作用があり、皮を消化する際にバイオガスの発生を抑制する。しかし、オレンジを予め処理し、リモネンを消化プロセスの前に取り除くと、嫌気性発酵というプロセスを経て、オレンジから排出されるメタンガスの量が増える。そして、バイオマスから気体燃料となり発生したメタンガスは、電力発電の燃料として活用できる。

エマセサは約200人の作業員の手を借りて、オレンジを手作業で収穫している。ロペス氏は「街全体のさまざまな場所にオレンジの木が不均一に存在しているので、この方法が一番経済的な方法です。道路や広場などに散らばっているオレンジの木、一本あたりから取れる実の量も45キロから130キロとさまざまです。そして回収されたオレンジは電力に変換されます。1000キロのオレンジごとに50kWの電力が発電でき、これはだいたい、5世帯の1日の電力消費を補える量に相当します」と言う。

エマセサは、自社の下水処理場がサーキュラーエコノミー(循環型経済)の基準になるものだと自負しており、コペロ下水処理場はいずれ環境イノベーション・センターになるだろうと期待している。

エマセサの環境管理・気候変動部門の責任者であるアルベルト・オルティス氏は「この場所がエネルギー自給に十分な電力量を生み出しながら、水や廃棄物の処理に関する革新的なソリューションを提供していける場所になっていくことを期待しています」と言う。

そして、エマセサは下水処理場のスラッジ(産業排水や生活排水の下水処理時に副産物として作られる半固体の物質)とセビリアの公園や庭園からのバイオマス(剪定枝)を回収して、質の高いコンポストを作る計画もしている。

ロペス氏は「廃棄物と有機物負荷(OLR)の高いものとの共同消化を促進したいと考えています。そして、より多くのバイオガスを発生させるために、水を利用する前処理(沈殿)から出る廃棄物(砂や浮遊物)を利用して、市内で発生した都市固形廃棄物の消化ができないかを調査していく計画です」と説明した。

バイオ燃料を使用することによる、環境への影響をエマセサに尋ねると、大部分ではポジティブだという答えだった。しかし、オルティス氏は「エネルギー効率がとても低くなることがあります。また、廃棄物が蓄積されること(多く必要なこと)もあります。例えば、私たちの施設だと、プレスしたパルプの重量の45%−50%を合成して使用する必要があります」とも言う。

さらに、オルティス氏はバイオ燃料の複雑さについても説明する。

「一番の問題は燃料にすることです。発生したバイオガスを、バイオ燃料として使用するには精製、そして変換が必要です。このプロセスには設備や技術への投資が不可欠であり、とてもコストがかかります」

それでも、メリットがデメリットを上回り、エマセサはサステナビリティを追求し続けている。スペインは環境保護と再生可能エネルギーに大きな投資をしている。そして2018年に政府は、2050年までに再生可能エネルギーを100%にするという野心的な計画を開始した。エマセサのような取り組みは、この政府の計画の成功を後押しするはずだ。